30 / 85
超重の制圧者
第29話 正義の味方
しおりを挟む
「余計な事するなとか言うなよ」
人の勝負に横槍を入れるのは趣味ではない。
だがエレメントマスターの状態はどう見ても異常だった。
明かに氷部を殺そうとしていたので、流石に放っておくわけにもいかず手を出してしまった。
「ありがとう……助かったわ」
氷部は弱々しく礼を口にする。
かなりの疲労がその表情から見て取れた。
しかし……美女を抱き抱えられる上にお礼まで言われるのだ、正義の味方ってのは役得だなとしみじみと思う。
因みに四条は氷部を助け出す所が見えていなかったのか、始末出来たと勘違いしてゲラゲラと月に向かって笑い声を上げていた。
楽しそうで何よりだ。
「ところで、一つ聞いていい?」
「ん?」
「何でこの足場で貴方は、沈まずに立っていられるの?」
俺は氷部を抱き抱え、泥沼の上に立っていた。
「ああ、それか。忍者が水の上を走ったりするだろ?それと似た様なもんだ」
漫画とか、時代劇では忍者が川の上を走っている。
沈む前に足を出して、出した足を軸にして更に前に足を出す。
そうして忍者は水に沈む事なく走る事が出来るのだ。
まあそれは完全にフィクションな訳だが――
「右足に体重をかけるだろ?じゃあ右足が沈む」
「ええ、そうね」
「じゃあ今度は左足に重心を移す。すると右足は浮いて左足が沈み出す」
「……」
「これを超高速でやれば、あら不思議」
普通に立っている様に見えて、その実、左右の体重移動を高速でやってのける事で俺は泥沼の上に立つ事が出来る。
と言う体で、話を進める事にする。
言ってる事は勿論口から出まかせだ。
走るならまだしも、その場で停滞している状態で浮き続けられるわけがない。
実際は足の裏から闘気を噴出させ、ジェット代わりにして浮いていた。
これを使えば、その気になれば空を飛ぶ事も出来たりする。
「凄く……嘘臭いわね」
「おいおい。命の恩人の言葉ぐらい素直に信じろよな」
氷部にはあからさまに疑われてしまう。
だからと言って、素直に話す訳にもいかないだろう。
何せ闘気は異世界で習得した力で、本来ならこの世界に無い力だからな――俺はレベルアップの影響で使える様になっている。
だからそれをペラペラ誰かにしゃべるつもりはなかった。
ここは超科学的ホラ話で切り抜けさせて貰う。
「貴方……本当に何者なの?」
「正義の味方さ。という訳で、四条との勝負は俺が引き継がせて貰うぜ」
「……彼は、ブースターの過剰摂取で異常な事になっているわ。気を付けて」
「ああ、見りゃ分かるさ。まあ気を付けるよ」
俺は苦笑して答える。
未だに月に向かって狂った様に笑ってる姿を見て「やあ、今日も四条君は陽気だね」とは流石に考えないからな。
俺は氷部を抱え、グラウンドの端に向かって走る。
流石に彼女を抱えたままでは戦えない。
フェンスを軽く飛び越え、足がしっかりつける地面に氷部をゆっくりと下ろした。
残念だが、ボーナスタイムはここで終了だ。
「随分と楽しそうね」
相当疲弊しているのだろう。
氷部はその場に乙女座りして、俺を見上げる。
「ああ、今の四条は強いからな。倒し甲斐があるってもんだ」
「呆れた人ね」
彼女が微かに微笑む。
俺もそれに合わせてニカッと笑った。
「悪いけど、何かありそうだったら頼むぜ!」
暗がりに向かって声を掛けた。
かなり距離は離れてはいるが、多分聞こえてはいるだろう。
「誰に向かって言ってるの?」
氷部が怪訝そうに聞いて来た。
相手は、生徒会副会長の茨城恵子だ。
彼女は遠く離れた場所から此方の様子を伺っている。
俺は気配でそれに気づいていた。
「味方だよ」
「味方?」
今の氷部はまともに動く事も出来ない。
多分大丈夫だとは思うが、戦いの影響がここまで出た場合を想定して声を掛けておいた。
まあ氷部がやられそうになった時、彼女は動こうとしてたから――俺に気づいて動くのを止めている――一々声を掛ける必要は無かったとは思うが。
「んじゃ、行って来る」
そう言い残し、フェンスを越えて四条王喜の元へと戻る。
流石に直ぐ傍まで近づくと奴は此方に気づき、俺を睨み付けて来た。
「かがみぃ……おまえかぁ……へひひ、丁度いい」
その口の端には、涎がべとべとに滴っている。
きったねぇな、まったく。
「抱腹絶倒のところ悪いけど、俺が助けたから氷部は生きてるぜ」
「なにぃ!!」
まるで目玉が飛び出さんばかりに、奴は目を剥く。
面白い顔だ。
「ここからは、お前の相手は俺がさせて貰う。氷部を殺したきゃ、先に俺を殺す事だな」
俺は拳を構え、四条を睨み付けた。
さあ、勝負開始だ。
