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あなただけしかいらない
第四話 盤上遊戯
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アドル王子の許しのもと、ルシスは護衛騎士三人に魔力を吸わせることになった。
手と手の触れ合いによるものである。
内心、ルシスは不満だった。
自分の魔力を吸わせるのは、婚姻した夫であるアドルだけで十分のはずだった。
手からとはいえ、他の人間に魔力を吸わせたくなかった。
だが、きっとアドルには何かしらの考えがあるのだろうし、手からなら、比較的、性的な興奮が引き起こされないので、まだ我慢できた。
ただ、粘膜による接触に比べると、引き出される魔力の量は三分の一ほどになる。
それは時間をかけて吸わせればいいと、アドルは言っていた。
仕方なく、ルシスはチェス盤をテーブルの上に置いて、護衛騎士のデュラムを誘った。
「私とチェスをしながら、しよう。勝敗がつくまでの間だ」
それから彼は、席についたデュラムに、左手をテーブルの上に、掌を上にして置くように指示する。ルシスは目を伏せ自分の右手をそっとデュラムの掌の上に置いた。
「手から吸ってもらう」
「……はい」
手から意識して、ルシスの魔力を吸いあげた途端、デュラムは一瞬ぐらりと身を揺らした。
驚愕に目を見開いて、慌ててテーブルを手で掴んだ。
吸い上げられる魔法量が、桁違いだった。
これが、“天人”というものなのかと驚いてルシスを見たが、彼は青い目をチェス盤に向けたまま、表情を変えていない。
それで、デュラムはチェスの駒を動かしながら、時々、彼の魔力を吸いあげた。
いくら多くの魔力を吸いあげても、ルシスには何の影響もないようで、彼は淡々と駒を動かしている。
ただ、最後に、ルシスが盤面で勝った時、年齢相応の嬉しそうな笑みを向けてきた。
「私の勝ちだな」
それは晴れやかな笑顔で、一瞬、デュラムは目を奪われた。
“天人”というだけあって、ルシスは美しい。それもチェス盤を挟んでの向かい合わせである。間際で見た彼の笑顔は心臓に悪かった。
毎日、夕食前の時間に三人の護衛騎士達はルシスとチェス勝負をし、その間に彼の手から魔力を吸うことを許された。
彼から吸い上げる魔力の量は桁が違い、それを身に納めることのできるようになった護衛騎士達はみなぎる魔力に驚いていた。
これほどのものとは思わなかった。
そして、それを独占しているアドル王子に、王家一族の者が嫉妬し、妬み、ルシスの夫の一人に加わりたいと望むことは当然だと思われた。
ルシスの護衛騎士として選ばれた王家の一族の三人の男達は、アドルなりにバランスを考えて選んだ者だった。
いずれも王家の中の、それ相応に力を持つ男達の息子や孫たちである。
だが、彼らは出世欲が強くなく、騎士たる身で満足しているところを気に入っていた。
誠実で、剣に優れた男達を選んだつもりだった。
だが、三人のうちの一人、ラインが、ルシスにそれ以上を望もうとした時、彼はすぐに傍らの護衛騎士のデュラムとヴァイスに取り押さえられた。
一度でいいから、ルシス様の口づけが欲しいと望んだラインは、ルシスの護衛騎士から外され、辺境に飛ばされた。
そしてまた、別の新たな護衛騎士の若者ジルが加わる。
彼らは多くを望まなければ、天人たるルシスの手から魔力を吸うことを許される。それを理解した。
それでも普通とは違う、多くの魔力を手に入れられる。それは素晴らしいことだった。
力に漲り、他の騎士達以上の力を振るうことができるのだ。
ルシスの手から、魔力を吸うこと。目の前に極上の餌をぶら下げられておきながら、小さな餌で満足することさえ我慢できるならば。
どの男達も、心の内では王子たるアドルに対して妬みを覚えた。
彼がいなければ、ルシスの魔力は自分の自由にできるかも知れない。そして目の前のこの美しい少年も手に入れることができるのだ。
そう思う者もいただろう。
だが、あるとき、ルシスのこの言葉を聞いて、彼らは驚くことになる。
「……アドルがいなくなったら、夫をまた迎えるかって? バカみたいな質問するな、お前」
護衛騎士の誰かがそんなことをルシスに尋ねたのだ。
ルシスは物凄く不愉快そうな顔をして、チェスの駒を動かしながら答えた。
「もう、夫は迎えないよ。アドルでおしまい」
「……そんなことは許されないのでは?」
「うるさいな。私がそれを決めたんだ。私の勝手だろう。私は王家に嫁ぐときに心に決めていたことがあるんだ」
彼は周りを睥睨するように見て言った。
「アドルは私の夫で、唯一だ。もう、彼以外の夫は迎えない。いらないんだ」
一瞬でその場が静まり返った。
「先に言っておく。もし、アドルが私よりも先に死んだら、私も後を追うから。せいぜいアドルの長寿を願うんだな。アドルがいなくなった瞬間に、王家は“天人”を失うと思え」
彼は美しい青い目で周囲の男達を見つめた。
