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【六従兄弟姉妹(むいとこ)】
拾
しおりを挟む「阿保抜かせ。おまえと切れたら、オレにゃあなんの『縁』も残りゃしねえだろが」
返す言葉に迷った沈黙を、拒絶だとでも受け取ったのか。
ほとんど泣いた声を聞かせる虎蔵の頭を、いつもの調子で反射的にひっぱたく。
オレの事情は全部知ってるくせして、馬鹿が。
「オレは、おまえが肝心な事は何ひとつ話しちゃくれてねえ事に気付いて、おまえにとってオレなんぞ『その他大勢のひとり』だと思って落ち込んだんだがな? オレの存在が特別だってなら、明け透けに全部晒しやがれ、このど阿呆。今さら何を知ったって切れやしねえよ」
「--……ほんま?」
「おうよ」
お互いがお互いを誰よりも仲がいい相手だと。真摯に向き合って心から理解し、信じあえる仲だと思っているのなら。どんな繋がりだって構いはしない。
オレはどうしたって血の繋がりになんの期待も持てないし、虎蔵はきっと、友情になんの期待も持てないままだ。だったら、お互い自分が信じたい絆を信じていればそれでいい。
十数年、誰より近くでつるんできたってえのにオレたちは、お互いがお互いに見捨てられやしないかとずっと怯えていることにすら気付けないでいた。
どこにいても、なにをしていてもつきまとうこの底知れぬ不安感を払拭出来るのなら、どんなよもやま話を持ってこられても受け入れられる。
「リュウちゃぁ……んぎゅッ」
今さら何を知ったとて途切れるような『縁』ではないと断言するオレに、感極まって抱きついてこようとしていた虎蔵が、踏まれた猫みたいな声を発してぐいと後ろに引き倒されるのと同時。
「よかったなあ、トラよ。テメエのポカが転じて、大好きな六従兄弟姉妹くんとの仲が深まってよう」
背後からガシリと虎蔵にスリーパーホールドを決めながら、スーツの男がしれっと会話に加わってくる。
「兄さんも、怪異に引っ張って行かれずに済んでなによりだ。アイツらは、普段気にもならねえような小さな不安を抉り出して絶望に変えちまうから質が悪ぃ上に抜け出しにくいんだがよ。よく自力で抜け出せたもんだ」
「いや、自力というか、虎蔵の発言が残念過ぎて悩んでたのが馬鹿らしくなったというか」
「じゅうぶん自力だ。あの手の輩に魅入られちまえば、精神を病んで果ては自死か人殺しよ。ベニの見立てじゃ、兄さんを仲間に引っ張り込みたかったみてえだから、ちょいとややこしい事になるかと思いきや、どうしてどうして。なかなかやってくれる」
「オレを? 仲間に?」
「兄さん、見えてたろ? はじめっから。てこたあ、向こうからもずっと見えてたってこった」
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