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留学生
第61話 鏡
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「私が勝ったら、もう二度と格好には口出ししない事。いいわね」
「ええ。その代わり私が勝ったら、制服をちゃんと着てもらうわよ」
別に制服でなくともいいのだが、彼女の場合たとえ水着を止めたとしても、男子の目を引く下品な格好をするのは目に見えていた。
それでは意味がないので、私は制服を着る事を彼女に強要する。
「ええ、いいわよ。まあ私に勝てればの話ではあるけどね」
彼女は自信満々に胸を張る。
当然、今この瞬間も彼女は水着だ。
私はすぐ横にいる鏡君を睨みつけた。
「ん?」
彼は真顔だが、きっと心の中でにやにやしている事だろう……そう思ったのだが、何故か今回はそんな感じを受けなかった。
審判を担当しているせいだろうか?
そういえば彼、戦いにだけはストイックだったわね。
「何でもないわ」
私は視線をエヴァへと戻す。
彼女の能力は、泡を操る能力と、魔眼と言われるギフトの二つだ。
データが半年以上前の物であるため、ひょっとしたらギフトが増えている可能性もあるが、その時は臨機応変に対応するまで。
因みに私が彼女の能力を知っているのは、ギリシア組の留学に際して、生徒会長から念のためにと三人のデータを受けとっていたからだ。
何かあった際に、風紀委員として的確に対応できる様にと貰った物な訳だが……まさかこんな事でそれを生かす羽目になろうとは、夢にも思わなかった。
「あなた、氷を使うんですって?」
エヴァが「貴方の能力は知っている」といった口ぶりで話しかけて来る。
まあ不本意ではあるが、四天王と呼ばれる私の能力は学園内で広く知れ渡っていた。
調べるのはさぞ簡単な事だったろう。
私にはそれ以外にも転移の能力があるのだが、まあそちらも把握されていると考えておいた方が良さそうだ。
「冷たそうな見た目にピッタリね」
冷たそう。
髪が銀髪のせいもあって、それは昔からよく陰で言われて来た言葉だった。
だが流石に面と向かって言われたのは今回が初めてだ。
陰湿でない分、まだこちらの方がましと言えばましではあるが……まあ悪口には変わりないので、歓迎する気はもちろんない。
「もうすぐ試合の時間よ。無駄口は控えたらどう?」
大演武場にある大時計を見る。
開始までもう30秒を切っていた。
「見た目だけじゃなく。態度まで冷たいのね」
彼女の言葉は無視し、目を瞑って私は集中力を高める。
エヴァの能力で厄介なのは、どちらかと言えば魔眼の方だ。
その能力の効果は一つではなく、複数に渡る。
相手に強い好意を抱かせ、ある程度意のままに操る事が出来る魅了。
恐怖心で相手を行動不能に追い込む恐慌。
相手の怒りを煽り、正常な意識を飛ばす狂化
そして、相手の力を徐々に弱める弱体化だ。
その四つの効果の中で、最も厄介なのは弱体化だった。
他の三種は、至近距離で直接目を見られなければ効果が発揮しない能力だ。
なので近寄らない、もしくは相手の目を見なければいいだけなので対処は難しくない。
だがウィークだけは他と違い、遠くから姿を見られるだけでも効果が発生してしまう。
瞬間的に強力な効果が発揮しないとはいえ、これをかけ続けられると、状況はどんどん不利になっていく。
だからまずは、弱体化を封じさせて貰う。
要は姿を見られなければいいのだ。
「試合開始!」
「アイスミラー!」
開始の合図と同時に、前面に氷で出来た巨大な鏡を生み出した。
これで相手からは私の姿が見えないはずだ。
此方からも相手の姿は見えなくなってしまうが、私は周囲に氷の結晶をばら撒く事で相手の動きを察知できるので問題ない。
さあ、攻撃を――
「え?」
体に違和感を感じる
それは負荷というにはごく小さな物だった。
だが間違いなく、私の体には何かが作用している。
まさか魔眼?
でも弱化の魔眼は封じたはず。
一体何故?
「まさか!?」
体に虹色の光が落ちている事に気づき、視線を上げる。
頭上には、太陽を覆う様な巨大なシャボン玉が浮いていた。
エヴァの生み出した物だろう。
その表面には、まるで鏡の様に私の姿が映し出されている。
どうやら、見るのは鏡に映った姿でもいい様だ。
まさか相手も似たような手を使ってくるなんて……
「あなたが鏡で私の魔眼を封じてくるのは分かってたわよ。でも、むーだ」
私はその言葉を無視し、素早く氷の刃をそれに向かって放つ。
だがシャボン玉はぐにゃりと形を変え、放った攻撃を避けてしまった。
「ふふふ、はずれ」
「はぁ!」
今度は冷気の波を、上空に向かって広範囲に放つ。
これならばさっきの様にはいかないだろう。
「無駄よ!」
「っ!?」
エヴァが無数の小さな泡を放つ。
それは上空で冷気とぶつかり、凍った泡は雪となってパラパラと地上に降り注いだ。
攻撃を防がれ、上空のシャボン玉は健在のままである。
完全に防がれてしまった。
「夏に降る雪なんて、ロマンチックじゃない?」
私は目の前の鏡を消す。
相手の魔眼を防げないのなら、維持する意味はない。
フルパワーでの攻撃ならあのシャボン玉は壊せるかもしれないが、正直割に合わないのでやめておく。
どうせ潰しても、また生み出されるのは目に見えているのだから。
「そう、じゃあ次は吹雪なんてどうかしら!」
小細工勝負はこちらの負けだ。
それは認めよう。
だがそれで試合の勝敗が決まるわけではない。
力で捻じ伏せるのみ。
私は冷気を生み出し、そこに結晶の刃を混ぜて彼女へと放った。
「ええ。その代わり私が勝ったら、制服をちゃんと着てもらうわよ」
別に制服でなくともいいのだが、彼女の場合たとえ水着を止めたとしても、男子の目を引く下品な格好をするのは目に見えていた。
それでは意味がないので、私は制服を着る事を彼女に強要する。
「ええ、いいわよ。まあ私に勝てればの話ではあるけどね」
彼女は自信満々に胸を張る。
当然、今この瞬間も彼女は水着だ。
私はすぐ横にいる鏡君を睨みつけた。
「ん?」
彼は真顔だが、きっと心の中でにやにやしている事だろう……そう思ったのだが、何故か今回はそんな感じを受けなかった。
審判を担当しているせいだろうか?
