クラスのぼっちギャルを更生させて自分を大切にすることを教え込んでやった話。

ミハリ

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第12話:どうして私はいつも、周りの人に不幸を運んでしまうの?

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 足の下の校舎の廊下は、いつもより冷たく感じられた。生徒とすれ違うたびに、私は反射的に俯き、金髪の束の間に顔を隠した。
 奇妙な感覚だった。つけまつ毛も厚いファンデーションの層もないと、まるで人前を裸で歩いているような気分になる。自分がひどく脆いものに思えた。

(みんな私を見てる……きっと笑ってるんだ……)

 ネガティブな思考が頭を支配し始めたとき、数歩前を歩く荒木くんの背中が目に入った。彼は振り返らなかったけれど、その安定した足取りは、私がここに踏みとどまるための錨(いかり)のようになってくれた。
 記憶が過去へと飛ぶ。いつもクッキーと洗剤の香りがしていた、あの小さな家へ。

「アイ、そんなにたくさんメイクしなくていいのよ。あなたはそのままでも十分可愛いんだから」小学生の頃、お母さんの口紅をこっそり塗っていた私を見て、お母さんはクスクス笑いながらそう言った。
「母さんの言う通りだ。パパの娘は世界一の美少女だよ」お父さんもそう言って、私の髪をくしゃくしゃに撫でた。

 あの思い出は、もう二度と戻れない場所だと分かっているからこそ、今では悪夢のように感じられた。あの夜の交通事故が、すべてを壊してしまった。
 一瞬にして、私は「世界一の美少女」ではなく、叔父と叔母にとっての「保険金という道具」になった。

 彼らは家を奪った。お父さんの貯金を奪った。そして最後には、「自立の勉強」という名目で、私をこの北海道のボロアパートに追い出した。分かっていた、彼らはただ私から手を引きたかっただけなのだ。
 それ以来、私は二度と素顔を見せないと決めた。「危険な女」に見えれば、誰も私を傷つけようとはしない。「悪い子」に見えれば、誰も私に多くを期待しない。

「アイさん」

 びくりとして顔を上げた。いつの間にか教室の前に着いていた。荒木くんが立ち止まって、私を見つめていた。

「気にするな。胸を張って入れ」彼は静かに言った。

 私は深く息を吸って頷いた。けれど、教室のドアを開けた瞬間、教卓に寄りかかっている富永亮太の姿が目に入り、心臓が止まりそうになった。
 彼は叫ばなかった。怒ってもいなかった。ただ、昨日の怒りよりもずっと恐ろしい、歪んだ笑みを浮かべて私を見ていた。

「よう、五木」蛇が這いずるような声で、彼は挨拶した。
「新しい顔……なかなか可愛いじゃないか。でも知ってるだろ、この街じゃ、後ろ盾のない美貌なんて無意味だってことをさ」彼はそれから、憎しみを込めた視線で荒木くんを睨みつけた。
「それとお前だ、石川。今のうちに楽しんでおくんだな。お前のアパート、うちの親父の会社が管理してるところらしいじゃないか。強制立ち退きなんて小さな事故、いつでも起こせるんだぜ」

 血の気が引くのが分かった。亮太は本気だ。彼は荒木くんを肉体的に攻撃するのではなく、彼の生活の基盤を狙ってきた。私が唯一、安心できると感じた場所を。

「彼の家に、指一本触れないで!」思わず叫んでいた。声が激しく震える。
 クラス中が私たちに注目した。亮太はただ、あざ笑うように笑った。
「おや? 誰かと思えば、随分と言えるようになったじゃないか。安心しろよ、五木。今日の放課後、いい提案がある。一人で屋上に来い。さもなきゃ、お前のヒーローが今夜、雪道で寝る羽目になるのを見ることになるぜ」

 亮太は荒木くんの肩を乱暴に小突きながら、教室を出ていった。

 私は崩れるように席に座った。手が抑えきれないほど震えている。世界が再び私を押し潰そうとしているのを感じた。過去、喪失、そして今……私は最も優しくしてくれた人にまで災厄を持ち込んでしまった。

(どうして……どうして私はいつも、周りの人に不幸を運んでしまうの?)

「アイさん」荒木くんが近づいてきたけれど、私は彼の目を見る勇気がなかった。 
「ごめん……荒木くん。ごめんなさい……」止まらなくなった涙の間から、私は絞り出すように囁いた。

 もし彼を守るために、またあの「壊れた五木アイ」に戻らなければならないとしたら、私はそれに耐えられるだろうか? それとも、彼を道連れに破滅してしまうのだろうか?
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