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その17. 土曜日の夜は

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「健斗のパジャマとか、貸してもらえる?」
「パジャマ?」
「Tシャツとスウェットパンツとかでも構わないんだけど」
「え、あ、ああ」

 うなずくと、健斗があらぬ方向を見てなぜかソワソワしだした。なんとなく想像していることが分かったので、先に釘を刺しておく。

「彼シャツとかしないよ? ちゃんと上下で貸してね」
「……分かってます」

 そう返事しながらも、ガッカリ感を隠しきれない。健斗のそんな反応につい笑いが起こってしまう。そして酔ってそれどころではなくなった、自分の密かな計画を思い出した。

 健斗に告白すること。

 相手はすでに自分に好意を寄せ、付き合ってほしいと言ってくれている。そんな彼の家に泊まり、二人きりの部屋の中で、自分も好きだと伝えるのだ。直前までの失態を振り返ると穴があったら入りたいくらい恥ずかしいし情けなくなるけれど、それだけに囚われてせっかくの機会を逃したくない。きちんと、自分の心を伝えたい。

 しだいに高まる鼓動を抑えるように、美晴は胸の前で拳を握った。




 ◇◇◇◇◇◇◇




「お風呂先にいただきました。ありがとう」

 お風呂からあがると美晴は健斗に声を掛けた。

「お湯替えていないけれど、よかった?」
「いいです。俺もすぐ入るし」

 返事する健斗の耳が赤くなっていて、動きがギクシャクとしている。美晴を意識しての反応。あえて気づかぬ振りでやり過ごすが、美晴の気分はしだいに浮き立ってきた。お風呂に入ってさっぱりしたのも大きい。あと、寝させてもらったのも良かった。本社に戻って一週間、気の張った状態で働き続け夜も眠りが浅かった。悪酔いの結果とはいえ昼寝をしたことで、体調不良が治まっている。

「部屋着も貸してくれてありがとう」

 そう言って全身が健斗に見えるように両手を広げてみせた。美晴が着るとぶかぶかのTシャツとスウェットパンツ。なんだか学生の部活着のように見えなくもない。健斗の期待するような色気をアピールすることは出来ないなと美晴は思ったが、なぜかこんな格好でも健斗は眩しそうに目を細め、慌てて視線を外した。

「じゃあ俺、風呂入るんで、先にベッドで寝ていてください」
「でも、そうすると健斗の寝るところは?」
「俺は客用布団があるから」

 不思議なことを言われ、美晴は首を傾げた。

「普通、客用布団って泊まりに来る方が使うものだよね」

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