78 / 85
その19. おにぎりの具、なんにする?
(4)
しおりを挟む
その時のことを思い返しながら、レンジで温めたおにぎりを頬張る。コンビニおにぎりを食べたのは久しぶりで、なぜかやけに美味しく感じられた。味噌汁もインスタントなのに、一口すするとその塩味や旨味が全身に染み渡るような気がする。
おにぎりと味噌汁の朝食が済むと、健斗がペットボトルのお茶をコップに注いで美晴に渡した。
「コーヒーじゃなくてすみません」
「でもこの流れでいったら、断然にお茶だよ。ありがとう」
受け取ったお茶を一口飲んで、満足のため息を漏らす。テーブルの上には抜け殻のようなおにぎりの包装フィルムが散らばっていた。胃が空っぽの美晴が夢中になっておにぎりを二個食べている間に、残りの四個は健斗が食べきった。がっついた様子も見せずに倍の量を食べるのは、さすが男の人だなと感心する。
「味噌汁とおにぎりっていいね。基本って感じがする」
「飲んだ次の日って、なぜか味噌汁飲みたくなるんですよね」
「だからパンを選ばなかったの?」
「そうかも。でもやっぱり米飯の方が好きです」
「そういえば健斗、コンビニでいつもおにぎりを真剣に選んでいたものね」
美晴がふふっと笑うと、健斗が首を振って否定した。
「いや、あれは美晴さんに会いたくて……」
「え?」
中途半端に言葉を切って、健斗が慌てて視線を逸らす。その態度に、以前陽平が教えてくれたことを美晴は思い出した。
「毎週、水曜日には『コンビニの君』に会いたくて、公園前のあのお店に通ってたって、本当?」
「なぜそれを……、って陽平か」
「おにぎりのコーナー、確かにイートインスペースに近かったね。あれっておにぎりじゃなくて、イートインに近付くのが目的だったの?」
「あ、いや、それだとなんかストーカーっぽい……」
今まで気付かなかったことを確認したいだけなのに、質問すればするほど健斗の顔が赤くなり、動揺する。それを見て、美晴はようやく腑に落ちた。
なんでコンビニでぶつかっただけの人に、とっておきのお店を教えようと思ったのか。一緒にご飯を食べに行くことを了承したのか。そして、試しに寝てみようと思ったのか。
付き合っていくうちにほだされたわけではない。それはきっと――。
「私、最初のころから健斗のこと、好きだったんだ」
「え?」
大きく目を見開き、美晴を真っ直ぐ見つめたまま、健斗の動きが静止した。
おにぎりと味噌汁の朝食が済むと、健斗がペットボトルのお茶をコップに注いで美晴に渡した。
「コーヒーじゃなくてすみません」
「でもこの流れでいったら、断然にお茶だよ。ありがとう」
受け取ったお茶を一口飲んで、満足のため息を漏らす。テーブルの上には抜け殻のようなおにぎりの包装フィルムが散らばっていた。胃が空っぽの美晴が夢中になっておにぎりを二個食べている間に、残りの四個は健斗が食べきった。がっついた様子も見せずに倍の量を食べるのは、さすが男の人だなと感心する。
「味噌汁とおにぎりっていいね。基本って感じがする」
「飲んだ次の日って、なぜか味噌汁飲みたくなるんですよね」
「だからパンを選ばなかったの?」
「そうかも。でもやっぱり米飯の方が好きです」
「そういえば健斗、コンビニでいつもおにぎりを真剣に選んでいたものね」
美晴がふふっと笑うと、健斗が首を振って否定した。
「いや、あれは美晴さんに会いたくて……」
「え?」
中途半端に言葉を切って、健斗が慌てて視線を逸らす。その態度に、以前陽平が教えてくれたことを美晴は思い出した。
「毎週、水曜日には『コンビニの君』に会いたくて、公園前のあのお店に通ってたって、本当?」
「なぜそれを……、って陽平か」
「おにぎりのコーナー、確かにイートインスペースに近かったね。あれっておにぎりじゃなくて、イートインに近付くのが目的だったの?」
「あ、いや、それだとなんかストーカーっぽい……」
今まで気付かなかったことを確認したいだけなのに、質問すればするほど健斗の顔が赤くなり、動揺する。それを見て、美晴はようやく腑に落ちた。
なんでコンビニでぶつかっただけの人に、とっておきのお店を教えようと思ったのか。一緒にご飯を食べに行くことを了承したのか。そして、試しに寝てみようと思ったのか。
付き合っていくうちにほだされたわけではない。それはきっと――。
「私、最初のころから健斗のこと、好きだったんだ」
「え?」
大きく目を見開き、美晴を真っ直ぐ見つめたまま、健斗の動きが静止した。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる