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第二十七章 新たな封印の指輪
第四話 勝負の後の困惑
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結論から言えば、ゼトゥはその後の勝負に負けた。
レブランの魔剣を二本提供され、おのおの魔剣を手に持って、レブランの屋敷の中にある修練場で戦ったのだ。
バートは、勝って当然のような顔をして、剣を鞘に仕舞い、さっさとそれをネリアに渡して屋敷から帰ろうとしている。
その彼に、ゼトゥはぽつりと言った。
どこか放心したような顔をしていた。負けるつもりは無かったのに、またしても負けてしまったのである。
少年は淫魔なのに、異常に強かった。
「何故……お前はそんなに強いのだ」
正直、バートは剣で負ける気はしていなかった。
一対一で、双方同じ条件の下で戦いの場所を用意してもらえれば、負けることはない。
バーナードが持つ“剣豪”の称号は伊達ではないのだ。
以前フィリップの屋敷で、ただただバーナードが押された戦いになったのは、魔法武器である戦斧と、普通の剣で勝負をしたせいである。それはまさしく、“武器負け”によるものだ。
魔法武器に対しては、魔法武器で戦うしかない。
そしてあっさりとゼトゥに勝利したバートを見て、ネリアを始めとしたレブランの下僕達も驚いて彼の姿を凝視していた。
こんな年若い少年が、見上げるほどの大男のゼトゥを下したことに、まるで夢でも見ているような気持ちでいたのだった。
「約束通り、もう勝負をふっかけるなよ」
これから転移魔法陣で、アルセウス王国に急いで帰らなければならない。
王宮のマグルの元へ行くと言った自分の帰宅が遅くなることは、フィリップに心配をかけることになる。
ゼトゥはバートに言った。
「お前には、決まった相手はいるのか」
バートは、こいつはまた何を言い出しているのだろうかと思いながらも、頭を振った。
ネリアも同じで、信じられないような顔つきで、同僚の大男を見つめる。彼女もまた、ゼトゥが何を口走っているのかと混乱していた。
ゼトゥは続けて言う。
「俺は強いお前にふさわしかろう。だから、俺をお前の共寝の相手にしろ」
その台詞に、バートは呆れを滲ませた口ぶりで返す。
「悪いが、俺の相手はいる。わけの分からないことを言わないでくれ」
「もう相手がいるのか。それは誰だ」
「お前には関係がないだろう」
「いや、関係がある。俺はお前の夫になる男だからな。お前に相手がいるというのなら、それを始末しなければならない」
ネリア達、レブランの下僕達は立ち尽くして、二人のやり取りを眺めていた。
ゼトゥは無口な大男で、今まで浮ついた話など一度も聞いたことがなかった。
その彼が饒舌に話し、少年をくどいている。
戦いでは負けていたが、押し切るような話の剣幕では負けていなかった。
実際、バートの顔は苦虫を噛んだようなものになり、この厄介な出来事に頭が痛いようなそぶりを見せていた。
勘弁してくれと言ったような呟きをして、彼はレブランの屋敷を後にする。
気持ちとしては、もう二度と、レブランの屋敷に足を運ぶつもりはなかった。
自分を殺そうと狙ってきた相手だった。
一度目は追い詰められ、二度目と三度目は勝利した。
もうこれっきりと言って相手にしていたが、ついには訳の分からないことを自分に対して口ずさむようになっていた。
俺は強いお前にふさわしかろう?
お前の共寝の相手にしろ?
ふざけるなと言いたい。
バートは転移魔法陣で王国に戻ると、その姿のまま、王都の別宅の一つに足を運ぶ。
王宮のマグルのところで“若返りの魔道具”を外して姿を戻すのにも時間がかかる。とりあえず、あまり使用していない自分の別宅で、そうするつもりだ。それから、今日は直接フィリップの屋敷に行くかと考えていた。
そして、金の髪を持つ若い騎士の男を、フィリップのことを想う。
彼こそが、間違いなく自分の伴侶である。
あの大男は、違う。
確かに強い男であるし、魔剣を持たぬ自分は、彼がレブランの用意した魔法武器を手に襲われれば、危ういと言えるだろう。
でも、強いだけだ。
フィリップとは違う。比べものにならない。
フィリップのことを想うだけでも、心の奥底にポッと温かな明りが灯され、心の隅々までその明るさが広がっていく感じがする。
彼は自分にとって、無くてはならない存在。常にそばにいて、優しくもあり、厳しくもある伴侶であった。
それを、たかが数回の勝負の勝敗ごときで、自分の共寝の相手に、伴侶になると言い切るあの男はずうずうしい。
金輪際、あの男と会うことは元より、戦うこともないだろう。
そう思っていた。
なのに何故かその翌日から、バーナード騎士団長に言付ける形で、バートへの手紙が頻繁にゼトゥから送られることになった。
勝負はふっかけない。
だが、文通から始める交際の申し込みは別だと言うらしい。
さすがに、あまりにも頻繁にやって来るその手紙に、フィリップ副騎士団長も何事かというような目で、手紙とバーナード騎士団長の顔を見比べるようになっていた。
途中から頭に来たバーナード騎士団長は、いちいち来た手紙を開封することもなく、デスクの引き出しの中に放っている。
フィリップ副騎士団長に「気にするな」と言って、騎士団長が引き出しに放り込むその手紙は、徐々に増えてきて、嵩を増している。
