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第十五章 王立魔術学園の特別講師
第十話 淫魔達の目的
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レブランから教えられた「面白い人間」である少年を、王立魔術学園の放課後、見かけたと思ったら、その翌日からパタリとその姿を見ることが無くなった。
翌週も、その翌週もまったく見かけない。
“淫魔の王”ウルディヌスの側についているパラフィンヌは「ああもジロジロ見られれば、当然警戒しますよ」とあきれ顔で言っていた。
ウルディヌスらが身を隠すこともせずに、ジロジロと眺めていたのがあまりにもあからさまであったからだ。
せめて物陰からちょっと確認する程度に済ませておけば良かったのに。
パラフィンヌがため息をつくが、もはや後の祭りである。
王都の高級宿の最上階の部屋を借り切ったウルディヌスは、長椅子に優雅に横たわり、レブランから教えられていた情報の書かれた紙を手に、声を上げて読みあげていた。
「十代半ばの少年。黒髪に茶色の瞳。中等部に聴講生として在籍。学園内の噂によると、王都の王立騎士団長の隠し子ではないかという話だ。騎士見習いで、騎士学校にも通っているらしい。学園帰りには金髪の騎士の迎えがある」
「ああ、いましたね。素敵な騎士でした」
淫魔のルルが嬉しそうな笑顔でそう言う。最初にその少年と出会った時、傍らにいた騎士のことを覚えていた。
淫魔のベイグラムは「通っているらしい話でしたが、騎士学校に通っていないことは確認済です」と告げた。
「騎士団の方は確認できたのか? 騎士団長の隠し子だというのなら、そこから探していけばいいだろう」
そのウルディヌスの言葉に、ルルとベイグラムは顔を見合わせた。
「えー、騎士団長のバーナードという人は魔獣退治でめちゃ強いらしいじゃないですか。私達みたいな淫魔が見つかったら、すぐさま捕まえられちゃいます」
「そうですよ。王立騎士団の拠点なんかに行ったが最後になります。絶対に近寄りたくありません!!」
どうやら王立騎士団の情報を取りに行くことを恐れているらしい。
そう言われれば、ウルディヌス自身もそんな強いという騎士団長には近寄りたくない気持ちになった。
先日の聖王国の聖騎士団長に殺されかけたことがトラウマでもあった。
「わかった。騎士団から情報を拾うことは諦めよう」
諦めが早いウルディヌスである。
「じゃあ、王立魔術学園一択だな。あそこの学園に通う生徒達を何人か誑かして、情報を集めるぞ!!」
「「はい」」
淫魔達は喜んで頷いていた。
魔力を多く持つであろう王立魔術学園の生徒達は、彼らにとって“上等の餌”であった。
その命令は嬉しいご褒美でもあったのだ。
だが、淫魔達の中で唯一理性的であるパラフィンヌがそれを止めた。
「ウルディヌス様、直接学園に行って生徒達を誑かせるのは駄目ですよ」
「何故だ、パラフィンヌ」
ウルディヌスが訝し気な顔で女淫魔の顔を見ると、パラフィンヌは軽く頭を振った。
「いいですか。仮に、その少年が本当に騎士団長の隠し子だとします。もし、息子が通っている学園に淫魔が来て生徒達を誑かしている状態が明らかになれば、騎士団長自ら問題解決の為に学園に乗り出して、貴方はすぐに捕まってまた殺されかけますよ」
「…………」
サーッと、ウルディヌス、ルル、ベイグラムの顔色が悪くなる。
「簡単にはバレないように、慎重に事を運ばなければなりません。わかりますよね、ウルディヌス様」
「わかった。パラフィンヌの命令にみんな従うぞ!!」
「「はい」」
なぜか“淫魔の王”も他の淫魔達も、パラフィンヌの命令に従う気満々になっていた。
