愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

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【六従兄弟姉妹(むいとこ)】

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 困った顔をする両親に諭され、虎蔵は自分の見ている世界が、他の人と違っていることは理解した。
 幽霊や物の怪といった怪異は、大多数の人にとって作り話でしかないことも。普通の人には見えないモノを見て、触れないモノに触っているのだということも。

 だが、何故クラスメイトから距離を置かれたのか、虎蔵は今も本当の意味では理解出来ていない。

「それから、ずぅっとひとりで、けど、親について行った親戚の集まりでリュウちゃん見つけて、そんで。どうしても仲良うなりたい言うたらオカンが。小学生の時みたく、なんでもかんでも喋らんとき言うてん」

 恐らく、クラスメイトからしてみれば、虎蔵は異端だったのだ。
 幽霊が見えて触れて--殺せる。そんな存在、話で聞くだけなら眉唾物だ。

 でも、目の当たりにしてしまったら?
 嘘だと否定することも出来ず、かといって受け入れることも出来ず。距離を置こうとするのは、ある意味防衛本能が働いたのかもしれなかった。

 いい年をしたオレでさえ、虎蔵が幽霊だとはいえ無造作に頭を握り潰すところを見てドン引きしたんだ。小学生の柔らかな精神が、あきらかな異端を受け止められるはずもない。

「今日……な。まさかバイトのお人がリュウちゃんや思わなんだで、いつもみたいにサクッとやってしもてから、『しもた』思たんよ。オカンが『黙っとき』言うたこと全部話さな、説明でけへんねやもん。リュウちゃんもおらんようなるんちゃうか思たら、何をどこまで言うてええかわからんくなってしもうて。いつも通りせな、思たら思ただけ、言うたらあかん言われた事ばっか喋ってまうし。せやけど、リュウちゃんは友達やのうて親戚やろ? 血縁やったら、縁は切れんと残るやろ?」

 虎蔵の縋るような眼差しを真正面から受け止めたものの、返す言葉に困って頬を掻く。
 オレからしてみりゃ、血の繋がりほど当てにならないモノはない。実の両親ですらオレの事をあっさり捨てていったんだ。血の繋がりがあったからとて、切れる時はあっけなく切れる。

 それでも、思慕なり憎悪なり、何らかの情は残る。オレが今でも両親と縁を切れずにいるのがその証拠。
 交わりはしないが、完全に途切れもしない。確かにそうだ。

 なるほど。虎蔵が親戚であることにこだわるはずだ。オレにしてみりゃ当てにならない繋がりでも、虎蔵からすれば、友情よりもずっと信じられる繋がりなのだ。

 オレとは真逆の考え方ではあれど。オレも虎蔵も、欲しいのは決して途切れない『縁』だ。
 だったら、あれこれ難しく考える必要なんてどこにもない。

「それとも--……やっぱりリュウちゃんも、オレの事キモチワルイ言うて離れてく……?」
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