騎士団長が大変です

曙なつき

文字の大きさ
45 / 579
【短編】

騎士団長と媚薬 (二)

 仕事を終えたフィリップは、鍵を開けて屋敷の扉を開いた。

 開いた扉の先に向かって、声を上げる。

「ただいま帰りました」

 いつもなら、中から「おかえり」という声が聞こえるはずなのに、返事がない。
 出かけているのだろうかと思いながら、フィリップは屋敷の中へ入った。

 バーナードが運動のため、外へ走りに出ている可能性もあった。

 出かけているなら仕方ない。

 フィリップは明かりの魔道具を点けようと、壁際に手を伸ばした時、中から発せられた気配に気が付いた。

「……」

 荒い息遣いが聞こえる。

「……誰かいるんですか」

 そう声をかけた時、突然フィリップは壁にその身体を激しく叩きつけられた。
 思わず息が詰まり、呻き声を上げ、痛みに顔をしかめる。そして、ずるずると床に座り込むと、そのまま床に押し倒された。そのフィリップの身体の上にのしかかっていたのは、バーナードだった。
 彼はフィリップの上に跨っていた。

「……どうしたんです、バーナード」

 驚いて声をかけると、バーナードは苦悶するように眉を寄せ、ハァハァと荒く息を吐き続けていた。
 気が付くと部屋の中は荒れていた。
 椅子は倒れ、床には様々なものが散らばり落ちている。まるで暴れたかのような様相だった。

「……くそ……なんだ、アレは」

 吐き捨てるように言われる言葉に、フィリップはバーナードへ尋ねた。

「何かあったんですか」

 頬を赤らめ、目を潤ませ、全身を震わせているバーナードの様子は尋常ではなかった。その異変に、フィリップはなおも彼に問いかけ、その肩に手をかけた。途端、バーナードは身を引きつらせ、声を上げた。

「あああっ、触るな!!」

「どうしたんです!!」

 バーナードは首を振る。

「こんなの……おかしい……」

 苦し気に切なげに眉を寄せて、囁くように言われる言葉。

 彼の様子がおかしい。

「飴が……飴が、くそっ」

 悪態をつきながら、飴のことを言う。

「飴?」

「お前が倉庫に置いていた飴だ!! ああっ、もう」

 バーナードは、その手でフィリップのシャツの胸元を掴むと、引き裂いた。ボタンが吹っ飛ぶ。
 フィリップはあまりのことに目を大きく見開き、呆然としていた。

「団長……?」

「お前が……欲しい」

 茶色の瞳から急速に理性の輝きが失われ、とろりとした欲を湛えていく。
 荒く吐く息の音だけが、部屋の中に響いていく。

 フィリップは必死に、倉庫の中の飴のことを考えた。そして、ようやく合点がいった。

 
 騎士団長バーナードとの結婚を報告した後、王立騎士団の騎士達から結婚祝いだと笑いながら渡された媚薬入りのキャンディーを倉庫に仕舞った。
 処女がその喪失の時に、痛みを紛らわせるために使う極めて弱い媚薬効果のあるキャンディーだった。
 効力は極めて弱いと聞いていたが、バーナードの様子を見る限り、それは真実ではなさそうだ。

 いや、違う。

 フィリップは思い出した。

 騎士団長は、“淫魔の王女の加護”を受けた結果、彼は酒はもとより、薬なども非常に効きやすくなったという話だった。
 あらゆるものに敏感な身体になったと言っていた。実際、酒を一口、口にしただけで昏倒したこともあったではないか。

 極めて弱いという媚薬のキャンディーを口にした彼は、すっかり出来上がっていた。

 そう、彼はすっかり出来上がっていたのだった。
感想 195

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!