「おいおい、私の勝ちになるぞ」
それからルシスは、笑顔でチェックメイトと言って、駒を動かした。
手と手の触れ合いによるものである。
内心、ルシスは不満だった。
自分の魔力を吸わせるのは、婚姻した夫であるアドルだけで十分のはずだった。
手からとはいえ、他の人間に魔力を吸わせたくなかった。
だが、きっとアドルには何かしらの考えがあるのだろうし、手からなら、比較的、性的な興奮が引き起こされないので、まだ我慢できた。
ただ、粘膜による接触に比べると、引き出される魔力の量は三分の一ほどになる。
それは時間をかけて吸わせればいいと、アドルは言っていた。
仕方なく、ルシスはチェス盤をテーブルの上に置いて、護衛騎士のデュラムを誘った。
「私とチェスをしながら、しよう。勝敗がつくまでの間だ」
それから彼は、席についたデュラムに、左手をテーブルの上に、掌を上にして置くように指示する。ルシスは目を伏せ自分の右手をそっとデュラムの掌の上に置いた。
「手から吸ってもらう」
「……はい」
手から意識して、ルシスの魔力を吸いあげた途端、デュラムは一瞬ぐらりと身を揺らした。
驚愕に目を見開いて、慌ててテーブルを手で掴んだ。
吸い上げられる魔法量が、桁違いだった。
これが、“天人”というものなのかと驚いてルシスを見たが、彼は青い目をチェス盤に向けたまま、表情を変えていない。
それで、デュラムはチェスの駒を動かしながら、時々、彼の魔力を吸いあげた。
いくら多くの魔力を吸いあげても、ルシスには何の影響もないようで、彼は淡々と駒を動かしている。
ただ、最後に、ルシスが盤面で勝った時、年齢相応の嬉しそうな笑みを向けてきた。
「私の勝ちだな」
それは晴れやかな笑顔で、一瞬、デュラムは目を奪われた。
“天人”というだけあって、ルシスは美しい。それもチェス盤を挟んでの向かい合わせである。間際で見た彼の笑顔は心臓に悪かった。
毎日、夕食前の時間に三人の護衛騎士達はルシスとチェス勝負をし、その間に彼の手から魔力を吸うことを許された。
彼から吸い上げる魔力の量は桁が違い、それを身に納めることのできるようになった護衛騎士達はみなぎる魔力に驚いていた。
これほどのものとは思わなかった。
そして、それを独占しているアドル王子に、王家一族の者が嫉妬し、妬み、ルシスの夫の一人に加わりたいと望むことは当然だと思われた。
ルシスの護衛騎士として選ばれた王家の一族の三人の男達は、アドルなりにバランスを考えて選んだ者だった。
いずれも王家の中の、それ相応に力を持つ男達の息子や孫たちである。
だが、彼らは出世欲が強くなく、騎士たる身で満足しているところを気に入っていた。
誠実で、剣に優れた男達を選んだつもりだった。
だが、三人のうちの一人、ラインが、ルシスにそれ以上を望もうとした時、彼はすぐに傍らの護衛騎士のデュラムとヴァイスに取り押さえられた。
一度でいいから、ルシス様の口づけが欲しいと望んだラインは、ルシスの護衛騎士から外され、辺境に飛ばされた。
そしてまた、別の新たな護衛騎士の若者ジルが加わる。
彼らは多くを望まなければ、天人たるルシスの手から魔力を吸うことを許される。それを理解した。
それでも普通とは違う、多くの魔力を手に入れられる。それは素晴らしいことだった。
力に漲り、他の騎士達以上の力を振るうことができるのだ。
ルシスの手から、魔力を吸うこと。目の前に極上の餌をぶら下げられておきながら、小さな餌で満足することさえ我慢できるならば。
どの男達も、心の内では王子たるアドルに対して妬みを覚えた。
彼がいなければ、ルシスの魔力は自分の自由にできるかも知れない。そして目の前のこの美しい少年も手に入れることができるのだ。
そう思う者もいただろう。
だが、あるとき、ルシスのこの言葉を聞いて、彼らは驚くことになる。
「……アドルがいなくなったら、夫をまた迎えるかって? バカみたいな質問するな、お前」
護衛騎士の誰かがそんなことをルシスに尋ねたのだ。
ルシスは物凄く不愉快そうな顔をして、チェスの駒を動かしながら答えた。
「もう、夫は迎えないよ。アドルでおしまい」
「……そんなことは許されないのでは?」
「うるさいな。私がそれを決めたんだ。私の勝手だろう。私は王家に嫁ぐときに心に決めていたことがあるんだ」
彼は周りを睥睨するように見て言った。
「アドルは私の夫で、唯一だ。もう、彼以外の夫は迎えない。いらないんだ」
一瞬でその場が静まり返った。
「先に言っておく。もし、アドルが私よりも先に死んだら、私も後を追うから。せいぜいアドルの長寿を願うんだな。アドルがいなくなった瞬間に、王家は“天人”を失うと思え」
彼は美しい青い目で周囲の男達を見つめた。
「おいおい、私の勝ちになるぞ」
それからルシスは、笑顔でチェックメイトと言って、駒を動かした。
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