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その17. 土曜日の夜は

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 聞きながら健斗の顔を覗き込もうとすると、なぜかふいっとそらされる。目線が下に落ち、眉を寄せて、「これ以上は言いたくありません」と全身で拒否している。けれど頬が赤くなっていることから、単に照れているだけのようにも見て取れた。

「健斗?」
「……先週、高校時代の友人が出張でこっちに来たんです。日帰り出張だったけど、久し振りに会いたいから泊まらせろって」
「うん」

 その話はすでに聞いていた。だから先週、美晴は健斗に会えなかったのだ。

「ヤツが客用布団を使って」
「うん」
「その布団で美晴さんが寝るのがなんか嫌で」
「うん?」
「……美晴さんには、俺の普段寝ているベッドで寝てもらいたい」

 ボソリと言う顔が、なんだかちょっと拗ねたような、むくれた表情になっていた。

「健斗……」

 今すぐこの目の前の人を抱きしめて押し倒したい。そう思ってしまうほど、気持ちがたかぶってゆく。告白を、自分の気持ちを素直に伝えるのは、今このときなのだろう。

「健斗、あのね」
「俺、風呂入ってくるんで!」

 健斗はそういうなり、風呂場へと向かってしまった。その素早さに声も出ず、美晴は呆然と彼の向かった先を目で追う。閉じられた扉の向こうで、ガゴンとどこかに体がぶつかる音がした。

「……なにしてるのよ、もう」

 なんだか可笑しくなってきた。クスクス笑い、寝室に入りベッドにダイブする。枕に顔を埋め、匂いをかいだ。

 健斗の、匂いがする。

 心の中でつぶやくと、幸せが満ちてきた。まぶたを閉じて寝室の向こうにいる彼の気配に集中する。風呂場に反響する些細な音。水の流れる音、シャワーを止める音、浴室から出てくるドアの音、ドライヤーの音。健斗の立てる物音。健斗の気配に満ちた、健斗の家。そして、健斗の家にいる自分。

 待っている間に美晴の意識が少しずつぼやけ、半分眠りに落ちかける。寝室の引き戸が開く音が静かにして、健斗が入ってきた。はっとして、慌てて起き上がる。

「寝ていてください。俺も布団出したらあっちで寝るから」

 小さい声でいいながら、押し入れを開けて健斗が布団を引っ張り出す。あくまでも美晴に遠慮し、節度を守ろうとする健斗の態度にもどかしさがつのった。

「なんで?」

 つい、美晴の口から疑問がこぼれてしまう。寝室はここで、ベッドの横に布団を敷くくらいの余裕はある。わざわざ部屋を分ける必要はない。それに告白の後、それ以上先に進んでもよいという覚悟もある。いや、本音を言うと下心だ。

「なんでって?」

 意味が分からないといった様子で健斗が聞き返す。

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