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その19. おにぎりの具、なんにする?
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洗濯機を回すと、顔を洗う。服が乾くまでは健斗から借りたTシャツとスウェット姿のままなので、化粧はまだしない。そういえば昨日の夜からずっと、美晴は化粧を落とした素顔を健斗に晒していた。今更ながら気が付いて焦るが、もうどうしようもないので開き直るしかない。
「美晴さん、ご飯にしましょう」
「はーい」
呼ばれてダイニングへ行く。ローソファの前のテーブルには、ご飯茶碗と木椀が置かれている。その横にはインスタント味噌汁の袋が二つと、コンビニ袋。健斗は味噌汁の素をそれぞれ茶碗と木椀に入れると、お湯をかけた。
「自分の分の食器しかなくて、すみません」
言いながら、木椀と割り箸を美晴に渡す。
「ありがとう」
素直に受け取ると、健斗はコンビニ袋から中身をガサガサと取り出した。
「朝飯なんですが、昨日、コンビニ行ったときについでに買っときました。いきなり朝から弁当っていうのもどうかと思ったんで、おにぎり」
「おにぎり」
色々な種類のおにぎりが六個ほど、テーブルの上に広がった。一体この個数はどういう計算で出てきたのか。これだけ買うなら家でご飯を炊けばいいのに、健斗は自炊はしないのか。そしてパンという選択肢はなかったんだな。などと色々突っ込みたいことが美晴の頭の中で渦を巻く。そんな彼女の反応を前にして、健斗がはっとした。
「買う前になに食べるか、美晴さんに聞けばよかった!」
「ううん、大丈夫」
コンビニでは美晴が彼シャツでからかったこともあり、多分、健斗も朝食の話を振る余裕はなかったのだろう。
「冷蔵庫に入れていたから、冷たいな。レンジで温めるんで、選んでください。おにぎりの具、なんにします?」
「それじゃあ、鮭」
「ほかは? 美晴さん、昨日は途中で吐いちゃったから、胃が空っぽなはず。もっと食べないと」
「それならあと、たらこで」
「ほかは?」
「二個で十分だから」
かいがいしく世話を焼いてくれる健斗と会話を続けながら、美晴は毎週水曜日のランチタイムを思い出していた。コンビニのイートインスペースでコーヒーを飲んでいると、おにぎりの具を真剣に選ぶ二人のサラリーマンの会話が聞こえてきた。あれは確か七月のこと。
三ヶ月ほど前のことなんだ。
「美晴さん、ご飯にしましょう」
「はーい」
呼ばれてダイニングへ行く。ローソファの前のテーブルには、ご飯茶碗と木椀が置かれている。その横にはインスタント味噌汁の袋が二つと、コンビニ袋。健斗は味噌汁の素をそれぞれ茶碗と木椀に入れると、お湯をかけた。
「自分の分の食器しかなくて、すみません」
言いながら、木椀と割り箸を美晴に渡す。
「ありがとう」
素直に受け取ると、健斗はコンビニ袋から中身をガサガサと取り出した。
「朝飯なんですが、昨日、コンビニ行ったときについでに買っときました。いきなり朝から弁当っていうのもどうかと思ったんで、おにぎり」
「おにぎり」
色々な種類のおにぎりが六個ほど、テーブルの上に広がった。一体この個数はどういう計算で出てきたのか。これだけ買うなら家でご飯を炊けばいいのに、健斗は自炊はしないのか。そしてパンという選択肢はなかったんだな。などと色々突っ込みたいことが美晴の頭の中で渦を巻く。そんな彼女の反応を前にして、健斗がはっとした。
「買う前になに食べるか、美晴さんに聞けばよかった!」
「ううん、大丈夫」
コンビニでは美晴が彼シャツでからかったこともあり、多分、健斗も朝食の話を振る余裕はなかったのだろう。
「冷蔵庫に入れていたから、冷たいな。レンジで温めるんで、選んでください。おにぎりの具、なんにします?」
「それじゃあ、鮭」
「ほかは? 美晴さん、昨日は途中で吐いちゃったから、胃が空っぽなはず。もっと食べないと」
「それならあと、たらこで」
「ほかは?」
「二個で十分だから」
かいがいしく世話を焼いてくれる健斗と会話を続けながら、美晴は毎週水曜日のランチタイムを思い出していた。コンビニのイートインスペースでコーヒーを飲んでいると、おにぎりの具を真剣に選ぶ二人のサラリーマンの会話が聞こえてきた。あれは確か七月のこと。
三ヶ月ほど前のことなんだ。
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