転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第三章 古えの竜達と小さな竜の御印

第十八話 失われた記録と見つけられた記録(上)

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 その日の夜、バンナムは魔術師のレネを伴って、竜の生態学者であるリヨンネの元を訪れた。
 現在リヨンネは、先日の雪崩で崩壊した観察地の建物再建のため、青竜寮に滞在している。リヨンネはレネの隣の部屋にいるため、気軽にレネとリヨンネは行き来しているらしい。
 ノックすると、リヨンネはすぐに部屋の扉を開けて、二人を招き入れてくれた。

 リヨンネの部屋のテーブルから床の上まで、書類が散らばっている。
 それをキース少年が片付けている。

「散らかっていて済まないね」

 すぐさまキース少年は書類をまとめて、バンナムとレネのためにお茶の用意を始める。
 キース少年が何かとリヨンネの世話をしているために、散らかってもすぐに部屋が綺麗になるようだ。
 今では、リヨンネは何かどこにあるのか、すぐにキース少年に聞くようになっており、彼は「もうキースがいないと生活が回らない」とぼやいている。
 書類のある場所も、必要な本も、そして次になにをやるべきかというスケジュール立てまで、十歳のキース少年が関わっているらしい。
 もはや、王都の孤児院にやることなど全く考えられない状態であった。

 そのキース少年は、椅子に座ったバンナムとレネにお茶を淹れると、一礼してスッと部屋の隅に控えていた。

 バンナムが、リヨンネに話を聞くことができるのは半刻の間である。
 その時間以上、ここにいてしまうと、王子の側で展開させている魔道具の効果が切れて、警護に問題が出てしまう。
 レネは内心(七番目の王子であるアルバート王子殿下を襲うような輩が、この竜騎兵団にいるとは思えない)と思っていたが、真面目なバンナムが王子の警護に手を抜くはずはないのだ。
 先日、レネが竜の人化について尋ねた頃から、また疑問をぶつけられるだろうことは分かっていたのか、リヨンネは何冊かの書籍をテーブルの上に置いた後、尋ねた。

「それで、なんなのかな」

 問いかけに、ゆっくりとバンナムが話し始める。

「以前ウラノス騎兵団長は、紫竜が人化した姿は、人心を惑わすほどに美しいと言っていました。私はその言葉が気になっています」

「……紫竜は成竜となった後でも、他の竜から迫られるほど美しいものな。確かに、人化したらめちゃ美人になることは間違いないだろうね」

「過去の紫竜は、どうだったんでしょうか」

 その問いかけに、リヨンネは考え込んでいた。

「前の紫竜がいたのは五百年くらい前だ。私も以前、紫竜のことを学舎で調べたことがあったけれど、残っているのは数行の記録だ。“魔術の王”と呼ばれるほど魔力に富み、魔法を使え、そして美しい竜だったという記録だけだ」

「……五百年前の紫竜は、この竜騎兵団にいたのでしょうか」

「ウラノス騎兵団長がそんなことを口にしたのなら、記録が少し竜騎兵団にも残っているのじゃないかな。在籍していたのかどうか、騎兵団長に聞いてみるといいだろうね」

 リヨンネは、キースが淹れてくれたお茶をすすった。
 キースは、リヨンネの好みの茶葉を使い、丁度良い温度でお茶を出してくれる。お茶の濃さも完璧だった。
 リヨンネがそのことに微笑みを浮かべると、キースもまたそのリヨンネの様子に気が付いて嬉しそうだった。

「私にわざわざそんなことを聞いてくるということは、殿下が紫竜を人化させたいと言っているのかい?」

 リヨンネの問いかけに、バンナムは頷いた。

「殿下も人化したルーシェに会ってみたいと仰られ、ルーシェも人の姿になれば、殿下を何かと手伝えると言っている。、人化を願っているわけではない」

 そのバンナムの言葉に、レネが気管にお茶を詰まらせたようで咳き込んでいた。

 それ以上のことを望んで、という言葉にレネは敏感に反応したのだ。
 レネの様子を横目で見て(相変わらず、バンナム卿と一線を越えたというのにウブなんだな)と呆れにも似た思いを抱きながら、リヨンネは続けた。

