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第十一章 聖王国の神子
第四話 驚く王宮副魔術師長
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「それで、フィリップ。新婚ほやほやの、妻の実家に厄介になっている僕のところへ何の用で訪ねてきたのかな」
結婚式を挙げた後、マグルは妻の実家に養子に入った。それと同時に妻の実家で義父と妻との三人暮らしを始めていた。
義父であるマクレイガー教授とも良い関係を構築できているようで、まずまず順調な結婚生活のようだ。
一階の奥に、マグルは自室をもらっていた。
魔道具と本の山を運び込むのは結構大変だったという話である(床が抜けるのを避けるため、一階に部屋をもらったらしい)。
そうは言いながらも、マグルはフィリップを自室へ招き入れた。
妻のカトリーヌがお茶を出して、一礼して退室した。
「すまない。新婚のところ邪魔してしまって」
「まぁ、いい。バーナードと喧嘩でもしたのか?」
それに、フィリップは首を振った。
「喧嘩はしていない。ただ、意見が合わなくて、バーナードを不機嫌にさせているだけだ」
「……珍しいな。お前はバーナードの言うことには“ハイ、団長”“わかりました、団長”と常にイエスマンだったじゃないか」
「……………………」
否定できない。
バーナードを尊敬するフィリップは、常にバーナードの言葉に全幅の信頼を置いて、彼の言葉通りに動いてきた。
「ちょっと前から、仲違いもしていたみたいだし、どうしたんだ」
「…………“静寂の魔道具”を作動させてくれるか?」
「わかった」
王宮副魔術師長で、魔道具のコレクターであるマグルは、即、どこからか“静寂の魔道具”を取り出して、テーブルの上で作動させた。
フィリップは膝に置いた自分の手を見つめた後、意を決してマグルに打ち明けた。
「団長との子供が欲しいと言っても、彼は賛成しないんだ」
「…………おい、ちょっと待て、フィリップ」
マグルはどこか慌てて言った。
「子供って、フィリップ、お前、いつ子供が産めるようになったんだ」
恐ろしいものでも見るような視線を、フィリップへと向けるマグル。じろじろとフィリップの腹や股間のあたりを不躾に見ている。
※マグルは、未だにフィリップが「妻役」だと思っています。
「私が産むわけじゃないんです。大妖精のご隠居様から、木に実らせたり、木の股から産むことができると聞いています」
「はああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ?!」
マグルは驚きの余り、あんぐりと口を開けて、叫んでいた。
「木に実らせるとか、木の股から産むとか、なんじゃそりゃ」
「……だから、私のお腹が膨らんで出産ということではないんです」
「ねぇねぇ、その木って、どこの木に実るの? 王立騎士団の裏手の木? それとも、王都の広場の木? それとも、バーナードの屋敷の木? はたまたフィリップの家の裏手の木? どこの木にどうやって実らせるの? すげぇ興味ある!!」
ぐっとフィリップの手を掴んで、マグルは目をギラギラと輝かせて言った。
それから、フルにその頭脳を回転させているようで、ぶつぶつと言い始める。
「そうか。バーナードは、高位の淫魔族で、人間の理から外れた存在になっているわけか。意志の力が強い、高魔力を持つ高位魔族だからこそ、その“願い”の力は桁が違う能力を持つのかも知れない。はぁ、でもすごいな。木に実り、木の股から生まれるって、どちらの方法をとるのだろう。だいたい、セックスした結果が木に実るってどういうこと? もうシステム的におかしいよね!! ま、バーナード自身、いつの間に気が付いていたら淫魔になっていたとか、それ自体おかしいんだけどね!!」
「……でも団長は、私達の子供が欲しくないようです」
フィリップはため息をついている。
美貌の副騎士団長の物憂げな様子を見て、マグルも困ったような顔をした。
「子供のことは、よくバーナードと相談しろよ。俺もお前達二人の子供は見てみたい気持ちはある。だけど、生まれたら生まれたで、大変になることはわかる」
「バーナードもそのことを心配していました。私とバーナードの子供は人間ではないだろうと」
「木に実る時点でもうアレだしな!!」
「………………………」
否定できない。
「二人の願いが一つにならないと、おそらく子は産まれない。“願い”の力が結実してできる仕組みだと思う。とにかく、よく話し合わないと、はじまらないぞ」
それから、フィリップは事あるごとにバーナードへ、子が欲しい話をしたのだが、彼は常にそれを拒否していた。
「木に実るとかあり得ない」
「生まれてくる子は淫魔だ」
「自然の摂理に反する」
と言って、にべもなく断られる。
最近では「こ」と言うだけでジロリとその茶色の瞳で見つめられ、ため息までつかれるようになっていた。
「お前は、自分が赤ん坊を可愛がりたいだけで、生みたいと言っているだけだ。その子の人生のことも考えろ」
彼はフィリップの屋敷の、居間のソファに座り、書類をめくりながらそう言った。
「人として生活することは厳しいだろう。魔族なら、迫害される可能性が高い。それに」
バーナードは、フィリップの青い目を見つめながらこう言った。
「精力を求めるようになるその子を、お前はどう満足させるつもりだ」
それに、フィリップはぐっと言葉に詰まった。
「……だから、この話は無しだ。わかったな」
バーナードは決してその首を縦に振ることはなかった。