なんとなく胃が痛くなってきたバーナード騎士団長だった。
レブランの魔剣を二本提供され、おのおの魔剣を手に持って、レブランの屋敷の中にある修練場で戦ったのだ。
バートは、勝って当然のような顔をして、剣を鞘に仕舞い、さっさとそれをネリアに渡して屋敷から帰ろうとしている。
その彼に、ゼトゥはぽつりと言った。
どこか放心したような顔をしていた。負けるつもりは無かったのに、またしても負けてしまったのである。
少年は淫魔なのに、異常に強かった。
「何故……お前はそんなに強いのだ」
正直、バートは剣で負ける気はしていなかった。
一対一で、双方同じ条件の下で戦いの場所を用意してもらえれば、負けることはない。
バーナードが持つ“剣豪”の称号は伊達ではないのだ。
以前フィリップの屋敷で、ただただバーナードが押された戦いになったのは、魔法武器である戦斧と、普通の剣で勝負をしたせいである。それはまさしく、“武器負け”によるものだ。
魔法武器に対しては、魔法武器で戦うしかない。
そしてあっさりとゼトゥに勝利したバートを見て、ネリアを始めとしたレブランの下僕達も驚いて彼の姿を凝視していた。
こんな年若い少年が、見上げるほどの大男のゼトゥを下したことに、まるで夢でも見ているような気持ちでいたのだった。
「約束通り、もう勝負をふっかけるなよ」
これから転移魔法陣で、アルセウス王国に急いで帰らなければならない。
王宮のマグルの元へ行くと言った自分の帰宅が遅くなることは、フィリップに心配をかけることになる。
ゼトゥはバートに言った。
「お前には、決まった相手はいるのか」
バートは、こいつはまた何を言い出しているのだろうかと思いながらも、頭を振った。
ネリアも同じで、信じられないような顔つきで、同僚の大男を見つめる。彼女もまた、ゼトゥが何を口走っているのかと混乱していた。
ゼトゥは続けて言う。
「俺は強いお前にふさわしかろう。だから、俺をお前の共寝の相手にしろ」
その台詞に、バートは呆れを滲ませた口ぶりで返す。
「悪いが、俺の相手はいる。わけの分からないことを言わないでくれ」
「もう相手がいるのか。それは誰だ」
「お前には関係がないだろう」
「いや、関係がある。俺はお前の夫になる男だからな。お前に相手がいるというのなら、それを始末しなければならない」
ネリア達、レブランの下僕達は立ち尽くして、二人のやり取りを眺めていた。
ゼトゥは無口な大男で、今まで浮ついた話など一度も聞いたことがなかった。
その彼が饒舌に話し、少年をくどいている。
戦いでは負けていたが、押し切るような話の剣幕では負けていなかった。
実際、バートの顔は苦虫を噛んだようなものになり、この厄介な出来事に頭が痛いようなそぶりを見せていた。
勘弁してくれと言ったような呟きをして、彼はレブランの屋敷を後にする。
気持ちとしては、もう二度と、レブランの屋敷に足を運ぶつもりはなかった。
自分を殺そうと狙ってきた相手だった。
一度目は追い詰められ、二度目と三度目は勝利した。
もうこれっきりと言って相手にしていたが、ついには訳の分からないことを自分に対して口ずさむようになっていた。
俺は強いお前にふさわしかろう?
お前の共寝の相手にしろ?
ふざけるなと言いたい。
バートは転移魔法陣で王国に戻ると、その姿のまま、王都の別宅の一つに足を運ぶ。
王宮のマグルのところで“若返りの魔道具”を外して姿を戻すのにも時間がかかる。とりあえず、あまり使用していない自分の別宅で、そうするつもりだ。それから、今日は直接フィリップの屋敷に行くかと考えていた。
そして、金の髪を持つ若い騎士の男を、フィリップのことを想う。
彼こそが、間違いなく自分の伴侶である。
あの大男は、違う。
確かに強い男であるし、魔剣を持たぬ自分は、彼がレブランの用意した魔法武器を手に襲われれば、危ういと言えるだろう。
でも、強いだけだ。
フィリップとは違う。比べものにならない。
フィリップのことを想うだけでも、心の奥底にポッと温かな明りが灯され、心の隅々までその明るさが広がっていく感じがする。
彼は自分にとって、無くてはならない存在。常にそばにいて、優しくもあり、厳しくもある伴侶であった。
それを、たかが数回の勝負の勝敗ごときで、自分の共寝の相手に、伴侶になると言い切るあの男はずうずうしい。
金輪際、あの男と会うことは元より、戦うこともないだろう。
そう思っていた。
なのに何故かその翌日から、バーナード騎士団長に言付ける形で、バートへの手紙が頻繁にゼトゥから送られることになった。
勝負はふっかけない。
だが、文通から始める交際の申し込みは別だと言うらしい。
さすがに、あまりにも頻繁にやって来るその手紙に、フィリップ副騎士団長も何事かというような目で、手紙とバーナード騎士団長の顔を見比べるようになっていた。
途中から頭に来たバーナード騎士団長は、いちいち来た手紙を開封することもなく、デスクの引き出しの中に放っている。
フィリップ副騎士団長に「気にするな」と言って、騎士団長が引き出しに放り込むその手紙は、徐々に増えてきて、嵩を増している。
なんとなく胃が痛くなってきたバーナード騎士団長だった。
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