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第二十三章 砕け散る魔剣
第一話 帰還
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北方地方の休暇は、その後、急遽切り上げられることになる。
王宮副魔術師長マグルを通じて王宮から連絡がきたのだ。
王立騎士団の騎士団長たるバーナードは、休暇の間といえども、何か事件があれば王都へ戻る義務が課せられている。そこで同じ別荘にいる、ディーターとジェラルドにも、王都へ戻る旨を伝える。
ジェラルドは、何故、この北方地方の同じ別荘内にバート(バーナードは魔道具で少年の姿をとっていた)とフィリップ副騎士団長の二人がいるのかよく分からない様子だった。戸惑う彼の前で、バートはいたって冷静に伝えていた。
「王立騎士団に陛下からの招集が掛けられた。近衛騎士団の騎士達にも事態報告のために招集が掛けられているだろう。ジェラルド、お前も王都へ戻った方がいい」
自分よりも年下のはずなのに、バートはどこか尊大な口ぶりである。
そしてそんな彼の傍らに、フィリップ副騎士団長が当然のように控えていた。
(どうして王立騎士団の副騎士団長が、バートのそばにいるんだ)
そこでジェラルドは、バートが以前、彼にこう話したことを思い出した。
『遠い親戚みたいなものだ』
バートがバーナード騎士団長と親戚関係にあるから、彼の伴侶であるフィリップは、バートにも付き従っている。いや、フィリップ副騎士団長はバートに付き従うどころではない。
昨夜、ひょんなことから覗き見ることになった二人の濃厚な性交の様子は単なる親戚の少年に対してするものではなかった。今、思い出しても赤面してしまう思いだった。
二人の関係がよく分からなかった。
ディーターにも尋ねたが、ディーターは「人の秘密は俺からは話せない。あの二人に直接聞いてくれ」と言って教えてくれない。自分のことは何でも話してくれるディーターであったが、彼らについては別のようだ。
「一度、ジェラルドは自分の別荘に戻ってから、王都へ帰還するか?」
問われたことで、ジェラルドははたと気が付いた。
昨夜、あの黒髪の男に宿に連れ込まれ、そしてディーターと関係を持ってから一度も自分の別荘に帰っていないことに。
当然、別荘にいる召使達はジェラルドの突然の不在を心配しているだろう。
「はい、一度戻ります。お世話になりました」
何故かバート少年に対して、敬語を使いはじめるジェラルドだった。
バートとフィリップは一足先に王都へ戻ると言って、慌ただしく転移魔法陣を使用して行ってしまった。
ジェラルドは、再び仔犬の姿に戻ったディーターを抱きながら、自分の別荘への雪道を急いで歩いていく。
白い息を吐きながら、腕の中の仔犬に話しかける。
「王立騎士団と近衛騎士団に招集がかけられるなんて、いったい何が起こったんだろうね」
ここしばらく平和が続いていた王国である。
緊急事態といっても、何でそうなったのか思いつかなかった。
「僕達も早く、王都に戻ろう」
そう言うと、返事をするように腕の中の仔犬は「ワン」と吠えたのだった。
少しばかりジェラルドは疑問を抱いた。
「狼も、ワンと鳴くの?」
その問いかけに、仔犬のディーターは恥ずかしそうに小さく鳴いていた。
バートとフィリップは、王都へ戻るや否や、すぐさま騎士団の軍衣に着替えた。
もちろん、バーナードは“若返りの魔道具”を外して、大人の姿に戻っていた。
慌ただしく王宮へ向かう馬車に乗る。その馬車の中で、バーナード騎士団長は騎士団の拠点に届いていた報告書を読み進めていく。
「ランディア王国の首都に大型魔獣が出現して、死傷者多数。魔獣は倒せたが、騎士団が半壊とは……」
驚いた。そしてバーナードは傍らのフィリップに読み終わった報告書を手渡す。
フィリップも報告書をめくって素早く目を走らせている。
「……都に大型魔獣が出現したんですか?」
「ああ、先日もタコのような巨大な魔獣が出現したと報告があった。今回はイカだったらしい」
「……海ではないのに、なぜ首都に海の魔獣が出現するのでしょう」
「巻末に、ランディア王国の王宮魔術師団が分析した報告がある。それによると、召喚された魔獣らしい」
「…………」
「ランディア王国では、子供の誘拐騒ぎが続いている。それにこれらの魔獣は、地下水路から現れているという」
情報の重なる符号にフィリップ副騎士団長は顔を上げた。
「………副都の事件の奴らでしょうか?」
その問いかけに、バーナード騎士団長はうなずいた。そして眉間に皺を寄せて言った。
