上 下
6 / 85
氷の女王

第5話 不審者

しおりを挟む
「ふぅ、まあこんなもんでいいか」

実家から持ち込んだ荷物を適当に整理する。
今日から寮での一人暮らしだ。
学生寮と聞くと相部屋を想像するだろうが、ギフテッド学園の寮は全て個室制だった。

可能な限り優良な環境で能力育成に注力するため、自室で気疲れなどしない様にするための配慮だそうだ。

室内はワンルームのマンション形式になっている。
ドアにカギは勿論の事、トイレ風呂キッチンも完備されていた。
学園外への行動を制限されているとはいえ、この環境ならまあ大きな不満は出て来ないだろう。

「しかし、アイス・クィーンか……綺麗な子だったな」

昼間すれ違った銀髪の女性、氷部澪奈の事を思い出す。
泰三がファンになったと言うだけあって、とんでもないレベルの美少女だ。
アイドルでもあのレベルは早々いないだろう。

「あれでもう少し胸があったら、俺もファンになってたかもな」

正確なサイズは分からないが、制服の盛り上がりが殆ど無かった事から巨乳でないのは間違いなかった。
残念ながら、俺は貧乳にはあまり興味がないのだ。

その為、泰三にファンクラブ――完全非公認――に入らないかと誘われたが俺はきっぱりと断っている。

「ふむ……」

俺は窓から外を見た。
時計の針は23時を指し、まばらな電灯だけが光源であるため周囲は暗い。
動く人影は見当たらない――のが普通だ。
だが何人かの人影が、こそこそと物陰に隠れる様に移動しているのが俺には見えた。

「放っておく――ってのもあれだよな」

俺が窓の外を見たのは、殺気だった気配を感じたからだった。
そいつらがこそこそと移動し、しかも顔には覆面迄つけているとなると、これは間違いなく何らかの犯罪絡みとみて間違いないだろう

俺は窓を開け――あっ、駄目だ。
窓には落下防止の為か留め具が付いてあり、全開には出来なかった。
めんどくさいとは思いつつ、俺は部屋を出て人の気配を避けて急いで3階から1階へと駆け降りる。

「ちっ、やっぱ気配はもう感じ取れないか」

異世界に居た時は、追跡なんかはシーフのジャンがが上手くやってくれていた。
俺はそう言った類の行動が苦手なので、遠く離れてしまった相手の居場所を掴んだりする事は出来ない。

完全に不審者達を見失なってしまった。
とは言え――

「この辺りから、アッチに進んでいたよな」

目視で相手の行動は見ている。
彼らが向かう先を急変更していないのなら、同じ方向に進めばかち合う可能性は高いだろう。
ある程度の距離まで寄れば気配で分かるので、俺はその方角に向かって駆けだす。

「いた」

グラウンド場に人影が見えた。
この時間はライトアップされていないのでかなり暗いが、遠目から七人いる事が確認できる。
俺の追っていた不審者の気配は6人だったので、どうやら1人増えた様だ。

「あれって……」

強く目を凝らして気づく。
7人いる内、1人に見覚えがある事に。

それは昼間すれ違った、氷部澪奈だった。

「どうやら、仲間じゃないみたいだな」

彼女以外は全員マスクを被り、明確な殺気を彼女に向かって放っていた。
あの不審者共の狙いは氷部だった。
もしくは、怪しい行動を氷部に咎められたって所だろう。

しかしなんで氷部はこんな時間、こんな場所に一人でいるんだ?

兎に角、一触即発の雰囲気を察し助けに入ろうとしたが、俺は咄嗟に動きを止めた。
6人の内1人がその場に倒れ込んだからだ。

「そういや、桁違いの四天王だったっけか?」

どうやら助けは不要そうだ。
2人目、3人目もあっという間にのされてしまう。

だが氷部は一歩も動いていない。

全ては彼女の周囲に漂う冷気――氷の結晶による物だった。

「成程。大したもんだ」

四天王の称号は伊達じゃなさそうだ。

アイス・クィーンと呼ばれるだけあって、彼女の能力は氷――もしくは冷気――を操る物なのだろう。
彼女が纏う微小な氷の結晶が、襲撃者達の首や脇に張り付き瞬時に動脈部分を凍り付かせてしまっている。
こうなるともう、相手は真面に動けない。

残り三人も、何も出来ずにあっという間に倒されてしまった。

「帰るか」

不審者が成敗された以上、俺がする事はなにも無い。
今更大丈夫かと声を掛けるのもあれだし。

「隠れていないで、出てきなさい」

彼女――氷部澪奈は小さく呟いた。
それは間違いなく、囁く様な小声だ。
にも関わらず、遠く離れた俺の耳にまでしっかりと言葉が届く。

これも能力だろうか?

彼女は真っすぐに此方を見ている。
間違いなく、今の言葉は俺に向けられた物だ。
結構距離があるというのに、良く気付いたもんだと感心する。

「どうも」

面倒くさいから言葉を無視して去ろうかとも思ったが、背を向けた瞬間いきなり背後から襲われそうだったので止めておく。
刺激しない様ゆっくりと歩いていき、俺は氷部に声を掛けた。

「……」

返事は返ってこない。
代わりに彼女の体からは、強い殺気が放たれた。
どうやら俺を不審者の仲間と勘違いしている様だ。

「あなた、組織の人間ね」

組織。
周りに転がっている不審者達は、何かの犯罪組織に所属する人間という事だろうか?

「言っとくけど、俺はこいつらの仲間じゃないぞ?寧ろ――」

「でしょうね、彼らは組織の人間じゃないわ。以前私にやられた事を恨んで、復讐に来ただけの只の大馬鹿者達だもの」

言葉を遮られてしまう。
どうやら彼女は、人の話を最後まで聞かないタイプの人間らしい。

「組織の人間とは……貴方とは……直接の繋がりはないでしょうね」

言葉と共に、彼女の殺気が膨れ上がった。
周囲の気温が一気に下がり、氷部澪奈の周囲に微細な結晶が乱舞する。

こりゃ不味いな。
彼女の言う組織が一体どういう物かは知らないが、完全に勘違いされてしまっている様だ。
兎に角、きちんと話して誤解を解かないと。

「えーっとさ……君、絶対勘違いしてるよね?」

「問答無用!」

落ち着かせようと声を掛けるが、完全に拒絶されてしまう。
氷部は手を此方に向け、問答無用で此方に攻撃を仕掛けて来た。

やれやれと心の中で呟きながら、俺は大きく背後に飛び退って躱す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...