おそらく、もう考えるのが面倒なのだろう。
淫魔達の思考が停止していることに、パラフィンヌは残念な気持ちになっていた。
「では最初に、目的をきちんと決めましょう」
パラフィンヌは“淫魔の王”ウルディヌス、ルル、ベイグラムの前でそう言った。
「目的は、あの少年の正体を探るということでよろしいですね」
それには“淫魔の王”ウルディヌスは首を振った。
「違う」
「違うのですか」
吸血鬼のレブランから、「面白い人間がいる」と言われ、その人間に会って、彼が何者か探ることが目的だと思っていた。
その先の行動は、レブランと共同で為した方が間違いがないだろう。
むしろウルディヌスだけで事を起こすのは怖い。
“淫魔の王”の称号を持っていたが、ウルディヌスは戦闘力は皆無に等しかった。
「あの少年の精力を味わいたい」
「…………やめておいた方がよろしいかと思います」
一目見て、あの少年は上位の“魔”の気配を帯びていた。
ただの淫魔であるルルやベイグラム、そしてパラフィンヌも彼を見て怯え切ったのだ。
強力な“魔”の気配をまとう少年。
「ただ正体を知るだけで、終わるなんて面白くないだろう。やはり淫魔たるもの、彼の精力を喰らわねばなるまい」
「さすがです、ウルディヌス様!!」
「我々もついていきます!!」
腰巾着のルルとベイグラムは、ウルディヌスを讃えているが、パラフィンヌはもう一度、「やめておいた方が良い」と告げた。
だが、それにはウルディヌスはパラフィンヌの話を聞かなかった。
「それにレブランに彼の正体を教えたら、それでレブランが動いて、彼を奪い取ってしまう。何のおこぼれも無くなってしまう」
そのことについて、ウルディヌスは正確に先のことを見通していた。
吸血鬼族のレブランが「欲しい」と思って動いてしまえば、もうウルディヌスは手に入れることは出来ない。
吸血鬼族の中でも古株のレブランは、高位魔族の中でも別格で、“淫魔の王”の称号を持つウルディヌスよりも格上であった。ウルディヌスはレブランに否と言えない。
「だから、先に我々が手に入れるべきだ」
翌週も、その翌週もまったく見かけない。
“淫魔の王”ウルディヌスの側についているパラフィンヌは「ああもジロジロ見られれば、当然警戒しますよ」とあきれ顔で言っていた。
ウルディヌスらが身を隠すこともせずに、ジロジロと眺めていたのがあまりにもあからさまであったからだ。
せめて物陰からちょっと確認する程度に済ませておけば良かったのに。
パラフィンヌがため息をつくが、もはや後の祭りである。
王都の高級宿の最上階の部屋を借り切ったウルディヌスは、長椅子に優雅に横たわり、レブランから教えられていた情報の書かれた紙を手に、声を上げて読みあげていた。
「十代半ばの少年。黒髪に茶色の瞳。中等部に聴講生として在籍。学園内の噂によると、王都の王立騎士団長の隠し子ではないかという話だ。騎士見習いで、騎士学校にも通っているらしい。学園帰りには金髪の騎士の迎えがある」
「ああ、いましたね。素敵な騎士でした」
淫魔のルルが嬉しそうな笑顔でそう言う。最初にその少年と出会った時、傍らにいた騎士のことを覚えていた。
淫魔のベイグラムは「通っているらしい話でしたが、騎士学校に通っていないことは確認済です」と告げた。
「騎士団の方は確認できたのか? 騎士団長の隠し子だというのなら、そこから探していけばいいだろう」
そのウルディヌスの言葉に、ルルとベイグラムは顔を見合わせた。
「えー、騎士団長のバーナードという人は魔獣退治でめちゃ強いらしいじゃないですか。私達みたいな淫魔が見つかったら、すぐさま捕まえられちゃいます」
「そうですよ。王立騎士団の拠点なんかに行ったが最後になります。絶対に近寄りたくありません!!」
どうやら王立騎士団の情報を取りに行くことを恐れているらしい。
