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その17. 土曜日の夜は

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「ここで寝ればいいんじゃないの?」
「……美晴さん、俺を試してる?」

 戸惑い、少し眉を寄せた表情の健斗に、美晴は慌てて頭を振った。

「ちがう。試していない」

 ただ一緒に、いたいだけ。

 ベッドに腰掛け直し、背筋をきちんと伸ばして居住まいを正し、美晴は健斗を見上げた。

「健斗」
「駄目」
「え」

 思いもかけない拒否の言葉が発せられて、美晴の動きが止まる。

「いいから、美晴さんは早く寝て」

 健斗が険しい表情をしている。先程までの甘い雰囲気は、気が付けばなくなっていた。

「なんで?」
「体を休ませるのが先だってことです。美晴さん体調良くなかったんだから」
「さっきまで寝かせてもらったから、もう大丈夫だよ」
「そういうことじゃなくて……」

 健斗が視線をそらして横を向き、ふうっと息を吐き出した。眉の谷間が更に深くなる。

「そんなつもりで泊まってもらったんじゃない」

 ぼそりとつぶやく声が低い。美晴は混乱したまま、健斗を見つめた。

 そんなつもり、とはなにを指すのだろう。これから告白しようと思ったのに、完全に出鼻をくじかれてしまった。美晴の気持ちがカラカラと音を立てて空回りしていく。

「迷惑、だった?」

 健斗の好意を感じて、いつの間にかそれに慣れていった。今から自分が「好き」といえば、当たり前のように恋人としての関係が始まると思っていた。もしかして、それはただの勘違いだったのだろうか。

 ――井草さん、責任感じてズルズル付き合っちゃいそうだから。

 以前、自ら発した言葉を思い出す。今までの多幸感が一気に消え去り、ひやりとした緊張感がわき起こる。

「そうじゃないです! でも……」

 中途半端に言いかけると、健斗はあてもなく部屋を見回し、視線を落とす。

「分かった。ここで寝る」

 なにか、覚悟を決めたような声。バサバサと手荒く布団を敷くと美晴の方を見もせず、健斗は部屋の電気を消した。

「おやすみなさい」

 早く寝ろと言わんばかりの声と態度。

 なにか、失敗をしてしまったんだ。

 真っ暗な部屋の中、呆然としたまま健斗のいる方をしばらく見つめる。けれど事態がなにか変わるわけでもなく、健斗が起き上がる気配もない。

 声をかけたい。話をしたい。そう思うのに、一言も発することが出来ない。美晴は深く息を吐き出すと、ひっそりとベッドに身を横たえた。



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