「で、バンナム卿は二人に対して『人化してもいいよー』と言ったわけではないのだよね」

 バンナムは、温かいお茶の入った器を両手で包むように持ちながら、頷いた。

「人化したルーシェに夢中になって、殿下の勉強が疎かになっては困る」

 それを聞いたレネは真っ赤になっており、リヨンネはそんなレネを今では全く無視して続けた。

「まぁ、賢明な判断だろうね。十代の少年の前で、それは飛び切り綺麗な、主である自分の好きにできる、自分のことが大好きだと公言しているルーシェが、ドロンと人化して現れたのなら、聡明な王子でさえも惑うかも知れないねー」

 あまりにも咳き込むレネの後ろに、見かねたキース少年がその背中をさすりにやって来た。

「だけど、そう遠くない未来、殿下はルーシェを望むだろうね。あれほど可愛がっているのだから、自分のために人化して欲しいと望むのはおかしくはない」

 可愛い子供の姿で人化する様子を思い浮かべて、リヨンネが目を細めていると、バンナムはなおも続けた。

「ルーシェは、今でも幼竜にも成竜にも変化できるのです。だから彼は、人化したときも、子供ではなく大人の姿に変われると言いました」

「………………そうか」

 子供のルーシェの姿なら自制が効いたかも知れないが、最初から大人のルーシェの姿なら、それは確かに自制が効かなくなるかも知れない。

「うん、人化は止めて正解だね」

「それに私は」

 バンナムは眉間に皺を寄せて言った。

「人心を惑わすほど美しいというのなら、王子だけではなく、他の人間をも、夢中にさせてしまうのではないかと危惧しているのです。それは、決して良いことではありません」



 バンナムとレネが二人して部屋を立ち去った後、キースが二人の分の茶器を片付け、それからリヨンネの前に新しいお茶を淹れて茶器を置き、キース自身の分も淹れていた。
 キースはリヨンネの前の椅子に座ってちびりちびりとお茶を飲み始める。
 リヨンネは、キースに茶器の取り扱いや、お茶の淹れ方、人前でのふるまい、礼儀作法を教えていた。まるで土が水を吸い込むが如く、キースは新しい情報をみるみる自分のものにしていた。
 元から頭の良い子なのだろうとリヨンネはキースを見て思っていた。
 王都の孤児院に入れようと最初は考えていたが、兄ジャクセンの商会に、見習いとして入れてもいいのじゃないかと思い始めている。
 ただ、ここまでリヨンネの身の回りを世話を完璧に出来て、そして彼なくしては生活が回らなくなることが多くなってきた今では、それもなかなか難しいかと勝手な事を思っている。

「どうお調べするおつもりですか」

 キースがお茶を飲みながら、おずおずと尋ねてくる。
 キースは部屋の隅で控えていたから、皆のやりとりを最後まで耳にしていたのだ。
 気になるのは当然だった。

 バンナムとレネと別れる際、リヨンネは彼らに「過去にいた紫竜の記録について、ウラノス騎兵団長に聞いてみる」と言っていた。
 学者として、この竜騎兵団に残されている記録について問い合わせをすることはおかしなことではない。
 ウラノス騎兵団長も受け入れてくれるだろうと思われた。

 またリヨンネは、レネにも頼んでいた。

「昔から、貴方のように魔術師がこの竜騎兵団には様々な形で関わっていたはずだ。過去ここにいた魔術師達が残した記録があるかも知れない。レネ先生の方でも調べてみてくれないか」

 リヨンネの頼みをレネも承諾した。



「ウラノス騎兵団長に直接面会して、資料を見せて下さいと頼むだけだ。五百年前の記録だ。問題ないだろう」

 そうキースに答えた、その時のリヨンネは情報を簡単に入手できるだろうと軽く考えていた。

 だから、ウラノス騎兵団長から「五百年前に紫竜がこの竜騎兵団にいたという記録は消されている」という話を聞いた時、驚いて愕然としてしまったのだ。
 ウラノス騎兵団長によると、五百年前に紫竜がこの竜騎兵団にいたという記録はあった。だが、紫竜の名も、その主たる騎士の名も、二重線で消されているという。当時の竜騎兵団で、何故そうされたのか分からない。ただ団長室の記録帳には「紫竜は“魔術の王”と呼ばれるほど魔法に長け、人化すれば人心を惑わすほどに美しい」という記録があるのみだ、と話される。

 ウラノス騎兵団長からそれ以上の情報を得ることは出来なかったのである。
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