人の勝負に横槍を入れるのは趣味ではない。
だがエレメントマスターの状態はどう見ても異常だった。
明かに氷部を殺そうとしていたので、流石に放っておくわけにもいかず手を出してしまった。
「ありがとう……助かったわ」
氷部は弱々しく礼を口にする。
かなりの疲労がその表情から見て取れた。
しかし……美女を抱き抱えられる上にお礼まで言われるのだ、正義の味方ってのは役得だなとしみじみと思う。
因みに四条は氷部を助け出す所が見えていなかったのか、始末出来たと勘違いしてゲラゲラと月に向かって笑い声を上げていた。
楽しそうで何よりだ。
「ところで、一つ聞いていい?」
「ん?」
「何でこの足場で貴方は、沈まずに立っていられるの?」
俺は氷部を抱き抱え、泥沼の上に立っていた。
「ああ、それか。忍者が水の上を走ったりするだろ?それと似た様なもんだ」
漫画とか、時代劇では忍者が川の上を走っている。
沈む前に足を出して、出した足を軸にして更に前に足を出す。
そうして忍者は水に沈む事なく走る事が出来るのだ。
まあそれは完全にフィクションな訳だが――
「右足に体重をかけるだろ?じゃあ右足が沈む」
「ええ、そうね」
「じゃあ今度は左足に重心を移す。すると右足は浮いて左足が沈み出す」
「……」
「これを超高速でやれば、あら不思議」
普通に立っている様に見えて、その実、左右の体重移動を高速でやってのける事で俺は泥沼の上に立つ事が出来る。
と言う体で、話を進める事にする。
言ってる事は勿論口から出まかせだ。
走るならまだしも、その場で停滞している状態で浮き続けられるわけがない。
実際は足の裏から闘気を噴出させ、ジェット代わりにして浮いていた。
これを使えば、その気になれば空を飛ぶ事も出来たりする。
「凄く……嘘臭いわね」
「おいおい。命の恩人の言葉ぐらい素直に信じろよな」
氷部にはあからさまに疑われてしまう。
だからと言って、素直に話す訳にもいかないだろう。
何せ闘気は異世界で習得した力で、本来ならこの世界に無い力だからな――俺はレベルアップの影響で使える様になっている。
だからそれをペラペラ誰かにしゃべるつもりはなかった。
ここは超科学的ホラ話で切り抜けさせて貰う。
「貴方……本当に何者なの?」
「正義の味方さ。という訳で、四条との勝負は俺が引き継がせて貰うぜ」
「……彼は、ブースターの過剰摂取で異常な事になっているわ。気を付けて」
「ああ、見りゃ分かるさ。まあ気を付けるよ」
俺は苦笑して答える。
未だに月に向かって狂った様に笑ってる姿を見て「やあ、今日も四条君は陽気だね」とは流石に考えないからな。
俺は氷部を抱え、グラウンドの端に向かって走る。
流石に彼女を抱えたままでは戦えない。
フェンスを軽く飛び越え、足がしっかりつける地面に氷部をゆっくりと下ろした。
残念だが、ボーナスタイムはここで終了だ。
「随分と楽しそうね」
相当疲弊しているのだろう。
氷部はその場に乙女座りして、俺を見上げる。
「ああ、今の四条は強いからな。倒し甲斐があるってもんだ」
「呆れた人ね」
彼女が微かに微笑む。
俺もそれに合わせてニカッと笑った。
「悪いけど、何かありそうだったら頼むぜ!」
暗がりに向かって声を掛けた。
かなり距離は離れてはいるが、多分聞こえてはいるだろう。
「誰に向かって言ってるの?」
氷部が怪訝そうに聞いて来た。
相手は、生徒会副会長の茨城恵子だ。
彼女は遠く離れた場所から此方の様子を伺っている。
俺は気配でそれに気づいていた。
「味方だよ」
「味方?」
今の氷部はまともに動く事も出来ない。
多分大丈夫だとは思うが、戦いの影響がここまで出た場合を想定して声を掛けておいた。
まあ氷部がやられそうになった時、彼女は動こうとしてたから――俺に気づいて動くのを止めている――一々声を掛ける必要は無かったとは思うが。
「んじゃ、行って来る」
そう言い残し、フェンスを越えて四条王喜の元へと戻る。
流石に直ぐ傍まで近づくと奴は此方に気づき、俺を睨み付けて来た。
「かがみぃ……おまえかぁ……へひひ、丁度いい」
その口の端には、涎がべとべとに滴っている。
きったねぇな、まったく。
「抱腹絶倒のところ悪いけど、俺が助けたから氷部は生きてるぜ」
「なにぃ!!」
まるで目玉が飛び出さんばかりに、奴は目を剥く。
面白い顔だ。
「ここからは、お前の相手は俺がさせて貰う。氷部を殺したきゃ、先に俺を殺す事だな」
俺は拳を構え、四条を睨み付けた。
さあ、勝負開始だ。
0
あなたにおすすめの小説
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる