クラスのぼっちギャルを更生させて自分を大切にすることを教え込んでやった話。

ミハリ

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第10話:大きな影響力富永家。

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 富永亮太が去った後、俺たちの間に流れる沈黙は、それまでとは違うものだった。それは息苦しい沈黙ではなく、お互いの思考が複雑に絡み合うような静寂だった。
 アイさんはまだ、俺の肩に頭を預けていた。彼女の不規則な呼吸が伝わってくる。先ほどの勇気が、彼女の全エネルギーを使い果たしてしまった証拠だった。

「アイさん、立てるか?」俺は静かに尋ねた。

 彼女は弾かれたように、まるで夢から覚めたかのように我に返った。俺から離れる際、彼女の顔は耳の先まで真っ赤に染まった。「えっ? あ、ああっ! ごめん、荒木くん……ちょっと感極まっちゃって」
「気にするな」俺は床に落ちたハタキを拾い上げた。「早く終わらせよう。吹雪がひどくなる前に帰らないと」

 ***

 俺たちは、人影がまばらになり始めた校門を通り抜けた。北海道の街路灯の淡い黄色い光が灯り始め、歩道に積もった雪に物悲しい情緒を与えていた。

「荒木くん」アイさんが口を開いた。彼女の足取りは、俺の少し後ろで遅れがちだった。
「さっき亮太が言ってたこと……私が『処女じゃない』とか、モーテルに行ってるって話……あんた、信じてる?」

 俺の足が止まった。振り返って彼女を見つめる。少女は俯き、首に巻いたマフラーをぎゅっと握りしめていた。その瞳は潤んでおり、俺の口から出るかもしれない答えを恐れているようだった。

「人を敬うことすら知らない奴の言葉を、なぜ俺が信じなきゃならないんだ?」俺は淡々と答えた。

 アイさんは顔を上げ、目を見開いた。

「俺は君を知っている、アイさん。まあ、まだ数日だけど、君があんな女の子じゃないことは分かってる。君はただ正直すぎて、環境のせいで間違った仮面を被らされていただけだ」俺は一歩近づき、彼女の目の前に立った。「俺にとっての五木アイは、他人の親切に報いるために、夜更かししてまでカレーを作るような女の子だ。俺には、それで十分だ」

 彼女がずっと堪えていた涙が、ついに溢れ出した。今度の涙は悲しみの涙ではなく、安堵の涙だった。

「ありがとう……。信じてくれて、本当にありがとう、荒木くん」

 突然、ポケットのスマホが震えた。サトルからのメッセージだ。
『おい荒木! 気をつけろ。亮太の奴、隣のクラスで暴れてるぞ。お前のアパートの住所を嗅ぎ回ってるらしい。マジで恨んでるぞ、あいつ』

 俺は拳を握りしめた。富永家はこの街で大きな影響力を持っている。不動産業をいくつか営んでおり、生徒の個人情報を調べることなど、彼らにとっては造作もないことだろう。

「どうしたの、荒木くん?」俺の表情の変化を見て、アイさんが不安げに尋ねた。
「何でもない。さあ、早く帰ろう」俺は努めて冷静に言った。彼女をこれ以上、怖がらせたくはなかった。

 ***

 その夜のアパートで、アイさんは俺たちのためにココアを用意してくれ、少し明るさを取り戻していたが、俺の中では緊張感が消えなかった。
 俺は学習机に座り、彼女の背中を見つめた。あの小さく脆そうな背中で、彼女はこれまでどれほど重い荷物を背負ってきたのだろうか。

(もっと強くならなきゃいけない。自分のためだけじゃなく、彼女を守るために)

「荒木くん、ココア入ったよ」彼女は俺の前にカップを置いて言った。彼女は向かいの椅子に座り、カップから立ち上る湯気を見つめた。
「ねえ……ここで暮らすようになってから、新しい人生を手に入れたみたいな気がするの。朝起きるのが怖くなくなったんだ」
「まだ始まったばかりだ、アイさん」俺は返した。「明日から、君の将来のことを計画しよう。あんまり無理して働かなくても学費を払える方法を探して、俺も勉強を教えるから」 アイさんは満面の笑みを浮かべた。
「うん! 私、一生懸命頑張るね!」

 俺は窓から夜空を見上げた。外のどこかで、富永亮太が何かを企んでいるかもしれない。 
 学校では、また新しい噂が広まるだろう。けれど、目の前のこの純粋な笑顔を見ていると、どんな困難も乗り越えられるような気がした。
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