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その15. 計画と決意
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経験の浅いスタッフが気難しい客の対応をし、ちょっとした言葉のアヤから相手の機嫌を損ねてしまった。よくあるトラブルだ。彼女から美晴に代わって対応をしてしばらく客に捕まり、そこからフィードバックと一通りこなした頃にはすでに十二時半を過ぎていた。いつもの時間にランチに行こうとした直前のことだったので、あっという間に一時間以上経過したことになる。
毎週水曜日を外ランチと決めたのは美晴自身なので明日明後日も外に出かけることは可能だが、両日とも職場のメンバーとお別れランチを約束をしていた。健斗と昼に会えるのは今日が最後だったのだが、つぶれてしまった。私情を挟むわけにはいかないので表面には決して出さないが、やはり内心では気落ちする。
「美晴さーん、お昼戻りました」
自分の代わりに先に昼休憩を取ってもらった新菜が戻ってきた。美晴の顔を見ると、こっそりと訊いてくる。
「浮かない顔してますけど、さっきの苦情案件、手こずりました?」
さとい新菜には表面の取り繕いは通用せず、美晴は自分の未熟さに頭を抱えたくなる。それでも最後の矜持として、自分の顔の浮かない理由を誤魔化すことにした。
「そっちは収まったので、関係無し。ランチの店をどれにしたらいいかなって、ちょっと悩んでいただけよ」
昼休憩中に好きな男に会うつもりが出来なくなって落ち込んでいます、などと会社で言える訳もない。
「そうか。一人で行くの、今日がラストですもんね」
新菜はその場で美晴が思いついた悩みを素直に信じ、うーんと一緒に悩みだした。
「あ。南華飯店がいいんじゃないですか」
「南華飯店?」
言われて美晴は思わず眉をひそめてしまう。一ヶ月ほど前、健斗と二人で入ってうっかり夫婦喧嘩に立ち会ってしまった、あの時の中華料理屋の名前だ。そこを最後のランチにするのは、どうにもためらわれる。
「あれ? 美晴さん、あそこの小籠包食べたことないんですか? 美味しくて、結構有名なのに」
「え、そうなの?」
「業務用の冷食じゃなくて、お店できっちり作っているんです。中の餡の汁が甘めなのが普通とちょっと違って美味しくて。注文してから蒸すから、お昼のピーク時に頼むと時間との勝負になっちゃうんですけど、そろそろ一時になるし、そんなに待たずに食べられるんじゃないかな。今がチャンスですよ」
お店の回し者かと思うような新菜の口上に乗せられ、こうして最後のおひとりランチは南華飯店に決まった。
◇◇◇◇◇
毎週水曜日を外ランチと決めたのは美晴自身なので明日明後日も外に出かけることは可能だが、両日とも職場のメンバーとお別れランチを約束をしていた。健斗と昼に会えるのは今日が最後だったのだが、つぶれてしまった。私情を挟むわけにはいかないので表面には決して出さないが、やはり内心では気落ちする。
「美晴さーん、お昼戻りました」
自分の代わりに先に昼休憩を取ってもらった新菜が戻ってきた。美晴の顔を見ると、こっそりと訊いてくる。
「浮かない顔してますけど、さっきの苦情案件、手こずりました?」
さとい新菜には表面の取り繕いは通用せず、美晴は自分の未熟さに頭を抱えたくなる。それでも最後の矜持として、自分の顔の浮かない理由を誤魔化すことにした。
「そっちは収まったので、関係無し。ランチの店をどれにしたらいいかなって、ちょっと悩んでいただけよ」
昼休憩中に好きな男に会うつもりが出来なくなって落ち込んでいます、などと会社で言える訳もない。
「そうか。一人で行くの、今日がラストですもんね」
新菜はその場で美晴が思いついた悩みを素直に信じ、うーんと一緒に悩みだした。
「あ。南華飯店がいいんじゃないですか」
「南華飯店?」
言われて美晴は思わず眉をひそめてしまう。一ヶ月ほど前、健斗と二人で入ってうっかり夫婦喧嘩に立ち会ってしまった、あの時の中華料理屋の名前だ。そこを最後のランチにするのは、どうにもためらわれる。
「あれ? 美晴さん、あそこの小籠包食べたことないんですか? 美味しくて、結構有名なのに」
「え、そうなの?」
「業務用の冷食じゃなくて、お店できっちり作っているんです。中の餡の汁が甘めなのが普通とちょっと違って美味しくて。注文してから蒸すから、お昼のピーク時に頼むと時間との勝負になっちゃうんですけど、そろそろ一時になるし、そんなに待たずに食べられるんじゃないかな。今がチャンスですよ」
お店の回し者かと思うような新菜の口上に乗せられ、こうして最後のおひとりランチは南華飯店に決まった。
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