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その17. 土曜日の夜は

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「美晴さん、疲れたまっていたんじゃないかって陽平に言われた。俺、全然気付かなくって……。ここで休んでいってもらいたいんだ。俺が、心配だから」
「健斗」
「あ、もちろん、なにもしないんで!」

 後悔と不安と焦りに満ちた表情で、懇願する。まるでやらかしたのは自分の方だと言わんばかりの健斗の態度。そんな彼の胸に抱きつきたい衝動に駆られ、美晴は下唇を噛み締めそれを押し留めた。

「……体調管理も出来ないなんて、社会人失格だよね」
「十月入って環境が変わったんだから、仕方ないです。あと美晴さんのことだから、自分を紹介するにあたって神経使ったんじゃないかなって、新菜ちゃんが心配してました」
「そっか……」

 三人に気遣われている。そう思うとまた申し訳無さに落ち込んで来る。健斗はそんな美晴の些細な表情も見逃すまいと、ずっと目をそらさず見つめていた。

「今日はここに泊まってください」

 もう一度、健斗が繰り返す。声は静かに深く、美晴を帰す気はないことを示していた。決意の固さに圧され、美晴はしばらく無言で健斗を見つめ返すと、ゆっくり息を吐き出す。

「分かった。お邪魔します。本当にごめんなさい」
「俺が泊まって欲しい、」

 何度も繰り返そうとする健斗の主張を首を振って止めさせると、美晴はクスリと小さく笑った。

「ありがとう。お言葉に甘えて、泊まらせてもらう」

 ほっとする健斗に、美晴は言葉を続けた。

「それでね、シャワー借りたいのと、その前に近所にコンビニとかあるかな」
「コンビニ」
「泊まるためのもの、なにも持ってきていないから」

 日中は屋外で、汗と潮風と煙に燻されていた。泊まるのならせめてシャワーを浴びてさっぱりしたいし、着替えもしたい。それにはコンビニで買い物が必要だ。

「じゃあ今から風呂を準備するんで、お湯張っている間に一緒にコンビニ行きましょう」
「場所教えてくれたら、一人で行くよ?」
「夜中に一人でなんて、行かせられないです」

 きつめの口調に驚いて、反射的にビクリとする。そんな美晴を見て、健斗が慌てて言葉を足した。

「女の人が一人で出歩いていい時間じゃないから」
「分かった」

 体調管理が甘いのも、酒に酔ったのも、みっともない姿を晒したのも全部、自業自得。それなのに健斗は美晴をずっと労って、心配してくれている。その心が嬉しくて、縮こまった心が少しずつほぐれていく。

 アパートを出てすぐ近くのコンビニに行くと、基礎化粧品のお泊りセットと下着を買った。流石にショーツ以外の衣類は置いていないので、飲料品コーナーにいる健斗に声をかける。

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