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バトルフェスティバル
第33話 スパイ
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「四条はどうじゃ?」
「じき目を覚ますのではないかとの事です」
机に頬杖を突き、恵子に尋ねる。
四条の使った薬物は、以前までの物に比べ遥かに強力な物だったそうだ。
当然そんな物を2本も連続で打ったアホのダメージは大きい。
だが幸いな事に使用期間が極短期であったため、致命へとは至らなかった様だ。
「奴が目を覚ましたら報せよ。妾が出向く」
「は?あ……はい」
私自らが四条の元へ行くという言葉を聞き、恵子は一瞬驚いた様な表情を見せたが、直ぐに真顔に戻って返事を返した。
「奴を気にかけるのが不思議か?」
「いえ、そのような事は……」
「妾はあやつを配下に加えるつもりじゃ」
「……」
私は馬鹿が好きではない。
それを知っている恵子は絶句する。
「あれは脳天パーではあるが、力はあるからのう」
今回の一件で、私は四条に対する評価を覆している。
ブースターは使用者の潜在能力を無理やり引き出す薬だ。
能力のない物が使用しても何の効果も現れないのは、その為だった。
ここでのポイントは【潜在能力を引き出す】という点だ。
つまりあやつとの戦いで見せた力、それは四条の潜在能力の高さを現していた。
四条は鍛え方次第では化ける。
馬鹿は好かんが、あの力を埋もれさせるのは余りにも惜しい。
幸い今回の騒動で、四条家は王喜を除名している。
私が粉をかけたとして、一々文句は言ってこないだろう。
「不服か?」
「いえ。真央様の御随意に」
私は配下の言葉に耳を傾けぬほど狭量ではない。
だが彼女は不満を持ちつつも、特に何も口にはしなかった。
恵子を拾ってから既に6年経つ。
だが彼女は今まで、私の行動に異を唱えた事は一度も無かった。
忠誠の表れと言えば聞こえはいいが、盲目的に頷くだけのイエスマンよりは、自分の意見を持って行動してくれる方が有難いのだが……
それはまあ、求め過ぎか。
彼女は与えた仕事を完璧にやり遂げる優秀な部下だ。
それ以上を人間に求める事自体、馬鹿げているのだろう。
「入れ」
扉がノックされ、私はそれに鷹揚に答える。
中に入って来たのは、黒い制服を身に着けた生徒会のメンバーだった。
まあここに他の人間が来る事など殆どないので、入ってくる前から分かり切っていた事ではあるが。
「失礼します。真央様、これを」
室内に入って来た黒い制服を身に着けた部下――畑林が、紙束を手渡して来た。
私はそれに目を通す。
それは学園内に潜むスパイ――薬物を学園にばら撒いている組織関連――の候補者リストだった。
「随分と多いな」
ざっと見た所、50人分の名がリストには記されている。
その全てが学園関係者の名だ。
当然すべてがスパイという訳ではなく、あくまでも現状の調査から疑いのある相手をピックアップしているに過ぎない。
「申し訳ありません」
「まあ良い」
この学園は政府直轄であるため、セキュリティレベルはかなり高い。
そのため部外者が単独で侵入し、学園内にいる生徒に薬を渡すというのは現実的では無かった。
間違いなく、内部の人間が何らかの手引きを行っているはずだ。
それを見つけ出すために素行や行動の調査と、その結果によるリストアップを行っているのだが……残念ながらその成果は芳しくないと言える。
敵もまあ、そう間抜けではないと言う事だろう。
「ん?こやつは……」
リストの中にある女の名に気づき、視線を止める。
それは私が知っている人物だった。
「盤上の幻想者……あやつ、この学園に赴任しておったのか」
「お知り合いの方でしょうか?」
「んむ。妾がこの学園に入った当時、最強と呼ばれておった女じゃ」
彼女は学園生活最後の闘祭で私と当り、黒星を刻まれ学園を去っている。
「あの女が教師のう……」
試合の後、白々しい握手を交わした際のあやつの目。
余程負けたのが悔しかったのだろう、その瞳には、尋常ではない怒りと憎しみの炎が灯っていたのを今でも覚えている。
「まあ考え過ぎか」
もう6年も前の話だ。
いくらなんでも、未だにその事を根に持っているとは思えない。
だが――
「この者の調査を、徹底的に行うのじゃ」
どうも教師になったと言うのが気にかかる。
あの女の能力ならば、もっと相応しい仕事が幾らでもあった筈だ。
それがどうにも引っ掛かって仕方がなかった。
「畏まりました」
畑林が私の命令を実行するべく、頭を下げて部屋を出て行く。
「さて、恵子。お主には鏡の事を調べて貰う」
「はい、お任せください」
かつての宿敵ではあるが、過去を引きずる積もりはない。
私の目的を達成する為にも、可能ならばあの男を――
「とは言え、借りだけはきちんと返しておかんとのう。くくく」
闘祭でどう料理してやろうか?