フィリップは、自身がおそらく呪いを受けて、人狼になったかも知れない話を、未だバーナードに告白できていなかった。生まれてくる子供について、バーナードは淫魔になると考えているが、人狼になる可能性もある。だが共に、人間の子ではなく生まれてくることは確かであった。
結婚式を挙げた後、マグルは妻の実家に養子に入った。それと同時に妻の実家で義父と妻との三人暮らしを始めていた。
義父であるマクレイガー教授とも良い関係を構築できているようで、まずまず順調な結婚生活のようだ。
一階の奥に、マグルは自室をもらっていた。
魔道具と本の山を運び込むのは結構大変だったという話である(床が抜けるのを避けるため、一階に部屋をもらったらしい)。
そうは言いながらも、マグルはフィリップを自室へ招き入れた。
妻のカトリーヌがお茶を出して、一礼して退室した。
「すまない。新婚のところ邪魔してしまって」
「まぁ、いい。バーナードと喧嘩でもしたのか?」
それに、フィリップは首を振った。
「喧嘩はしていない。ただ、意見が合わなくて、バーナードを不機嫌にさせているだけだ」
「……珍しいな。お前はバーナードの言うことには“ハイ、団長”“わかりました、団長”と常にイエスマンだったじゃないか」
「……………………」
否定できない。
バーナードを尊敬するフィリップは、常にバーナードの言葉に全幅の信頼を置いて、彼の言葉通りに動いてきた。
「ちょっと前から、仲違いもしていたみたいだし、どうしたんだ」
「…………“静寂の魔道具”を作動させてくれるか?」
「わかった」
王宮副魔術師長で、魔道具のコレクターであるマグルは、即、どこからか“静寂の魔道具”を取り出して、テーブルの上で作動させた。
フィリップは膝に置いた自分の手を見つめた後、意を決してマグルに打ち明けた。
「団長との子供が欲しいと言っても、彼は賛成しないんだ」
「…………おい、ちょっと待て、フィリップ」
マグルはどこか慌てて言った。
「子供って、フィリップ、お前、いつ子供が産めるようになったんだ」
恐ろしいものでも見るような視線を、フィリップへと向けるマグル。じろじろとフィリップの腹や股間のあたりを不躾に見ている。
※マグルは、未だにフィリップが「妻役」だと思っています。
「私が産むわけじゃないんです。大妖精のご隠居様から、木に実らせたり、木の股から産むことができると聞いています」
「はああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ?!」
マグルは驚きの余り、あんぐりと口を開けて、叫んでいた。
「木に実らせるとか、木の股から産むとか、なんじゃそりゃ」
「……だから、私のお腹が膨らんで出産ということではないんです」
「ねぇねぇ、その木って、どこの木に実るの? 王立騎士団の裏手の木? それとも、王都の広場の木? それとも、バーナードの屋敷の木? はたまたフィリップの家の裏手の木? どこの木にどうやって実らせるの? すげぇ興味ある!!」
ぐっとフィリップの手を掴んで、マグルは目をギラギラと輝かせて言った。
それから、フルにその頭脳を回転させているようで、ぶつぶつと言い始める。
「そうか。バーナードは、高位の淫魔族で、人間の理から外れた存在になっているわけか。意志の力が強い、高魔力を持つ高位魔族だからこそ、その“願い”の力は桁が違う能力を持つのかも知れない。はぁ、でもすごいな。木に実り、木の股から生まれるって、どちらの方法をとるのだろう。だいたい、セックスした結果が木に実るってどういうこと? もうシステム的におかしいよね!! ま、バーナード自身、いつの間に気が付いていたら淫魔になっていたとか、それ自体おかしいんだけどね!!」
「……でも団長は、私達の子供が欲しくないようです」
フィリップはため息をついている。
美貌の副騎士団長の物憂げな様子を見て、マグルも困ったような顔をした。
「子供のことは、よくバーナードと相談しろよ。俺もお前達二人の子供は見てみたい気持ちはある。だけど、生まれたら生まれたで、大変になることはわかる」
「バーナードもそのことを心配していました。私とバーナードの子供は人間ではないだろうと」
「木に実る時点でもうアレだしな!!」
「………………………」
否定できない。
「二人の願いが一つにならないと、おそらく子は産まれない。“願い”の力が結実してできる仕組みだと思う。とにかく、よく話し合わないと、はじまらないぞ」
それから、フィリップは事あるごとにバーナードへ、子が欲しい話をしたのだが、彼は常にそれを拒否していた。
「木に実るとかあり得ない」
「生まれてくる子は淫魔だ」
「自然の摂理に反する」
と言って、にべもなく断られる。
最近では「こ」と言うだけでジロリとその茶色の瞳で見つめられ、ため息までつかれるようになっていた。
「お前は、自分が赤ん坊を可愛がりたいだけで、生みたいと言っているだけだ。その子の人生のことも考えろ」
彼はフィリップの屋敷の、居間のソファに座り、書類をめくりながらそう言った。
「人として生活することは厳しいだろう。魔族なら、迫害される可能性が高い。それに」
バーナードは、フィリップの青い目を見つめながらこう言った。
「精力を求めるようになるその子を、お前はどう満足させるつもりだ」
それに、フィリップはぐっと言葉に詰まった。
「……だから、この話は無しだ。わかったな」
バーナードは決してその首を縦に振ることはなかった。
フィリップは、自身がおそらく呪いを受けて、人狼になったかも知れない話を、未だバーナードに告白できていなかった。生まれてくる子供について、バーナードは淫魔になると考えているが、人狼になる可能性もある。だが共に、人間の子ではなく生まれてくることは確かであった。
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