騎士団長が大変です

曙なつき

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第二十九章 豊かな実り

第二十四話 豊かな実り

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 バーナード騎士団長は目を醒ました。
 バーナードの屋敷に詰めていたフィリップもマグルも、無事に戻って来られたバーナードに大喜びで、やつれ切った彼を労わった。
 
 そして、バーナードは国王陛下から直々に四週間の休暇を与えられ、これを拒否することは許されないと言われた。
 巨竜と戦い、その身の魔力を全て使い切るほど消耗をした騎士を、すぐに復帰させ、働かせることは出来ない。王国の一大戦力である彼が消耗し切って身体を損なうことこそ、国の大きな損害であったからだ。

 そして、通常なら許されないフィリップ副騎士団長の同時の休暇取得も許された。
 本来、不在のバーナード騎士団長に代わって、副騎士団長であるフィリップが職務を行うのだが、伴侶の副騎士団長もバーナード騎士団長のそばにいて、労わるようにという、国王陛下からのちょっとした気遣い、恩情であった。

 今まで最大四日間までしか、同時に休暇を取ることの出来なかった騎士団長と副騎士団長の二人であった。四週間という長期の休暇を与えられることに驚いたが、その国王からの恩情を有難く受け取らせてもらった。休暇明けの溜まりきった仕事の処理を考えると恐ろしいものがあったが、それは今はもう考えまいと思った。

 小さな妖精ベンジャミンは、二人が長期の休暇を得たことを聞きつけ、フィリップ副騎士団長にちょっとした贈り物を捧げにやって来た。
 フィリップの前のテーブルの上に、コトリと置かれたのは、桃色の液体が小さな硝子瓶に入ったものと、精密に描かれたお札が三枚だった。

「これは何ですか、ベンジャミン」

 不思議そうな顔で尋ねてくるフィリップに、妖精のベンジャミンは説明した。

「瓶に入っているのは、妖精の媚薬です。少量でも、素晴らしい効果があるものです」

「…………………」

 フィリップ副騎士長は無言だった。だが、妖精の作ったものはとにかく効果が素晴らしい。有難く受け取ることにした。
 そして、紙製のお札を見る。

「こちらは?」

「ご隠居様が直々に、お産の女神様から受け取ったお札です」

「……………………」

 またしてもフィリップ副騎士団長が無言になる。

 ベンジャミンは、ご隠居様は二人に対して、今だにひどいことをしたと思っている。
 バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長の知らぬ間に、神の欠片を注ぎ込み、それ故の騒動に巻き込まれた二人は、結果的に子も失ってしまった。
 そしてご隠居様の手助けをした自分も、ひどい妖精だと分かっている。
 バーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長に、合わせる顔はないと思っていた。
 ご隠居様は、夢から目を醒まさないバーナード騎士団長を助けるための条件として、次の事を告げた。

「あの二人に、欠片を注いでいた話をしてはならない」

 ご隠居様は念を入れて、その件を話することを禁じる魔法契約までベンジャミンに締結させた(同時に、バーナード騎士団長の元に集めた欠片を運んでいたと疑う多くの妖精達も魔法契約を締結させられた)。
 だから、未だにベンジャミンは二人に詫びることが出来ていない。これから先も出来ない。
 どんな罰でも受ける覚悟は出来ていた。
 しかし、犯した罪を告白することも許されない。
 それはひどく苦しかった。その苦しみをこれから先ずっと抱えて生きていく。
 それが罰のような気がしてならなかった。
 
 ひどいことをしたご隠居様であるけれど、ご隠居様はご隠居様で、バーナード騎士団長達に少しは償いたい気持ちはあるようだった。だからわざわざ女神に頼み込み、こうした魔法の品を作ってもらったのだ。
 
「女神から直接貰ったお札なので、効果は百発百中です」

「……それはどういう意味なのでしょうか」

 そう聞き返すフィリップ副騎士団長に、ベンジャミンは告げた。

「確実に一回の行為で実るそうです。更に、望んだ種族の子が生まれるそうです」

「……………………」

 フィリップ副騎士団長は、非常に大切そうに、そのお札三枚を押し戴いたのだった。




 数年後、バーナード騎士団長は、三人の子を、妖精の国の霊樹に実らせたという。

 一人は女の子で、二人は男の子であった。
 一人目の女の子は、アレキサンドラと名付けられた。人間の子で、黒い巻き毛に、青い瞳の、目鼻立ちのハッキリとした、そしてどこかキリリとした雰囲気の女の子であり、バーナード騎士団長の養女として育てられた。アレキサンドラが三歳で初めて王宮に足を運んだ時、彼女を見たエドワード王太子は、アレキサンドラを自身の子である第一王子の婚約者とすることをその場で決めた。
 渋る騎士団長達であったが、王命に近い形で話をされると、否とは言えず(更に借りの件もチラつかされる)、結局、アレキサンドラは幼い王子の婚約者になった。アレキサンドラが長じて、どうしても婚約が嫌だと言えば、なんとか婚約を破棄すればいいと騎士団長らは渋々考えた。
 アレキサンドラはその後、剣の才能に恵まれ、バーナード騎士団長と同じく女性ながら“剣豪”の称号を得た。騎士学校卒業後、王立騎士団に配属され、やがて女性初の王立騎士団長の地位に就く。そしてその後、婚約していた王子に望まれ、王家に嫁ぎ、王妃として生涯を終えた。だが、王国に何かしらの危機があれば、王妃なれど竜剣ヴァンドライデンを手に取る非常に凛々しく頼りになる女性であったという。王は彼女を愛し、そして彼女もまた王を愛したという。

 双子として生まれた男の子二人は、人狼であった。妖精の国の霊樹から生まれ落ちた時、金色のふさふさの毛をした美しい幼獣を見た小さな妖精達は、「可愛いー!!」と絶叫していた。目の色は二人とも茶色である。
 フィリップは生まれた人狼の仔を見て、非常に嬉しかった。

「私の髪色に、バーナード、貴方の瞳の色ですね」
 
 人間の女の子を実らせた後、また人間の子を望むかと思ったが、バーナード騎士団長はフィリップ副騎士団長に言った。

「お前のような、狼の子が欲しい」

 その言葉もまた、フィリップ副騎士団長をとても喜ばせたのだった。
 生まれた金色の仔狼は、仔犬に変身したフィリップ副騎士団長とそっくりだった。目の色こそ違えど、金色のふさふさした毛並の美しい仔犬だった。長じて、人の姿を取れるようになった時、その容貌もまたフィリップ副騎士団長とそっくりの顔立ちをしており、人々に黄色い声を上げさせた。
 二人が仔狼の間は、妖精の国へ通じる扉の向こうの部屋で育てられ、妖精達は非常に可愛らしい小さな仔狼をとても可愛がっていたし、仔狼もまた小さな妖精達が大好きになっていた。
 人の姿が取れるようになった後は、やはりバーナード騎士団長の養子となり、息子として人の世界で暮らすようになる。二人とも騎士となり、長女のアレキサンドラ騎士団長の元で、活躍した。

 バーナード騎士団長は、たびたび、魔道具の力で少年の姿に変え、王宮の“王家の庭”に足を運んでいた。彼はきっと、最初の子に会いにいっているのだろうとフィリップは思っていた。あの子の魂にまた会いたいと願っていたが、残念なことに、再び会うことは叶わなかった。
 



 そして
 どんな時でも、王国の誇る王立騎士団のバーナード騎士団長の傍らには、フィリップ副騎士団長がいた。
 病める時も、健やかなる時も、二人は変わらず愛し合い続け、生涯添い遂げたという。
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