クラスのぼっちギャルを更生させて自分を大切にすることを教え込んでやった話。

ミハリ

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第6話 亜衣という名の少女がこぼした純粋な微笑み。

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 静まり返った校舎の廊下に、俺たちの足音が響く。俺が前を歩き、アイさんは随分と距離を開けて後ろをついてくる。

 彼女は俯き、不安げに制服のスカートの裾を弄っていた。今、二人の間に流れる沈黙はひどく息苦しく、昨夜の鍋を囲んだ時の温かさとは程遠いものだった。

 進路指導室の扉の前で、俺は足を止めた。振り返ると、そこには蒼白になった彼女の顔があった。



「深呼吸して、アイさん」俺は静かに囁いた。

「何があっても、まずは俺に喋らせてくれ」



 彼女はただ小さく頷いた。その瞳には涙が溜まっている。



 俺はドアをノックし、二人で中に入った。



 中では、先生が書類の山を前にして待ち構えていた。分厚い眼鏡の奥から、俺たちを交互に見据える。

 部屋の空気は重く、まるでここの酸素がすべて不安によって吸い尽くされてしまったかのようだった。



「座りなさい、二人とも」先生が命じた。



 俺たちは隣り合って座った。プラスチックの椅子が肌に冷たく伝わる。



「石川、五木。君たちを呼んだのは、昨日の放課後、複数の生徒や巡回中の教師からかなり深刻な報告があったからだ」先生が重々しく、威圧的な声で切り出した。「二人が一緒に帰る姿が目撃されている。それに、昨日の教室での『騒ぎ』……隣のクラスの生徒を巻き込んだ件についても報告を受けている。五木、君の私生活についての噂は以前から耳にしていたが、石川……君は模範的な生徒だ。なぜ彼女と関わっているんだ?」



 アイさんがびくりと肩を揺らした。彼女は口を開き、謝罪か弁明をしようとしたのかもしれないが、声は出なかった。ただ震えている。



「先生」俺は努めて平坦なトーンで遮った。「もし教室での件をおっしゃっているのでしたら、俺はただ、隣のクラスの生徒による五木さんへの言語道断な嫌がらせを止めただけです。それは生徒として当然の行動ではないでしょうか?」

 先生は片方の眉を上げた。「では、雨の中、二人が揃って郊外の安アパートの方へ歩いていくのを見たという報告についてはどう説明する?」



 心臓が激しく脈打った。まさか、あんなところまで見られていたとは。



(くそっ。ここで一歩でも言い間違えれば、アイさんの人生は本当に終わってしまう)



「それは、俺が無理に連れて行ったからです」俺は迷いなく答えた。



 アイさんが信じられないといった表情で俺を見た。



「昨日、五木さんは財布を失くしたんです」俺は再び嘘を重ね、頭の中で光速で筋書きを練り上げた。「雨に降られ、交通費もなくて帰れなくなっていました。同じクラスの者として、帰り道の周辺で財布を一緒に探し、彼女が安心できる場所まで送り届けた。それだけのことです」



 先生は沈黙し、俺の嘘の綻びを探るように鋭く見つめてきた。「五木、それは本当か?」

 アイさんは一瞬呆然としたが、やがて深く項垂れた。「は、はい、先生。石川くんは……ただ助けてくれただけです。お願いです、彼を罰しないでください。全部私のせいです」

「もういい」先生は長い溜息をつき、椅子に背を預けた。「五木、話がそうであるなら、今回は石川を不問に付そう。だが君は……身持ちを改めなさい。こうした噂が出るのは、君自身の外見や態度に原因がある。これ以上続くようなら、学校側としても保護者を呼び出さざるを得なくなるぞ」



『保護者』という言葉を聞いた瞬間、アイさんの肩ががっくりと落ちた。彼女には呼び出せる相手なんて誰もいない。その脅しは、天涯孤独な彼女にとってブラックホールのような絶望だった。



「分かりました、先生。失礼します」俺は立ち上がり、アイさんに出るよう促した。



 ドアが閉まると、俺たちは人影のない非常階段まで離れた。

 突然、アイさんが立ち止まり、壁に身を預けた。両手で顔を覆い、小さな啜り泣きが漏れ始める。



「ごめん……っ、うぅ……ごめん……ごめんなさい、荒木くん……」



 俺は彼女の前に立ち、階段の窓から雪に覆われた北海道の景色を眺めた。



「どうして謝るんだ? 助けると決めたのは俺だ」俺は静かに言った。

「だ、だって私のせいで、あんたに嘘までつかせて……あんたは優等生で、今まで穏やかに暮らしてたのに。私みたいな『壊れた』女のせいで、指導室まで呼ばれて……」彼女はさらに激しく泣き、冷たい床に崩れ落ちるように座り込んだ。



 俺は彼女の前に膝をついた。顔を覆う彼女の手を引き、俺を見つめさせた。

 涙でメイクは完全に崩れ、そこには悲しみに満ちた彼女の素顔があった。



「アイさん、俺の話を聞け」



 彼女は赤くなった瞳で俺を見つめた。



「君は『壊れた』女の子なんかじゃない。この世界が、君の状況を理解するには狭すぎるだけだ。明日から、その厚化粧がただの仮面なら、もうしなくていい。俺は今の君の顔の方が好きだ。たとえ泣き顔だとしてもな」



 俺はハンカチを彼女に差し出した。



「それに保護者の件だが……もし本当に先生が呼べと言うなら、その時も俺が隣に立ってやる。二度と君を一人にはさせない」



 アイさんはハンカチを見つめ、それから俺を見た。震える彼女の手が、俺の手に触れた。



(温かい……)



 階段の空気はひどく冷たいはずなのに、彼女の手は温もりを取り戻し始めていた。



「どうして……どうしてそこまでしてくれるの?」彼女は幾度目かの問いを口にした。

「言っただろ? 俺も寂しかったからだ。それに……たぶん、君の本当の笑顔が見たいんだ。教室で見せるような偽物の笑顔じゃなくてな」



 その時、非常階段のドアがわずかに開いた。そこに人影が見えた。明日香だ。

 彼女は一瞬こちらを見たが、何も言わず、静かにドアを閉めて去っていった。

 どうやら、親友の前で隠し通すのは、もう限界のようだ。
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