騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

騎士団長と会議は踊る (1)

第一話 大型魔獣討伐の為の国際会議


 七年に一度、ロドニア半島にある周辺五か国では国際会議が開かれる。
 開催地は参加国の持ち回りで、今回は最北のザッハトリア王国で開催される。
 七年に一度のこの会議は、七年に一度定期的に現れる大型魔獣シンディア討伐のためである。

 大森林から現れるこの大型魔獣シンディアは、なぜか七年周期で現れるのだ。そして大森林に接している五か国を縦断して暴れ回る。

 その時にたとえ大型魔獣シンディアを倒したとしても、七年後に再び大森林からシンディアが現れる。倒しても倒しても現れる不思議な大型魔獣であった。一部の者達は、シンディアは神獣ではないかと指摘していたが、暴れ回って街や村に大きな被害を与えるので、神獣だとしても討伐すべしという声が大きかった。

 シンディアは単体の大型魔獣で、青い光沢のある巨大な鳥の姿をしていた。頭頂部のかざり羽が非常に美しく、その身は倒した国の所有物とされる。どの国でも、その鳥を自国の勇猛果敢な騎士達に倒させたいと願うようだった。倒せたならば、国の誉れとして名が大陸全土に知れ渡るからであった。時に祈祷してまでシンディアの進行ルートが自国に来るように願う国もあった。


 さて、そのシンディアであったが、王立騎士団長のバーナードには二回の討伐の経験があった。一度目は、今は引退した元騎士団長の父と剣術指南役を務めていた祖父の供をして、十代の頃に討伐した。二度目は今から七年前の襲来の時で、友邦国エルドラント王国との共同作戦において、自身の手で倒した時のことだった。

 “剣豪”の称号を持ち、御前試合では負けなし。そして一度だけ参加したことのある武道大会でも当然のように優勝している王立騎士団長バーナード。
 当然のことながら、この国際会議において、もっともシンディアを倒せる男ナンバーワンとして名が上がり、市井の賭けでも一番人気に上がっていた。

 馬車から下りた騎士団長バーナードは、滅多に身にまとうことのない王立騎士団の式典用の華やかな軍衣をまとっていた。今回の国際会議のため、新調されたものだった。黒を基調にして金色の飾りボタンに肩には肩章、右肩から前へ金糸の飾緒がつくそれは、凛々しい騎士団長の男ぶりをさらに上げている。
 王太子エドワードが王立騎士団の礼服を新調すると言うのを聞いた時、副騎士団長フィリップは内心(この男、団長にいいところ見せようと権力を使って……)と苛ついていたが、こうしてマントを羽織り、黒の軍衣をまとう騎士団長の姿があまりにも格好良くて、小さく震えてしまったほどだった。
 この時だけ、心ひそかに王太子に感謝していた。

 そして騎士団長のそばに控えるフィリップの軍衣も、同じくバーナードと揃いのものである。彼は王都一と言われる華やかな美貌の主で、騎士団長と二人並んだ姿は、目にした者の全ての視線を奪っていた。


 翌日、ザッハトリア王国の王宮広間にて国際会議が開かれる。
 バーナード達は前日に入国し、宿泊場所を王都内の高級宿に定めた。
 王宮での宿泊を勧める声もあったが、それは断っていた。

 宿に入ると、すぐに同室のフィリップが恭しくバーナードの側に近寄って彼からマントを受け取る。
 バーナードはソファにどっかりと座ると、ため息をついた。

「ザッハトリアは遠いな」

 魔獣馬車を使って二日かかった。
 周辺五か国のうち最北にあるこの国は、とにかく遠い。
 こうした国際会議でもなければ、足を運ぶことはまずないだろう。

「剣はいかがなさいますか」

 フィリップの声に、バーナードは自分の腰に下げている、鞘に入った剣に目をやった。
 それは今回の会議に際して、わざわざ王国が彼に持たせた宝剣であった。
 
 竜剣ヴァンドライデン。王国の国宝である。
 竜の鱗を削り、ドワーフの名匠が鍛えたとされるそれは、斬れぬものはないと言われる切れ味を誇る。
 刀身はどこか青みがかっており、非常に美しい。

 今回すぐに討伐へ出るわけではないのだから、不要とバーナードは言ったのだが、大臣をはじめとする者達は「是非お持ちください」と押し付けるように持たせたのだ。自分に箔を付けようというのだろうが、余計なお世話だった。

 そもそも、今回、バーナードは大型魔獣シンディアを討伐する気持ちはあまりなかった。他の国の騎士達が倒せるというのならば、是非やって欲しいくらいである。すでに二回討伐したバーナードが、三回も討伐したならば他の騎士達から“恨み”を買う可能性が高い。

(だいたい、面倒くさいあの男も来ているのだから)
 
 バーナードは思い出してため息をついた。

「団長?」

「ああ、済まない。そうだな、剣は外してその机に置こう。結界魔道具は持ってきているな」

「はい」

 フィリップはすぐさま持参した魔道具を発動させていた。
 国宝を国外に持ち出すため、それを守るための魔道具を複数持たせられていた。
 魔道具の他にも、この竜剣を鞘から抜けるのは現在バーナードだけに魔法で登録設定しているという厳重さである。

「お疲れになりましたでしょう。すぐにお茶をいれます」

「いや、いい」

 バーナードは手招きしてフィリップを自分のそばまで近寄らせた。
 そしてその頬を両手で包み、口づけをする。
 角度を変え、触れ合うような口づけの後、深く舌を絡めるようなそれをする。

 フィリップは熱く息を吐き、欲のこもった視線でバーナードの瞳を見つめながら言った。

「いけません、団長。それ以上はマズイです」

「……そうか」

「そもそもまだ“静寂の魔道具”を作動させていないのですから。今、そちらも作動させますね」




 今回の国際会議に際して、親友にして王宮魔術師のマグルが口を酸っぱくして「絶対に“静寂の魔道具”を持っていけ。五個くらい持って行かないとダメだ」と言っていた。
 こうした会議では、盗聴の類が非常によく行われている。マグルには何度も「バーナード、お前は絶対に盗聴されまくるからな!!」と言われた。
 大型魔獣の討伐が見込まれる一番の有力者で、かつ新婚ほやほやだからだと力説された。

 その意味がよくわからなかったが、フィリップの方は深刻にそれを受け止めていた。

「マグルから、開発中の新型の“静寂の魔道具”も預かってきました」

「……あいつはいろいろなものを開発するな」

 バーナードは少し呆れながら、フィリップからその小型の“静寂の魔道具”を受け取る。

「そこの小さな四角い枠の中に、現在“盗聴の魔道具”をこちらに向けている数が表示されるそうですよ」

「……」

 好奇心から、バーナードは新型の“静寂の魔道具”を起動させた。
 瞬間、その小さな四角い枠内に表示された数は三十二であった。

 バーナードは目を瞬かせ、新型の“静寂の魔道具”のその数字を疑った。

「三十二と表示されているぞ。壊れているのじゃないか」

「いいえ、マグルと一緒に私もテストをしたので間違いじゃありません」

 フィリップはふーとため息をついた。

「三十二個の“盗聴の魔道具”が向けられています。すごいですね、団長」

 バーナードはみるみるうちに頬を染める。

「おい……さっきのあれは……」

「ええ、先程のあなたとの口づけのやりとりは、三十二個の“盗聴の魔道具”に拾われていました」

 その事実に、しばらくの間、バーナードは呆然と動きを止めていた。
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