70 / 174
第二章 現世ダンジョン編 ~異世界から連れ戻された勇者は、竜騎士からの愛に戸惑う~
第十八話 密やかな話し合い
しおりを挟む
都内某所の喫茶店。一人の若い女性が席につき、珈琲を飲んでいた。
ここ最近は仕事が忙しい。昨日も残業であった。
さいたまダンジョンで、一日討伐数ランキングの記録更新がなされたことが話題になり、いつもより発奮する探索者が多かった。
(入場者は抽選により入場数制限がされているため、そのせいでにわかに増えることはない)
困ったことは、ランキング一位と二位を独占した彼らが為した討伐数を検証すると言い出している者が何人もいたことだ。
同じ湧き場所へ行き、カメラを回して湧き数をカウントしながら倒す、探索資格持ちYouTuberも出てきて、うんざりだった。
討伐数をおかしいと思っているのは、開発推進機構側も一緒なのに。
思わず眉間に皺が寄る。
その時、喫茶店の扉を開けて入ってきたのは待ち合わせをしていた友人だった。
「ごめん、ごめん待った?」
明るい声で話す彼女。
肩までの黒髪を一つに結んでいる。灰色のスーツ姿の彼女はスタイルがいい。
それもそのはずだった。彼女は陸上自衛隊に所属する女性自衛官であった。それも、東北地方のダンジョンでに任務についている。
日本でダンジョンが七つできたあと、四つは民間開放され、三つは自衛隊に残された。
その一つが東北にあり、彼女はその東北地方のダンジョンに日々潜っているのだった。
名を神林りつこという。有森と同い年の自衛官であった。
彼女は開発推進機構に二年間出向していたことがあり、その時に気が合い、未だに交流を続けている。
こうして神林が東京に出てくるときには、一緒にお茶をして情報交換していたのだ。
共に二十代後半の女子であり、情報交換といってもたいした内容のものが出来ないことが歯痒い(上の情報を入手できる立場にない)。
それでも、ダンジョン好きの二人であったから、一緒に話し合うのは楽しかった。
席について、神林はすぐに紅茶とケーキを注文した。
それから、にこりと笑って有森に言った。
「忙しいみたいね。あの話題の二人組の少年の対応?」
「……面倒な探索者が出てきてね。検証するとか言って、あの湧き場所をずっと占拠するのよ。それで揉める状態になって大変」
あのさいたまダンジョンの二十八番カメラ前の湧き場所の奪い合いにもなっていた。面倒な探索資格持ちYouTuber達。
探索資格持ちの民間人のダンジョン内での撮影、その放映は認められている。ダンジョン開発推進機構(以下、ダン開)内にも映像部があり、ダン開自体もYouTube番組を持っていて、相応の収益をあげている。
「見たよ、検証番組。よくできていたね。夜十二時から二十四時間カウントしていてさ。あははははははっ、暇人だなと思ったけどね」
他人事だから、神林は気軽に笑っている。
少し頭に来たが、有森はため息を飲み込んだ。もう一度珈琲を口にする。
「……討伐数三百二十三匹は無理だったわね」
「そうねー。私もダン開から回してもらった二十八番の映像とか、その他も見せてもらったけれど、あれは湧き場所がおかしくなっていたわね。うちでも議論になっていたわ」
店員から紅茶を受け取り、神林はそれを口にした。ケーキはアップルパイで、脇に添えられたクリームに顔を綻ばせている。
「彼らがいく場所だけ、湧き数が多くなること。そういう能力持ちかなとも思ったけれど、何かのアイテムらしいという結論になった」
「赤毛の子が、何か振りかけている様子があったから?」
「そうそう」
ダン開でもその結論になっていた。だけど、そんなアイテムは聞いたことがない。
「未知のアイテム持ちか」
「それで、うちでもその二人組に一度会って話を聞きたいということになったの」
「会ったの?」
「あなたのところのダン開経由で話を持っていってもらおうとしたんだけど、拒否されたわ。拒否よ」
「…………え?」
「情報本部もお怒りだという話だわ。その辺りは聞いてない?」
「……聞いてないわよ」
というか、一介の警備部スタッフまで回る話ではない。
「あの二人組は、ダン会の東京事務局長の息子なのよ」
「…………」
「だから、うちではね、東京事務局は手に入れたアイテムを身内に優先的に流しているのではないかという疑いを持ちだしているの。十代の子供二人が、億単位であろうマジックバックを持っている。それに未知のアイテムまで。とんだ不祥事になる可能性があるわよ」
有森は言葉を失っていた。
「ごめんね。あなたにこれを話すのは、自衛隊とちょっとダン開がぎくしゃくしてきていることを知って欲しかったからなの。ダン開の上層部は何か隠していると思うの。それを私達は知りたいの。もし、あの二人組がまたさいたまダンジョンに現れたら、私に連絡をくれる?」
「……わかったわ」
「ありがとう、有森さん」
にっこりと神林は笑顔を向けた。
だが、さいたまダンジョンで三日間の連戦をしたあの二人の探索者の少年達は、それ以来しばらくの間、姿を見せることはなかったのだった。