そういえば彼、戦いにだけはストイックだったわね。
「何でもないわ」
私は視線をエヴァへと戻す。
彼女の能力は、泡を操る能力と、魔眼と言われるギフトの二つだ。
データが半年以上前の物であるため、ひょっとしたらギフトが増えている可能性もあるが、その時は臨機応変に対応するまで。
因みに私が彼女の能力を知っているのは、ギリシア組の留学に際して、生徒会長から念のためにと三人のデータを受けとっていたからだ。
何かあった際に、風紀委員として的確に対応できる様にと貰った物な訳だが……まさかこんな事でそれを生かす羽目になろうとは、夢にも思わなかった。
「あなた、氷を使うんですって?」
エヴァが「貴方の能力は知っている」といった口ぶりで話しかけて来る。
まあ不本意ではあるが、四天王と呼ばれる私の能力は学園内で広く知れ渡っていた。
調べるのはさぞ簡単な事だったろう。
私にはそれ以外にも転移の能力があるのだが、まあそちらも把握されていると考えておいた方が良さそうだ。
「冷たそうな見た目にピッタリね」
冷たそう。
髪が銀髪のせいもあって、それは昔からよく陰で言われて来た言葉だった。
だが流石に面と向かって言われたのは今回が初めてだ。
陰湿でない分、まだこちらの方がましと言えばましではあるが……まあ悪口には変わりないので、歓迎する気はもちろんない。
「もうすぐ試合の時間よ。無駄口は控えたらどう?」
大演武場にある大時計を見る。
開始までもう30秒を切っていた。
「見た目だけじゃなく。態度まで冷たいのね」
彼女の言葉は無視し、目を瞑って私は集中力を高める。
エヴァの能力で厄介なのは、どちらかと言えば魔眼の方だ。
その能力の効果は一つではなく、複数に渡る。
相手に強い好意を抱かせ、ある程度意のままに操る事が出来る魅了。
恐怖心で相手を行動不能に追い込む恐慌。
相手の怒りを煽り、正常な意識を飛ばす狂化
そして、相手の力を徐々に弱める弱体化だ。
その四つの効果の中で、最も厄介なのは弱体化だった。
他の三種は、至近距離で直接目を見られなければ効果が発揮しない能力だ。
なので近寄らない、もしくは相手の目を見なければいいだけなので対処は難しくない。
だがウィークだけは他と違い、遠くから姿を見られるだけでも効果が発生してしまう。
瞬間的に強力な効果が発揮しないとはいえ、これをかけ続けられると、状況はどんどん不利になっていく。
だからまずは、弱体化を封じさせて貰う。
要は姿を見られなければいいのだ。
「試合開始!」
「アイスミラー!」
開始の合図と同時に、前面に氷で出来た巨大な鏡を生み出した。
これで相手からは私の姿が見えないはずだ。
此方からも相手の姿は見えなくなってしまうが、私は周囲に氷の結晶をばら撒く事で相手の動きを察知できるので問題ない。
さあ、攻撃を――
「え?」
体に違和感を感じる
それは負荷というにはごく小さな物だった。
だが間違いなく、私の体には何かが作用している。
まさか魔眼?
でも弱化の魔眼は封じたはず。
一体何故?
「まさか!?」
体に虹色の光が落ちている事に気づき、視線を上げる。
頭上には、太陽を覆う様な巨大なシャボン玉が浮いていた。
エヴァの生み出した物だろう。
その表面には、まるで鏡の様に私の姿が映し出されている。
どうやら、見るのは鏡に映った姿でもいい様だ。
まさか相手も似たような手を使ってくるなんて……
「あなたが鏡で私の魔眼を封じてくるのは分かってたわよ。でも、むーだ」
私はその言葉を無視し、素早く氷の刃をそれに向かって放つ。
だがシャボン玉はぐにゃりと形を変え、放った攻撃を避けてしまった。
「ふふふ、はずれ」
「はぁ!」
今度は冷気の波を、上空に向かって広範囲に放つ。
これならばさっきの様にはいかないだろう。
「無駄よ!」
「っ!?」
エヴァが無数の小さな泡を放つ。
それは上空で冷気とぶつかり、凍った泡は雪となってパラパラと地上に降り注いだ。
攻撃を防がれ、上空のシャボン玉は健在のままである。
完全に防がれてしまった。
「夏に降る雪なんて、ロマンチックじゃない?」
私は目の前の鏡を消す。
相手の魔眼を防げないのなら、維持する意味はない。
フルパワーでの攻撃ならあのシャボン玉は壊せるかもしれないが、正直割に合わないのでやめておく。
どうせ潰しても、また生み出されるのは目に見えているのだから。
「そう、じゃあ次は吹雪なんてどうかしら!」
小細工勝負はこちらの負けだ。
それは認めよう。
だがそれで試合の勝敗が決まるわけではない。
力で捻じ伏せるのみ。
私は冷気を生み出し、そこに結晶の刃を混ぜて彼女へと放った。
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