64 / 85
留学生
第63話 三日
しおりを挟む
それは余りにも予想外で、唐突な言葉だった。
「用務員を務めている男を、叩きのめしてください」
「何かの冗談か?」
氷部とエヴァの勝負。
その審判を頼まれた際に、ついでと言わんばかりの淡々とした口調で、茨城からとんでもない事を俺は頼まれた。
学園で働く人物をボコボコにしろとか、とてもではないが生徒会副会長を務める人間の言葉とは思えないのだが。
「あれは真央様のストーカーです。迷惑をしているので、排除してください」
「それ、俺に頼む事か?迷惑だってんなら、荒木自身にやらせろよ」
排除とかまるで暗殺依頼だ。
まあ殺せではなく叩きのめせだから、命まで奪えと言ってるわけではないんだろうが……
「アポロンと戦いたくはないのですか?」
「む……」
茨城から的確な切り返しが戻ってくる。
戦いたいか戦いたくないかで言うなら――――もちろん死ぬほど戦いたい。
荒木程ではないにしろ、あの強さは相当なものだ。
戦いたくないわけがない。
だが俺だって、最低限の常識はわきまえているつもりだ。
生徒ではなく用務員。
しかもそれは臨時で、本当の身分はギリシアの偉いさんとなれば、流石の俺も喧嘩を吹っ掛けるのは躊躇われる。
後々面倒な事になるのは目に見えているからな。
「3日です」
「ん?」
何が3日なんだ?
「罰は反省室3日で済ませます。それ以外のごたごたも真央様の名において、責任を持って対処する事をお約束しましょう」
茨城が荒木の名を使って宣言している以上、単独の判断ではなく、正式に荒木からの依頼と考えていいだろう。
彼女が勝手に名前を使うとは思えないからな。
真央グループが責任持ってけつを持ってくれるんなら、後々のごたごたは気にしなく済む……か。
だが彼女の言葉に、一つだけ気になる所があった。
「すまん、確認させてくれ。3日ってのは、俺が反省室に入るのか?」
「暴れた本人をお咎めなしにはできませんので。ですが安心してください。3日で済ませますから」
自信満々気に茨城は答える。
あまりにもふざけた、正気を疑う言葉だ。
何で頼みごとを聞いた俺が、反省室に入れられにゃならんのだ?
割に合わないにも程がある。
それで受ける奴がいるのなら、顔を見てみたいものだ。
「わかった。ちゃんと後処理はしろよ」
ええ、実は毎日鏡で見てます。
冷静に考えて、たった3日反省室に入るだけであれと戦えるのなら、こんな魅力的な提案はない。
ここは荒木の奴に恩を売る意味も込めて、がっつり引き受ける事にする。
「では、お願いします」
「任せろ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おらぁ!」
「むん!」
アポロンの顔面に容赦なく回し蹴りを叩き込む。
だが奴はそれを、片手で容易く受け止めて見せた。
――そうでなくっちゃ。
正面から走ってきて攻撃しているのだ。
それに反応できない様なボンクラなら、戦う価値などないからな。
「何のつもりだ?」
「あんた、荒木真央のストーカーなんだってな?」
「戯言を」
アポロンはその言葉を鼻で笑うが、横にいた女性はストーカーという俺の言葉に反応を見せた。
本人には全く自覚がない様だが、どうやらストーカーというのは本当の事らしい。
まあ今更それが嘘か誠かなんて俺にはどうでもいい事ではあるのだが、一応確認だけはしておいた。
「いたいけな少女(?)を付け回す悪漢を、学園のキングとしては見逃すわけにはいかないんでな。成敗させてもらう」
うむ、我ながら見事な口上だ。
荒木に頼まれたと言っても良かったのだが、万一その事でアポロンが強いショックを受け、戦闘に影響が出てしまってはあれだからな。
そこは伏せておく。
「なるほど……貴様が裸王か。だが聞き捨てならんな。荒木真央を苦しめる悪漢は、貴様であろうが!」
――なんでやねん。
何をどうしたら俺が悪漢になる?
いやまあ、今嬉々として喧嘩を吹っ掛けてるのは確かにアレではあるが……
後、真面目なシチュエーションでその2つ名を出されるとなんだかモヤっとする。
「そちらの方からやってくるとはな。丁度いい。貴様を叩き潰し、彼女の安寧をこの手で掴み取ってくれる。彼女の将来の夫である、このアポロンがな!」
あんな子供相手に将来の夫とか、頭おかしいんじゃねぇか?
まあなんにせよ、相手はやる気になってくれた様だ。
これで思う存分戦う事が出来る。
「お待ちください。生徒と決闘などすれば、問題を起こさないという約束を破ってしまう事に」
「彼女なら分かってくれる!」
隣の女性が止めようとするが、アポロンは何の根拠もない言葉を言い切った。
もちろんそんな訳はない。
荒木が俺をけしかけたのは、その約束を破らせるために他ならないのだから。
残念ながら、あんたは荒木の顔を拝むことなく国に帰る事になる。
俺の手によってな。
「武舞台に上がりな。お前のその間違いをへし折ってやる」
「ふん。ハニーに勝ったというのも、どうせ卑怯な手を使ったのだろう。彼女に代わって俺が指導してやる」
さて、懲罰三日分の元を取らせて貰うとしようか。
「用務員を務めている男を、叩きのめしてください」
「何かの冗談か?」
氷部とエヴァの勝負。
その審判を頼まれた際に、ついでと言わんばかりの淡々とした口調で、茨城からとんでもない事を俺は頼まれた。
学園で働く人物をボコボコにしろとか、とてもではないが生徒会副会長を務める人間の言葉とは思えないのだが。
「あれは真央様のストーカーです。迷惑をしているので、排除してください」
「それ、俺に頼む事か?迷惑だってんなら、荒木自身にやらせろよ」
排除とかまるで暗殺依頼だ。
まあ殺せではなく叩きのめせだから、命まで奪えと言ってるわけではないんだろうが……
「アポロンと戦いたくはないのですか?」
「む……」
茨城から的確な切り返しが戻ってくる。
戦いたいか戦いたくないかで言うなら――――もちろん死ぬほど戦いたい。
荒木程ではないにしろ、あの強さは相当なものだ。
戦いたくないわけがない。
だが俺だって、最低限の常識はわきまえているつもりだ。
生徒ではなく用務員。
しかもそれは臨時で、本当の身分はギリシアの偉いさんとなれば、流石の俺も喧嘩を吹っ掛けるのは躊躇われる。
後々面倒な事になるのは目に見えているからな。
「3日です」
「ん?」
何が3日なんだ?
「罰は反省室3日で済ませます。それ以外のごたごたも真央様の名において、責任を持って対処する事をお約束しましょう」
茨城が荒木の名を使って宣言している以上、単独の判断ではなく、正式に荒木からの依頼と考えていいだろう。
彼女が勝手に名前を使うとは思えないからな。
真央グループが責任持ってけつを持ってくれるんなら、後々のごたごたは気にしなく済む……か。
だが彼女の言葉に、一つだけ気になる所があった。
「すまん、確認させてくれ。3日ってのは、俺が反省室に入るのか?」
「暴れた本人をお咎めなしにはできませんので。ですが安心してください。3日で済ませますから」
自信満々気に茨城は答える。
あまりにもふざけた、正気を疑う言葉だ。
何で頼みごとを聞いた俺が、反省室に入れられにゃならんのだ?
割に合わないにも程がある。
それで受ける奴がいるのなら、顔を見てみたいものだ。
「わかった。ちゃんと後処理はしろよ」
ええ、実は毎日鏡で見てます。
冷静に考えて、たった3日反省室に入るだけであれと戦えるのなら、こんな魅力的な提案はない。
ここは荒木の奴に恩を売る意味も込めて、がっつり引き受ける事にする。
「では、お願いします」
「任せろ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おらぁ!」
「むん!」
アポロンの顔面に容赦なく回し蹴りを叩き込む。
だが奴はそれを、片手で容易く受け止めて見せた。
――そうでなくっちゃ。
正面から走ってきて攻撃しているのだ。
それに反応できない様なボンクラなら、戦う価値などないからな。
「何のつもりだ?」
「あんた、荒木真央のストーカーなんだってな?」
「戯言を」
アポロンはその言葉を鼻で笑うが、横にいた女性はストーカーという俺の言葉に反応を見せた。
本人には全く自覚がない様だが、どうやらストーカーというのは本当の事らしい。
まあ今更それが嘘か誠かなんて俺にはどうでもいい事ではあるのだが、一応確認だけはしておいた。
「いたいけな少女(?)を付け回す悪漢を、学園のキングとしては見逃すわけにはいかないんでな。成敗させてもらう」
うむ、我ながら見事な口上だ。
荒木に頼まれたと言っても良かったのだが、万一その事でアポロンが強いショックを受け、戦闘に影響が出てしまってはあれだからな。
そこは伏せておく。
「なるほど……貴様が裸王か。だが聞き捨てならんな。荒木真央を苦しめる悪漢は、貴様であろうが!」
――なんでやねん。
何をどうしたら俺が悪漢になる?
いやまあ、今嬉々として喧嘩を吹っ掛けてるのは確かにアレではあるが……
後、真面目なシチュエーションでその2つ名を出されるとなんだかモヤっとする。
「そちらの方からやってくるとはな。丁度いい。貴様を叩き潰し、彼女の安寧をこの手で掴み取ってくれる。彼女の将来の夫である、このアポロンがな!」
あんな子供相手に将来の夫とか、頭おかしいんじゃねぇか?
まあなんにせよ、相手はやる気になってくれた様だ。
これで思う存分戦う事が出来る。
「お待ちください。生徒と決闘などすれば、問題を起こさないという約束を破ってしまう事に」
「彼女なら分かってくれる!」
隣の女性が止めようとするが、アポロンは何の根拠もない言葉を言い切った。
もちろんそんな訳はない。
荒木が俺をけしかけたのは、その約束を破らせるために他ならないのだから。
残念ながら、あんたは荒木の顔を拝むことなく国に帰る事になる。
俺の手によってな。
「武舞台に上がりな。お前のその間違いをへし折ってやる」
「ふん。ハニーに勝ったというのも、どうせ卑怯な手を使ったのだろう。彼女に代わって俺が指導してやる」
さて、懲罰三日分の元を取らせて貰うとしようか。
0
あなたにおすすめの小説
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる