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その16. 解禁の勧め

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 飲んだ量はビールを三杯ほどと大したことはなく、過去に美晴と何度か飲みに行ったことのある新菜が驚くくらいの弱さだった。会場でも特に酔った様子は見せなかったものの、公園から駅まで歩くうちに次第に酒が回り、駅についた途端にトイレに駆け込み、今に至る。

「美晴さん、今月に入って職場が変わったんだろ? 色々と疲れが溜まっていたのかも知れないな」
「ああ」

 久し振りに会えた嬉しさで、健斗は酒の解禁を提案した。だがもっと、彼女のコンディションを考えてから言えば良かったのかも知れない。

 心の中でぐるぐると後悔が押し寄せ、じっと見守る先の女子トイレから、新菜と美晴が戻ってきた。

「美晴さん」
「ごめんなさい……」

 そこまで言うと気持ち悪くなったのか、美晴が眉を寄せて黙り込む。

「どこかで休憩した方がいいんじゃないか?」
「大丈夫。電車に乗れるくらいには回復したから、帰れる……」

 本人の言う大丈夫ほど信用ならないものはない。

 三人の頭に格言が浮かんだ。明らかに大丈夫ではない美晴を見つめ、陽平が指示を出す声で健斗に聞いてくる。

「健斗の家、ここから電車で一本だよな」
「ああ」
「美晴さん、お前んちに連れていけ。これ、一人で帰しちゃいけないやつだ」

 健斗は思わず目を見開いて陽平を見た。美晴を送ってゆくつもりはもちろんあった。だが、こんな状態の彼女から住所と行き方を聞き出し、家に送り届けるのは難易度が高い。それにその後、一人暮らしの美晴が家の中でどんな状態になるのか分からず気を揉んでしまう。それなら陽平が言うように、自分の家に連れ帰って介抱するほうが、はるかに手っ取り早いし安心できた。

「私も陽平くんも、乗り換えで先に電車降りちゃうから。美晴さんのこと、くれぐれもよろしくね」

 新菜にも託され健斗は無言でうなずく。美晴を見てみると、真っ青な顔でハンドタオルで口元を押さえ、じっと目をつむって立っていた。時折ふらつくので、新菜が腕を組んで支えている。

「座らせたいし、ともかく早く帰ろう」

 そう言うと健斗が美晴の肩を抱き、新菜に変わって支えに回った。


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