そう言われれば、ウルディヌス自身もそんな強いという騎士団長には近寄りたくない気持ちになった。
先日の聖王国の聖騎士団長に殺されかけたことがトラウマでもあった。
「わかった。騎士団から情報を拾うことは諦めよう」
諦めが早いウルディヌスである。
「じゃあ、王立魔術学園一択だな。あそこの学園に通う生徒達を何人か誑かして、情報を集めるぞ!!」
「「はい」」
淫魔達は喜んで頷いていた。
魔力を多く持つであろう王立魔術学園の生徒達は、彼らにとって“上等の餌”であった。
その命令は嬉しいご褒美でもあったのだ。
だが、淫魔達の中で唯一理性的であるパラフィンヌがそれを止めた。
「ウルディヌス様、直接学園に行って生徒達を誑かせるのは駄目ですよ」
「何故だ、パラフィンヌ」
ウルディヌスが訝し気な顔で女淫魔の顔を見ると、パラフィンヌは軽く頭を振った。
「いいですか。仮に、その少年が本当に騎士団長の隠し子だとします。もし、息子が通っている学園に淫魔が来て生徒達を誑かしている状態が明らかになれば、騎士団長自ら問題解決の為に学園に乗り出して、貴方はすぐに捕まってまた殺されかけますよ」
「…………」
サーッと、ウルディヌス、ルル、ベイグラムの顔色が悪くなる。
「簡単にはバレないように、慎重に事を運ばなければなりません。わかりますよね、ウルディヌス様」
「わかった。パラフィンヌの命令にみんな従うぞ!!」
「「はい」」
なぜか“淫魔の王”も他の淫魔達も、パラフィンヌの命令に従う気満々になっていた。
おそらく、もう考えるのが面倒なのだろう。
淫魔達の思考が停止していることに、パラフィンヌは残念な気持ちになっていた。
「では最初に、目的をきちんと決めましょう」
パラフィンヌは“淫魔の王”ウルディヌス、ルル、ベイグラムの前でそう言った。
「目的は、あの少年の正体を探るということでよろしいですね」
それには“淫魔の王”ウルディヌスは首を振った。
「違う」
「違うのですか」
吸血鬼のレブランから、「面白い人間がいる」と言われ、その人間に会って、彼が何者か探ることが目的だと思っていた。
その先の行動は、レブランと共同で為した方が間違いがないだろう。
むしろウルディヌスだけで事を起こすのは怖い。
“淫魔の王”の称号を持っていたが、ウルディヌスは戦闘力は皆無に等しかった。
「あの少年の精力を味わいたい」
「…………やめておいた方がよろしいかと思います」
一目見て、あの少年は上位の“魔”の気配を帯びていた。
ただの淫魔であるルルやベイグラム、そしてパラフィンヌも彼を見て怯え切ったのだ。
強力な“魔”の気配をまとう少年。
「ただ正体を知るだけで、終わるなんて面白くないだろう。やはり淫魔たるもの、彼の精力を喰らわねばなるまい」
「さすがです、ウルディヌス様!!」
「我々もついていきます!!」
腰巾着のルルとベイグラムは、ウルディヌスを讃えているが、パラフィンヌはもう一度、「やめておいた方が良い」と告げた。
だが、それにはウルディヌスはパラフィンヌの話を聞かなかった。
「それにレブランに彼の正体を教えたら、それでレブランが動いて、彼を奪い取ってしまう。何のおこぼれも無くなってしまう」
そのことについて、ウルディヌスは正確に先のことを見通していた。
吸血鬼族のレブランが「欲しい」と思って動いてしまえば、もうウルディヌスは手に入れることは出来ない。
吸血鬼族の中でも古株のレブランは、高位魔族の中でも別格で、“淫魔の王”の称号を持つウルディヌスよりも格上であった。ウルディヌスはレブランに否と言えない。
「だから、先に我々が手に入れるべきだ」
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