それを考えると、自然と笑みがこぼれる。
勝てば教えてやるとは言ったが、あえて試合前に教えてやるのも面白いかもしれない。
ああ、奴との対戦が楽しみだ。
「じき目を覚ますのではないかとの事です」
机に頬杖を突き、恵子に尋ねる。
四条の使った薬物は、以前までの物に比べ遥かに強力な物だったそうだ。
当然そんな物を2本も連続で打ったアホのダメージは大きい。
だが幸いな事に使用期間が極短期であったため、致命へとは至らなかった様だ。
「奴が目を覚ましたら報せよ。妾が出向く」
「は?あ……はい」
私自らが四条の元へ行くという言葉を聞き、恵子は一瞬驚いた様な表情を見せたが、直ぐに真顔に戻って返事を返した。
「奴を気にかけるのが不思議か?」
「いえ、そのような事は……」
「妾はあやつを配下に加えるつもりじゃ」
「……」
私は馬鹿が好きではない。
それを知っている恵子は絶句する。
「あれは脳天パーではあるが、力はあるからのう」
今回の一件で、私は四条に対する評価を覆している。
ブースターは使用者の潜在能力を無理やり引き出す薬だ。
能力のない物が使用しても何の効果も現れないのは、その為だった。
ここでのポイントは【潜在能力を引き出す】という点だ。
つまりあやつとの戦いで見せた力、それは四条の潜在能力の高さを現していた。
四条は鍛え方次第では化ける。
馬鹿は好かんが、あの力を埋もれさせるのは余りにも惜しい。
幸い今回の騒動で、四条家は王喜を除名している。
私が粉をかけたとして、一々文句は言ってこないだろう。
「不服か?」
「いえ。真央様の御随意に」
私は配下の言葉に耳を傾けぬほど狭量ではない。
だが彼女は不満を持ちつつも、特に何も口にはしなかった。
恵子を拾ってから既に6年経つ。
だが彼女は今まで、私の行動に異を唱えた事は一度も無かった。
忠誠の表れと言えば聞こえはいいが、盲目的に頷くだけのイエスマンよりは、自分の意見を持って行動してくれる方が有難いのだが……
それはまあ、求め過ぎか。
彼女は与えた仕事を完璧にやり遂げる優秀な部下だ。
それ以上を人間に求める事自体、馬鹿げているのだろう。
「入れ」
扉がノックされ、私はそれに鷹揚に答える。
中に入って来たのは、黒い制服を身に着けた生徒会のメンバーだった。
まあここに他の人間が来る事など殆どないので、入ってくる前から分かり切っていた事ではあるが。
「失礼します。真央様、これを」
室内に入って来た黒い制服を身に着けた部下――畑林が、紙束を手渡して来た。
私はそれに目を通す。
それは学園内に潜むスパイ――薬物を学園にばら撒いている組織関連――の候補者リストだった。
「随分と多いな」
ざっと見た所、50人分の名がリストには記されている。
その全てが学園関係者の名だ。
当然すべてがスパイという訳ではなく、あくまでも現状の調査から疑いのある相手をピックアップしているに過ぎない。
「申し訳ありません」
「まあ良い」
この学園は政府直轄であるため、セキュリティレベルはかなり高い。
そのため部外者が単独で侵入し、学園内にいる生徒に薬を渡すというのは現実的では無かった。
間違いなく、内部の人間が何らかの手引きを行っているはずだ。
それを見つけ出すために素行や行動の調査と、その結果によるリストアップを行っているのだが……残念ながらその成果は芳しくないと言える。
敵もまあ、そう間抜けではないと言う事だろう。
「ん?こやつは……」
リストの中にある女の名に気づき、視線を止める。
それは私が知っている人物だった。
「盤上の幻想者……あやつ、この学園に赴任しておったのか」
「お知り合いの方でしょうか?」
「んむ。妾がこの学園に入った当時、最強と呼ばれておった女じゃ」
彼女は学園生活最後の闘祭で私と当り、黒星を刻まれ学園を去っている。
「あの女が教師のう……」
試合の後、白々しい握手を交わした際のあやつの目。
余程負けたのが悔しかったのだろう、その瞳には、尋常ではない怒りと憎しみの炎が灯っていたのを今でも覚えている。
「まあ考え過ぎか」
もう6年も前の話だ。
いくらなんでも、未だにその事を根に持っているとは思えない。
だが――
「この者の調査を、徹底的に行うのじゃ」
どうも教師になったと言うのが気にかかる。
あの女の能力ならば、もっと相応しい仕事が幾らでもあった筈だ。
それがどうにも引っ掛かって仕方がなかった。
「畏まりました」
畑林が私の命令を実行するべく、頭を下げて部屋を出て行く。
「さて、恵子。お主には鏡の事を調べて貰う」
「はい、お任せください」
かつての宿敵ではあるが、過去を引きずる積もりはない。
私の目的を達成する為にも、可能ならばあの男を――
「とは言え、借りだけはきちんと返しておかんとのう。くくく」
闘祭でどう料理してやろうか?
それを考えると、自然と笑みがこぼれる。
勝てば教えてやるとは言ったが、あえて試合前に教えてやるのも面白いかもしれない。
ああ、奴との対戦が楽しみだ。
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