ここ最近は仕事が忙しい。昨日も残業であった。
さいたまダンジョンで、一日討伐数ランキングの記録更新がなされたことが話題になり、いつもより発奮する探索者が多かった。
(入場者は抽選により入場数制限がされているため、そのせいでにわかに増えることはない)
困ったことは、ランキング一位と二位を独占した彼らが為した討伐数を検証すると言い出している者が何人もいたことだ。
同じ湧き場所へ行き、カメラを回して湧き数をカウントしながら倒す、探索資格持ちYouTuberも出てきて、うんざりだった。
討伐数をおかしいと思っているのは、開発推進機構側も一緒なのに。
思わず眉間に皺が寄る。
その時、喫茶店の扉を開けて入ってきたのは待ち合わせをしていた友人だった。
「ごめん、ごめん待った?」
明るい声で話す彼女。
肩までの黒髪を一つに結んでいる。灰色のスーツ姿の彼女はスタイルがいい。
それもそのはずだった。彼女は陸上自衛隊に所属する女性自衛官であった。それも、東北地方のダンジョンでに任務についている。
日本でダンジョンが七つできたあと、四つは民間開放され、三つは自衛隊に残された。
その一つが東北にあり、彼女はその東北地方のダンジョンに日々潜っているのだった。
名を神林りつこという。有森と同い年の自衛官であった。
彼女は開発推進機構に二年間出向していたことがあり、その時に気が合い、未だに交流を続けている。
こうして神林が東京に出てくるときには、一緒にお茶をして情報交換していたのだ。
共に二十代後半の女子であり、情報交換といってもたいした内容のものが出来ないことが歯痒い(上の情報を入手できる立場にない)。
それでも、ダンジョン好きの二人であったから、一緒に話し合うのは楽しかった。
席について、神林はすぐに紅茶とケーキを注文した。
それから、にこりと笑って有森に言った。
「忙しいみたいね。あの話題の二人組の少年の対応?」
「……面倒な探索者が出てきてね。検証するとか言って、あの湧き場所をずっと占拠するのよ。それで揉める状態になって大変」
あのさいたまダンジョンの二十八番カメラ前の湧き場所の奪い合いにもなっていた。面倒な探索資格持ちYouTuber達。
探索資格持ちの民間人のダンジョン内での撮影、その放映は認められている。ダンジョン開発推進機構(以下、ダン開)内にも映像部があり、ダン開自体もYouTube番組を持っていて、相応の収益をあげている。
「見たよ、検証番組。よくできていたね。夜十二時から二十四時間カウントしていてさ。あははははははっ、暇人だなと思ったけどね」
他人事だから、神林は気軽に笑っている。
少し頭に来たが、有森はため息を飲み込んだ。もう一度珈琲を口にする。
「……討伐数三百二十三匹は無理だったわね」
「そうねー。私もダン開から回してもらった二十八番の映像とか、その他も見せてもらったけれど、あれは湧き場所がおかしくなっていたわね。うちでも議論になっていたわ」
店員から紅茶を受け取り、神林はそれを口にした。ケーキはアップルパイで、脇に添えられたクリームに顔を綻ばせている。
「彼らがいく場所だけ、湧き数が多くなること。そういう能力持ちかなとも思ったけれど、何かのアイテムらしいという結論になった」
「赤毛の子が、何か振りかけている様子があったから?」
「そうそう」
ダン開でもその結論になっていた。だけど、そんなアイテムは聞いたことがない。
「未知のアイテム持ちか」
「それで、うちでもその二人組に一度会って話を聞きたいということになったの」
「会ったの?」
「あなたのところのダン開経由で話を持っていってもらおうとしたんだけど、拒否されたわ。拒否よ」
「…………え?」
「情報本部もお怒りだという話だわ。その辺りは聞いてない?」
「……聞いてないわよ」
というか、一介の警備部スタッフまで回る話ではない。
「あの二人組は、ダン会の東京事務局長の息子なのよ」
「…………」
「だから、うちではね、東京事務局は手に入れたアイテムを身内に優先的に流しているのではないかという疑いを持ちだしているの。十代の子供二人が、億単位であろうマジックバックを持っている。それに未知のアイテムまで。とんだ不祥事になる可能性があるわよ」
有森は言葉を失っていた。
「ごめんね。あなたにこれを話すのは、自衛隊とちょっとダン開がぎくしゃくしてきていることを知って欲しかったからなの。ダン開の上層部は何か隠していると思うの。それを私達は知りたいの。もし、あの二人組がまたさいたまダンジョンに現れたら、私に連絡をくれる?」
「……わかったわ」
「ありがとう、有森さん」
にっこりと神林は笑顔を向けた。
だが、さいたまダンジョンで三日間の連戦をしたあの二人の探索者の少年達は、それ以来しばらくの間、姿を見せることはなかったのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
380
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる