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【短編】
古代ダンジョン踏破と魔術師の恨みつらみ (6)
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第六話 王宮副魔術師長との話し合い
バーナード騎士団長の親友で、王宮副魔術師長であるマグルは、バーナードが魔物に襲われていると聞いて、急いで王宮を飛び出した。
そして、自らが駆け付けた時には、追加で現れた魔物を、騎士達が嬲り殺しにしている状況であった。
「……すごいな」
王宮に勤める近衛騎士団と、王都に勤める王立騎士団は、ライバル関係にある。共に競い合うかのように、勢いよく魔物を屠っていた。
その様子を横目で見ながらも、マグルは足元に焼き付けられた魔法陣を、紙に書き写していく。
「……やはり、召喚の魔法陣か?」
しゃがみ込んで、丁寧に魔法陣を書き写しているマグルの手元を、バーナードが覗き込んで言う。
「無事だったのか、バーナード」
「ああ、問題ない」
怪我の一つもないその姿を見て、マグルも安堵した。
彼の後ろには、シャウルを抱き上げているフィリップもいた。
「シャウル=ヴィッセルが、馬車の前に現れ、その後、足元から魔法陣が展開した」
バーナードのその報告に、マグルもうなずいた。
「シャウルを媒介にした召喚魔法だろう。彼は、ギガントのダンジョンに囚われていたそうだから、その関係の魔術師がやった可能性が高い。この地面に焼き付いている魔法陣も、だいぶ古いタイプのものだ」
「……媒介にしているだと? シャウルに対して、あの魔術師がやっているのか?」
「あの魔術師ということは、バーナード、お前はこの召喚魔法を使った魔術師に心当たりがあるのか」
問いかけに、バーナードは頷いた。
「ギガントはダンジョンマスターになっている。古いタイプの魔法陣というのなら、昔から生きているという奴がやった可能性が高い」
「………………え? ギガントって生きているの? ダンジョンマスター?」
「あの“エロダンジョン”に挑戦する冒険者達の精力を吸って、長い年月生き延びているらしい。そう本人が言っていた」
「本人が言っていたって、お前、ギガントに会ったわけ? えええええ、ちょっと話を聞かせろよ!! 王宮に戻れ、バーナード」
そして、バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長は、引きずられるように王宮の、マグル副魔術師長の部屋へと連れて行かれる。
なお、シャウル=ヴィッセルは彼を中心とした魔法陣が展開されたことから、何らかの呪いが掛けられている可能性が高いとして、騎士団の他の騎士達に、王都の神殿に運ばれて、神官達に診てもらう手筈になっていた。
王宮のマグル副魔術師長の部屋に案内されたバーナードは、椅子に座り、マグルに報告した。
「侯爵家のシャウル=ヴィッセル救出のために、ギガントのダンジョンを踏破したという話は聞いていると思う」
「うんうん。お前ら二人が、あのエロダンジョンの“初の踏破者”として、随分話題になっているよね。なんせ高難度のエロダンジョンだから。すげぇよ、バーナード。僕、お前を尊敬する!!」
「…………」
尊敬されても全く嬉しくない。
「物凄い要求されたんだろう? 聞いたところによると、3P、4Pは当たり前。獣姦もあったとか。バーナード……僕は、任務の為とはいえ……お前のことを尊敬するぞ!!」
バーナードはその言葉を聞いて、さっと頬を紅潮させた。
階層が深まる度に、ダンジョンの要求難度は困難なものになると聞いていたが、そんな設問になるとは知らなかった。というか、後半の階層ではもう、中央の石板を一切確認することなく扉を叩き斬っていたのだ。
バーナードは、ダンとテーブルをその拳で叩く。
「俺とフィリップは断じて、そのように淫らでおぞましい行為なんぞしていないぞ!!」
「え、だって踏破したんだろう? 一通り、やったはずだと……」
不思議そうな顔をするマグルに、フィリップが説明した。
「団長は、王家から竜剣ヴァンドライデンをお借りして……かくかくしかじかという方法で」
「…………………マジ? そんなこと、許されるの? え? よく、ダンジョンをその方法で踏破できたね」
「団長ですから」
「まぁ、バーナードだから、できた方法なのかなぁ。それでも、お前、すごいな。竜剣ヴァンドライデンがあれば、お前って何でもできるんじゃね?」
「…………」
そのことをバーナードは否定しない。
元から、非常に強い人間であったバーナードは、“淫魔の王女”の称号を得てさらに能力は嵩上げされ、加えて竜剣ヴァンドライデンを手にした時には、もはや恐いものなしの状態になる。
王家もそれがわかっているから、バーナードに対して容易く竜剣を貸し与えている気がした。
「じゃあ、お前はその竜剣ヴァンドライデンでズルして、ダンジョンを踏破したわけか」
マグルはフィリップとバーナードにお茶を淹れ、茶菓子を皿に入れながらそう話しかけた。
バーナードはお茶を飲みながら、渋い顔で答える。
「俺はズルなどしていないぞ」
「えー、僕がダンジョンマスターだったら、お前のことは許せないなー。そうだろう、フィリップ?」
そう話しかけられたフィリップも、不承不承ながら、うなずいていたので、バーナードはショックを受けていた。
「お……俺がズルをしたというのか!!」
「ダンジョンっていうのはさ、ダンジョンの創造主が色々と考えてダンジョンを作るみたいなんだよね。そのルールにのっとった人間を“踏破者”として讃えるのさ。なのに、お前はその、エロダンジョンの設問には答えずにクリアしちゃったんだろう? せっかく何百年もダンジョンを守り続けていたダンジョンマスターとしては、立場ないよねー」
「………………」
その言葉にショックを受けているバーナード。それを見て、慌ててマグルは言った。
「でも、その裏道みたいな方法を許していたところに、ダンジョンマスターも作りに甘さがあったということだよ。挑戦者っていうのは、そういう隙を突くのも必要だからね」
「最初から最後までその隙を徹底的に突くのも、なかなかないと思いますが……」
「フィリップ、お前、バーナードの嫁なんだろう!! ちゃんとバーナードを励ませよ!!」
キス以外やらせてもらえなかった恨みがあるフィリップは、味方とはいえず、バーナードの後ろから刺してきていた。
ズーンと少し暗くなっているバーナードを、マグルは励まそうとしながらも失敗していた。
「とりあえず、犯人はわかった。良かったな、バーナード」
「犯人は誰だ」
「そんなの、決まっている。お前達に恨みを持ったダンジョンマスター、古代の魔術師ギガントだ」
「………………」
「やっぱりちゃんと最初から、ダンジョンの設問をクリアしていけばよかったんですよ、バーナード」
優しくもキッパリと言うフィリップに、ぐっと言葉に詰まるバーナード。
その騎士団長の頬にそっと手を添え、茶色の瞳を覗き込みながらこう言った。
「今からでも、設問を解きに行きますか」
その問いかけに、バーナードもまたキッパリと答えた。
「二度と御免だ」
バーナード騎士団長の親友で、王宮副魔術師長であるマグルは、バーナードが魔物に襲われていると聞いて、急いで王宮を飛び出した。
そして、自らが駆け付けた時には、追加で現れた魔物を、騎士達が嬲り殺しにしている状況であった。
「……すごいな」
王宮に勤める近衛騎士団と、王都に勤める王立騎士団は、ライバル関係にある。共に競い合うかのように、勢いよく魔物を屠っていた。
その様子を横目で見ながらも、マグルは足元に焼き付けられた魔法陣を、紙に書き写していく。
「……やはり、召喚の魔法陣か?」
しゃがみ込んで、丁寧に魔法陣を書き写しているマグルの手元を、バーナードが覗き込んで言う。
「無事だったのか、バーナード」
「ああ、問題ない」
怪我の一つもないその姿を見て、マグルも安堵した。
彼の後ろには、シャウルを抱き上げているフィリップもいた。
「シャウル=ヴィッセルが、馬車の前に現れ、その後、足元から魔法陣が展開した」
バーナードのその報告に、マグルもうなずいた。
「シャウルを媒介にした召喚魔法だろう。彼は、ギガントのダンジョンに囚われていたそうだから、その関係の魔術師がやった可能性が高い。この地面に焼き付いている魔法陣も、だいぶ古いタイプのものだ」
「……媒介にしているだと? シャウルに対して、あの魔術師がやっているのか?」
「あの魔術師ということは、バーナード、お前はこの召喚魔法を使った魔術師に心当たりがあるのか」
問いかけに、バーナードは頷いた。
「ギガントはダンジョンマスターになっている。古いタイプの魔法陣というのなら、昔から生きているという奴がやった可能性が高い」
「………………え? ギガントって生きているの? ダンジョンマスター?」
「あの“エロダンジョン”に挑戦する冒険者達の精力を吸って、長い年月生き延びているらしい。そう本人が言っていた」
「本人が言っていたって、お前、ギガントに会ったわけ? えええええ、ちょっと話を聞かせろよ!! 王宮に戻れ、バーナード」
そして、バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長は、引きずられるように王宮の、マグル副魔術師長の部屋へと連れて行かれる。
なお、シャウル=ヴィッセルは彼を中心とした魔法陣が展開されたことから、何らかの呪いが掛けられている可能性が高いとして、騎士団の他の騎士達に、王都の神殿に運ばれて、神官達に診てもらう手筈になっていた。
王宮のマグル副魔術師長の部屋に案内されたバーナードは、椅子に座り、マグルに報告した。
「侯爵家のシャウル=ヴィッセル救出のために、ギガントのダンジョンを踏破したという話は聞いていると思う」
「うんうん。お前ら二人が、あのエロダンジョンの“初の踏破者”として、随分話題になっているよね。なんせ高難度のエロダンジョンだから。すげぇよ、バーナード。僕、お前を尊敬する!!」
「…………」
尊敬されても全く嬉しくない。
「物凄い要求されたんだろう? 聞いたところによると、3P、4Pは当たり前。獣姦もあったとか。バーナード……僕は、任務の為とはいえ……お前のことを尊敬するぞ!!」
バーナードはその言葉を聞いて、さっと頬を紅潮させた。
階層が深まる度に、ダンジョンの要求難度は困難なものになると聞いていたが、そんな設問になるとは知らなかった。というか、後半の階層ではもう、中央の石板を一切確認することなく扉を叩き斬っていたのだ。
バーナードは、ダンとテーブルをその拳で叩く。
「俺とフィリップは断じて、そのように淫らでおぞましい行為なんぞしていないぞ!!」
「え、だって踏破したんだろう? 一通り、やったはずだと……」
不思議そうな顔をするマグルに、フィリップが説明した。
「団長は、王家から竜剣ヴァンドライデンをお借りして……かくかくしかじかという方法で」
「…………………マジ? そんなこと、許されるの? え? よく、ダンジョンをその方法で踏破できたね」
「団長ですから」
「まぁ、バーナードだから、できた方法なのかなぁ。それでも、お前、すごいな。竜剣ヴァンドライデンがあれば、お前って何でもできるんじゃね?」
「…………」
そのことをバーナードは否定しない。
元から、非常に強い人間であったバーナードは、“淫魔の王女”の称号を得てさらに能力は嵩上げされ、加えて竜剣ヴァンドライデンを手にした時には、もはや恐いものなしの状態になる。
王家もそれがわかっているから、バーナードに対して容易く竜剣を貸し与えている気がした。
「じゃあ、お前はその竜剣ヴァンドライデンでズルして、ダンジョンを踏破したわけか」
マグルはフィリップとバーナードにお茶を淹れ、茶菓子を皿に入れながらそう話しかけた。
バーナードはお茶を飲みながら、渋い顔で答える。
「俺はズルなどしていないぞ」
「えー、僕がダンジョンマスターだったら、お前のことは許せないなー。そうだろう、フィリップ?」
そう話しかけられたフィリップも、不承不承ながら、うなずいていたので、バーナードはショックを受けていた。
「お……俺がズルをしたというのか!!」
「ダンジョンっていうのはさ、ダンジョンの創造主が色々と考えてダンジョンを作るみたいなんだよね。そのルールにのっとった人間を“踏破者”として讃えるのさ。なのに、お前はその、エロダンジョンの設問には答えずにクリアしちゃったんだろう? せっかく何百年もダンジョンを守り続けていたダンジョンマスターとしては、立場ないよねー」
「………………」
その言葉にショックを受けているバーナード。それを見て、慌ててマグルは言った。
「でも、その裏道みたいな方法を許していたところに、ダンジョンマスターも作りに甘さがあったということだよ。挑戦者っていうのは、そういう隙を突くのも必要だからね」
「最初から最後までその隙を徹底的に突くのも、なかなかないと思いますが……」
「フィリップ、お前、バーナードの嫁なんだろう!! ちゃんとバーナードを励ませよ!!」
キス以外やらせてもらえなかった恨みがあるフィリップは、味方とはいえず、バーナードの後ろから刺してきていた。
ズーンと少し暗くなっているバーナードを、マグルは励まそうとしながらも失敗していた。
「とりあえず、犯人はわかった。良かったな、バーナード」
「犯人は誰だ」
「そんなの、決まっている。お前達に恨みを持ったダンジョンマスター、古代の魔術師ギガントだ」
「………………」
「やっぱりちゃんと最初から、ダンジョンの設問をクリアしていけばよかったんですよ、バーナード」
優しくもキッパリと言うフィリップに、ぐっと言葉に詰まるバーナード。
その騎士団長の頬にそっと手を添え、茶色の瞳を覗き込みながらこう言った。
「今からでも、設問を解きに行きますか」
その問いかけに、バーナードもまたキッパリと答えた。
「二度と御免だ」
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