脱獄賢者~魔法を封じられた懲役1000年の賢者は体を鍛えて拳で全てを制圧する~

榊与一

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27話 勧誘

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「待っていろよ。リーン」

フードを目深にかぶり。
遠くから巨大な大聖堂を眺めて呟く。

ここは中央大陸。
ブルームーン王国の東部にある都市レジェンディア。
教会の本拠地がある場所だ。
遠くに見える大聖堂には今、リーンが訪れていた。

今すぐにでも乗り込んでやりたい所だが、警備が厳重過ぎて難しい。
透明化しても結界で直ぐにばれてしまうだろう。

冥界の力を使えば押し通る事も可能ではあるが、力の消費は出来るだけ抑えたい。
それに正面から突っ込めば多くの命を奪う事にもなってしまう。
復讐の為なら手段を選ぶつもりはないが、可能ならば無駄な殺生は避けたいところだ。

「おっきいねー」

リピがフードの隙間から顔を出す。
俺は無言で彼女をフードへと押し戻した。

妖精は目立つ。
街中をうろつく間は顔を出すなと言っておいたのだが、聞きやしない。
全く困った奴だ。

「4日後だ……」

一週間後にリーンは聖母へと就任する。
だがその直前に、彼女は清めの儀式を行う事になっていた。
俺はそのタイミングで彼女に引導を渡すつもりだ。

清めの儀式とは。
聖地において俗世での煩悩を捨て去り、聖人である聖母になる為の儀式だ。
それは3日3晩かけて行われ、その間リーンは最小限の神官のみと行動を共にする。
正に絶好のチャンスだった。

「もう、王子様のいけず―」

フードの中でリピがもごもごと喚くので、軽く小突いて黙らせる。
彼女の魔法は強力で、復讐には役に立つ。
だが普段一緒に行動するには、少々自由奔放過ぎて厄介極まりなかった。

逃亡者でなければ可愛らしい我が儘娘で済むのだが、追われる身としては溜まった物ではない。
此処に到着するまでに、何度彼女のせいで遠回りを強いられた事か。

「後で蜂蜜を買ってやるから静かにしていろ」

「ほんとにぃ?」

リピは甘いものが好きだ。
特に蜂蜜には目がない。
機嫌を取るのにはこれが一番だ。

「ああ」

「じゃあ静かにしてる!」

静かにすると、リピは大声で宣言する。
幸いフードの中なのでそこまで大きく声は漏れてはいないが、道行く何人かが不審そうに俺の方を見ていた。
万事この調子でハラハラの連続だ。

俺は軽く溜息を吐き、その場を離れる。
宿へと変える道すがら、一人の少女に声をかけられた。

年齢は15-6ぐらいだろうか。
輝く金の瞳に、金の髪。
決して美人ではないが、人を安心させる優しい笑顔で微笑んでいる。

「貴方は神を信じますか?」

彼女は青いローブを身に纏い。
その胸元には聖職者を示す教会のシンボルが刺繍されていた。
つまり教会関係者だ。

彼女はにこにこと俺を見つめる。
フードを目深に被っている怪しい風体だった俺が、きっと彼女には不信心者に見えたに違いない。だから声をかけてきたのだろう。
ここは教会のおひざ元だからな。

「神か……もちろん信じているさ」

もっとも、神は神でも死神の方だがな。

罪には罰を。
俺が死神となって奴に罰を下す。
リーンにはそれ相応の報いを受けて貰うさ。

「では、一緒に礼拝でも如何ですか」

「いいや、遠慮しておくよ」

俺はそう言い。
彼女に背を向ける。

「まあ、そうおっしゃらずに。どうかご一緒下さいませ。大賢者ガルガーノ様」

俺は驚いて振り返り。
女を睨み付けた。
だが女は表情を崩さず、柔らかい日の光の様に優しく微笑む。

「さあ、此方へ」

そう言うと女は俺の横をすり抜けて真っすぐ歩いていく。
俺はその後に続いた。
女の目的や正体を暴くために……
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