天上の果実

曙なつき

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あなただけしかいらない

第一話 初夜

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「ルシス様は、ロゼ様とはまた違った美人だったな」

 婚礼の式典に出席した、王の一族に連なるメイセン家の男が酒に酔ったように頬を紅潮させて言った。

「ロゼ様はすげぇ美人だったなぁ。ありゃすげぇや。目の保養だった。神殿のダンナをはべらせて入ってきた時は、びっくりした。噂以上の美人で、傾国の……と言われるのもわかるな」

「スシャールの天人方は滅多に人前に出ないからな。俺もロゼ様を見たのは初めてだ。あの御方は神殿のものだから」

「そうそう、神殿の奴らが大切に大切に隠している御方だ」

 男達は酒を手に、うんうんとうなずいていた。
 そこに、同じくメイセン家の末席に連なる男が声をあげた。

「王家にもやっとスシャールの天人が入ったんだ。めでたいことだ。ルシス様は王家のものだ。大切に大切にお守りして」

 ロゼが複数の夫達に囲まれ、艶やかに微笑んでいる姿が、その場の男達の脳裏に浮かぶ。

「囲い込まなければならない」








 
「お疲れ様です」

 結婚式を終え、その後の祝いの宴に遅くまで出席したルシスは疲れ果てていた。
 スシャール家からついてきてくれたサナが、ルシスの髪に飾られている繊細な金属飾りを外していく。そして別の召使も、細かく編みこまれた三つ編みを解いていく。
 椅子にもたれかかり、ルシスは軽食を口にした。だが、あまり進まない。

「……疲れた。眠い」

「もう少し我慢なさってください、ルシス様」

「うん」

 その後、ルシスは浴場に案内され、多くの召使達にその身を綺麗に磨かれ、良い香りのする香油を肌にすりこまれた。
 浴槽から上がった彼には、とろけるような肌ざわりで透けるような薄絹の衣装が用意されていた。
 ルシスはそのあまりにも面積が少ない衣装に、真っ赤になっていた。

 ルシス付きの召使のサナから、平然とした口調で、「これはルシス様の、お兄様であらせられるロゼ様からの婚礼のお祝いの品の一つです」と言われ、絶世の美青年である兄のことをルシスは心の中で呪った。
 こんなん着てられるか!! と本心ではその衣装を投げつけたいところだったが、……とてもそう言い出せる雰囲気ではなかった。
 手早くその衣装を身に付けられる。
 あんまりにも頼りない身になってしまったルシスは、懇願するように「ガウンが欲しい」と言い、それがあまりにも切実に、哀れに感じられたのか、召使達は寝室に行くまでの間だけという約束で、ガウンを着せてあげたのだ。

 そして、寝室に案内される。
 式の後までは身体を許さないと言い張ったルシスは、この寝室に入るのは初めてだった。
(アブの実が当たった記憶喪失のルシスは、何回も入っていたが……)

 緊張で唾をごくりと飲み込み、部屋に入ると、すでに寝台の上にはアドルがいて、ルシスが来るのを待ち構えていた。
 彼の姿を目にした途端、心臓の鼓動の音が痛いほど耳に聞こえた。

 ドクンドクンと響き渡る。

 部屋はすでに薄暗く、魔道具の灯りがほのかに足元にあるだけだった。
 そのせいで、この煽情的な衣装を見せなくて良かったと心の底から思った(召使達は寝室に入ると同時に、ガウンを奪い取ったのだった)。

「ルシス、おいで」

 アドルが呼ぶ。それで、ルシスはそっと大きな寝台の方へ近づいた。
 次代王の寝台である。四方に柱を備え、天蓋のある立派なものだった。
 ルシスがそろそろと隅の方から寝台の上に膝を乗せてやってくるのを見て、アドルは小さく笑っていた。

「ルシス」

 もう一度名を呼び、手を伸ばしてルシスの身体を抱きしめた。
 そして薄暗い中でも、その“夜の為の衣装”を見て、彼は緑の瞳を興味深そうに輝かせていた。

「これは素晴らしい、贈り物だ」

「…………」

 なんと返答していいのかわからず、ルシスは真っ赤な顔をして、ぱくぱくと口を数回開いて、閉じた。
 恥ずかしくて顔を背ける。その首筋にアドルは唇で触れ、舌で舐めた。

「ひゃあ」

 緊張の極みにいた彼は、思わず間抜けな叫び声をあげる。
 そして正面を向いた彼の唇に、アドルはそっと唇を重ねる。
 口づけは毎日のようにしていた。ルシスはアドルとの口づけは好きだった。
 開いた口から男の舌が入り、ルシスの舌を強く求めて吸ってくる。

「……あ……ん」

 そして魔力を吸われる。
 その途端、ルシスはアドルにもたれかかった。
 吸われるその快感に、身体の奥底が痺れるようになり、ズキンと熱い疼きが生まれる。
 ルシスの青い瞳が潤みだす。アドルはその“夜の為の衣装”をそっと解き始めた。
 ルシスは大切な、そう大切な贈り物だった。

 ルシスのその身は、魔獣狩りに頻繁に森へ行くために、ほどよく鍛えられた筋肉に覆われていた。その滑らかな肌に舌を這わせる。
 恥ずかしさにルシスは両手で顔を覆っていた。
 アドルは味わうようにその身体をすべて舐め、甘く噛み、そして触れた。
 高ぶったその身を開かせ、やがてその身を貫いた時の幸福を、アドルは決してこれから先も忘れないだろうと思った。
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