「犯人は、ランディア王国に流れ着いて、いよいよ動き始めたということだ」
王宮副魔術師長マグルを通じて王宮から連絡がきたのだ。
王立騎士団の騎士団長たるバーナードは、休暇の間といえども、何か事件があれば王都へ戻る義務が課せられている。そこで同じ別荘にいる、ディーターとジェラルドにも、王都へ戻る旨を伝える。
ジェラルドは、何故、この北方地方の同じ別荘内にバート(バーナードは魔道具で少年の姿をとっていた)とフィリップ副騎士団長の二人がいるのかよく分からない様子だった。戸惑う彼の前で、バートはいたって冷静に伝えていた。
「王立騎士団に陛下からの招集が掛けられた。近衛騎士団の騎士達にも事態報告のために招集が掛けられているだろう。ジェラルド、お前も王都へ戻った方がいい」
自分よりも年下のはずなのに、バートはどこか尊大な口ぶりである。
そしてそんな彼の傍らに、フィリップ副騎士団長が当然のように控えていた。
(どうして王立騎士団の副騎士団長が、バートのそばにいるんだ)
そこでジェラルドは、バートが以前、彼にこう話したことを思い出した。
『遠い親戚みたいなものだ』
バートがバーナード騎士団長と親戚関係にあるから、彼の伴侶であるフィリップは、バートにも付き従っている。いや、フィリップ副騎士団長はバートに付き従うどころではない。
昨夜、ひょんなことから覗き見ることになった二人の濃厚な性交の様子は単なる親戚の少年に対してするものではなかった。今、思い出しても赤面してしまう思いだった。
二人の関係がよく分からなかった。
ディーターにも尋ねたが、ディーターは「人の秘密は俺からは話せない。あの二人に直接聞いてくれ」と言って教えてくれない。自分のことは何でも話してくれるディーターであったが、彼らについては別のようだ。
「一度、ジェラルドは自分の別荘に戻ってから、王都へ帰還するか?」
問われたことで、ジェラルドははたと気が付いた。
昨夜、あの黒髪の男に宿に連れ込まれ、そしてディーターと関係を持ってから一度も自分の別荘に帰っていないことに。
当然、別荘にいる召使達はジェラルドの突然の不在を心配しているだろう。
「はい、一度戻ります。お世話になりました」
何故かバート少年に対して、敬語を使いはじめるジェラルドだった。
バートとフィリップは一足先に王都へ戻ると言って、慌ただしく転移魔法陣を使用して行ってしまった。
ジェラルドは、再び仔犬の姿に戻ったディーターを抱きながら、自分の別荘への雪道を急いで歩いていく。
白い息を吐きながら、腕の中の仔犬に話しかける。
「王立騎士団と近衛騎士団に招集がかけられるなんて、いったい何が起こったんだろうね」
ここしばらく平和が続いていた王国である。
緊急事態といっても、何でそうなったのか思いつかなかった。
「僕達も早く、王都に戻ろう」
そう言うと、返事をするように腕の中の仔犬は「ワン」と吠えたのだった。
少しばかりジェラルドは疑問を抱いた。
「狼も、ワンと鳴くの?」
その問いかけに、仔犬のディーターは恥ずかしそうに小さく鳴いていた。
バートとフィリップは、王都へ戻るや否や、すぐさま騎士団の軍衣に着替えた。
もちろん、バーナードは“若返りの魔道具”を外して、大人の姿に戻っていた。
慌ただしく王宮へ向かう馬車に乗る。その馬車の中で、バーナード騎士団長は騎士団の拠点に届いていた報告書を読み進めていく。
「ランディア王国の首都に大型魔獣が出現して、死傷者多数。魔獣は倒せたが、騎士団が半壊とは……」
驚いた。そしてバーナードは傍らのフィリップに読み終わった報告書を手渡す。
フィリップも報告書をめくって素早く目を走らせている。
「……都に大型魔獣が出現したんですか?」
「ああ、先日もタコのような巨大な魔獣が出現したと報告があった。今回はイカだったらしい」
「……海ではないのに、なぜ首都に海の魔獣が出現するのでしょう」
「巻末に、ランディア王国の王宮魔術師団が分析した報告がある。それによると、召喚された魔獣らしい」
「…………」
「ランディア王国では、子供の誘拐騒ぎが続いている。それにこれらの魔獣は、地下水路から現れているという」
情報の重なる符号にフィリップ副騎士団長は顔を上げた。
「………副都の事件の奴らでしょうか?」
その問いかけに、バーナード騎士団長はうなずいた。そして眉間に皺を寄せて言った。
「犯人は、ランディア王国に流れ着いて、いよいよ動き始めたということだ」
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