クラスのぼっちギャルを更生させて自分を大切にすることを教え込んでやった話。

ミハリ

文字の大きさ
13 / 22

第13話:これが選択だというのなら、愛する人のために私はそれを選ぶ。

しおりを挟む
 最後の授業の終わりを告げるチャイムの音は、いつもなら自由への歌のように聞こえる。けれど今日のその音は、まるで処刑の鐘のように響いた。
 一日中、何も手につかなかった。亮太の言葉が、壊れたカセットテープみたいに頭の中で回り続けている。「強制立ち退き」。富永家にはそれを行うだけの権力があることを私は知っている。彼らにはコネがあり、金があり、そして良心がない。
 私は隣の席を盗み見た。荒木くんは静かに何かをノートに書き留めている。どうしてあんなに落ち着いていられるんだろう? 家を失うのが怖くないのかな? 私を助けたことを後悔していないのかな?

「荒木くん」クラスが静かになり始めたとき、私は彼を小さく呼んだ。
「ん?」彼が振り向いた。その瞳は、冬の湖のように澄んでいた。
「私……ちょっと用事があるの。先に帰ってて」私は顔の筋肉が強張るのを感じながら、精一杯の笑顔を作った。荒木くんは長い間、私を見つめた。
「……屋上の件か?」一瞬、心臓が止まった。
「えっ? ち、違うよ! そんなわけないじゃん。ただトイレに行って、それから……あ、購買に用があるの!」
「一人で行くな、アイさん」彼は断定的に言った。
「あの男は危険だ」
「大丈夫だってば! 本当に!」私は彼に腕を掴まれる前に、急いで鞄をひったくって外へと走り出した。

 ごめんね……ごめんなさい、荒木くん。こうするしかないの。あんたは私に温もりをくれた。美味しい味噌汁をくれた。そして、希望をくれた。私のエゴのせいで、そのすべてを壊させるわけにはいかない。

 ***

 屋上へと続く階段は、ひどく長く感じられた。一段踏みしめるたびに、自分が屠殺場へと向かっているような気分になった。
 重い鉄の扉を開けると、北海道の冷たい風が容赦なく肌を刺した。そこでは、フェンスに寄りかかった富永亮太がライターを弄んでいた。

「おや? 来たな、五木。時間通りだ」彼はニヤリと笑った。
「何の用なの、富永坊ちゃん」私は声の震えを抑えながら尋ねた。
「荒木くんへの脅しはやめて。彼は私たちの問題には関係ないはずよ」
「いいや、大ありだ。あいつは俺のおもちゃに首を突っ込んだんだからな」亮太が近づいてきた。鼻を突くような高級香水の匂いに吐き気がした。
「いいか、この茶番には飽き飽きだ。シンプルな選択肢をやるよ」

 彼は私の顎を乱暴に掴むと、建物の壁際まで追い詰め、その卑猥な欲望に満ちた目を見つめるよう強いた。

「また従順な『ギャルのアイ』に戻れ。今夜俺に付き合え。二人で遊ぼうぜ、セックスとかな。お前はまだ処女なんだろ? 正直言って、お前の体は俺にぴったりだ。本当は俺に触られたくてたまらないんだろ? それに、なかなかそそる胸をしてるじゃないか。……もし俺の要求に従うなら、石川への手出しはすべて忘れてやる。あいつはあのアパートに住み続けられるし、二度と手出しもしない。だが、もし断るなら……」彼は小さく笑った。「明日、あいつは屋根のない雪山の中で目を覚ますことになるぜ」

 胸が苦しい。涙が溢れてきた。これが代償なの? やっと見つけた小さな幸せを守るために、私は自分を再び暗闇の中に投げ込まなければならないの?
 非常階段で私の涙を拭ってくれた荒木くんの顔を思い出した。私を一人にしないと言ってくれた彼の約束を。

(亮太の言うことを聞けば、その約束を裏切ることになる……でも、断れば荒木くんが苦しむことになる……)

「どうした、黙り込んで。簡単な選択だろ?」亮太が私の腰に手を回し始めた。

 私はぎゅっと目を閉じた。思考がお父さんとお母さんのところへ飛ぶ。『パパの娘は世界一の美少女だよ』。
 ごめんね、パパ。ごめんね、ママ……。私が愛する人を守るためには、また汚れなきゃいけないみたい。

「分かったわ……」私は掠れた声で囁いた。「私は――」

 ガシャーン!!

 屋上の鉄の扉が、凄まじい音を立てて跳ね飛ばされた。

「そんな選択肢は、最初から存在しないんだよ、富永」

 私は目を開けた。そこには、肩で息をしながら、誰よりも鋭い眼差しで入り口に立つ荒木くんの姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

婚約破棄ですか?あなたは誰に向かって口をきいているのですか!?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、マリアンヌ・バークレーは王宮の誕生日パーティーでいきなり婚約破棄を言い渡された。は!?婚約破棄ですか?あなたは誰ですの?誰にモノを言っているのですか?頭大丈夫ですか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...