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留学生
第65話 鞭
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「はぁ!」
間断なく攻撃する。
たまに反撃しては来るが、基本アポロンは防戦一方だ。
殴る。蹴る。
投げ技や体当たりも加え、流れる様に奴へと攻撃し続けた。
だがどれも致命打には程遠い。
「今のにも耐えるのかよ」
全力の100連撃を受けてなお、奴は平然と立ちあがってくる。
守りに傾倒しているアポロンの回復力を上回るダメージを与えるのは、今のままでは難しそうだ。
「言っただろう。我が愛は不滅だと」
「不滅ねぇ」
簡単に倒す方法ならある。
此方からは無理に攻撃を仕掛けず、時間を稼げばいいだけだ。
何せ俺の連打すら回復しきる程のギフトだからな、維持には相当な量のプラーナが必要となっているはず。
恐らくそう長くは維持出来ないだろう。
――だが、それではつまらない。
相手のご自慢の耐久力をぶち抜いて勝つから、面白いんだ。
持久戦を否定するわけではないが、せっかくなんだから気持ちいい勝利を目指すとしよう。
「まあいい。じゃあこっちも能力を使わせてもらうぜ」
俺は自分のギフトを発動させる。
髪が地面につくが長さが足りないので、気にせず伸ばし続けた。
俺の足元で髪がうねうねしている光景は、若干気持ち悪いが気にしない。
「こんなもんか」
必要な長さになった所で、襟足の辺りから手刀でバッサリと髪を切った。
そして落下していく切り口を俺は右手で掴む。
「何のつもりだ?」
俺の行動を見て、アポロンが訝し気な眼差しを俺に向ける。
まあ能力を使うと言って、髪を伸ばして切っただけだからな。
その反応も仕方がない。
だが、本番はここからだ。
「こうするのさ」
俺は握った髪の束にプラーナを送り、ギフトでコントロールする。
髪はぐるぐると螺旋状に捻じれ、やがて一本の紐――鞭に生まれ変わった。
「鞭か……」
「ああ、武器を使わてもらう。俺のギフトで生み出した武器だ。文句はないよな?」
「ふん。鞭を持った程度で、わが愛を崩せると思ったら大違いだ」
程度ねぇ……
人間は武器を使う。
何故か?
それは極めてシンプルな理由だった。
その方が強いからだ。
そしてそれは当然俺にも当てはまる。
レベルアップで能力が上がろうが、プラーナで肉体を強化しようが、それでも武器を使った方が強い。
もちろんそれ相応の武器を持てば、の話ではあるが。
「どうやら、鞭の恐ろしさを知らないみたいだな」
理想で言うのなら、大剣が良かった。
それが一番扱い慣れているからな。
だが俺のプラーナでは、髪で剣を象っても、その硬度は精々鉄レベルがいい所だった。
その程度の硬さでアポロンを殴ったら、間違いなくへし折れてしまうだろう。
だから鞭にしたのだ。
それほど高い硬度を必要とせず。
かつ、相手に大ダメージを与える事の出来る武器。
それが鞭だ。
「試しに一発いくぜ。受けてみな」
鞭の中ほどを握った左手を頭上に掲げ、右手で鞭の根元を握って程よく溜めを作る。
そして勢いよく右手を振りぬいた。
「――っ!?」
超高速の一撃。
アポロンはそれを咄嗟に手でガードするが、しなった鞭の生み出す衝撃を受け止めきれず「パーン!!!」という乾いた音と共に豪快に吹き飛んだ。
「ぐ……」
奴のガードした手の皮は弾け飛び、筋繊維がむき出しになって血が溢れ出している。
鞭を振るうのは結構久しぶりなのだが、問題なく行けそうだ。
「どうだ?鞭の威力は分かってくれたか?」
威力だけなら大剣以上といっていいだろう。
接近されると使い物にならなかったり、広い場所じゃないと扱い辛い武器ではあるが、やはりその破壊力はピカ一だ。
「さて。鞭の恐ろしさが分かって貰えた所で、次からは本番だ」
再び鞭を構える。
それを見てアポロンが突っ込んで来た。
妨害する気なのだろう。
が――俺の方が早い!
放った一撃がアポロンを捕らえる。
今度は吹き飛びこそしなかった物の、堪えた分衝撃が逃げないので、ダメージは上がっていると言っていいだろう。
受けた部分の皮がはじけ、血しぶきが飛ぶ。
「この程度!」
そのダメージは、サンクチュアリによって瞬く間に回復されていく。
「誰も一発なんて言ってないぜ!」
だが完全に回復されるよりも早く、俺はもう一撃を加える。
いや、一撃だけではない。
連続で鞭を振るい、容赦なくアポロンの体に強打を振るい続けた。
「やっぱ大したもんだ!けど!どこまで持つかな!」
アポロンは鞭を受けながらも、果敢に前に出てくる。
少しでも間合いを詰めるつもりなのだろう。
だがそれを許す程俺も甘くはない。
相手が近づいた分だけ、鞭を振るいながら俺も素早く後ろに下がる。
当然武舞台上から落ちる様な間抜けな動きはしない。
まあ別に正式な試合じゃないので、場外に出ても問題はないのだが。
これは気分の問題だ。
この円形の舞台の上で、奴を仕留めさせて貰う。
「ぬううぅぅぅぅ!」
タックルしてきたアポロンをひらりと躱し、その肩口に鞭を叩き込む。
乾いた音と共に皮ごと肉が弾け飛ぶ。
無理な攻撃をしてきたという事は、奴自身が焦っている証拠だ。
実際、明らかにダメージの回復は間に合っていない。
「くそっ!」
奴は鞭を掴んで止めようとするが、鞭は直前で軌道を歪めて奴の腕を打つ。
これはただの鞭じゃない。
俺のギフトによって生み出した鞭だ。
そのため、振るってからでも多少なら軌道を変える事が出来るのだ。
「ぐううぅぅぅ」
「おらぁ!」
ついに堪えきれなくなったのか、俺の鞭を受けてアポロンが吹き飛んだ。
同時に、周囲に展開されていた力。
愛の聖域が解除されたのが分かる。
勝負あったか?
いや違う。
奴の肉体から感じるプラーナに大きな衰えはない。
維持できなくなったのではなく、自らの意思で解除したのだろう。
という事は吹き飛んだのもワザとで、俺から距離を取る為と考えるべきか。
奴の狙いが分からない。
だが敢えて飛び込ませてもらう。
「はぁ!」
俺はアポロンへと突っ込みながら、手にした鞭を振るう。
間断なく攻撃する。
たまに反撃しては来るが、基本アポロンは防戦一方だ。
殴る。蹴る。
投げ技や体当たりも加え、流れる様に奴へと攻撃し続けた。
だがどれも致命打には程遠い。
「今のにも耐えるのかよ」
全力の100連撃を受けてなお、奴は平然と立ちあがってくる。
守りに傾倒しているアポロンの回復力を上回るダメージを与えるのは、今のままでは難しそうだ。
「言っただろう。我が愛は不滅だと」
「不滅ねぇ」
簡単に倒す方法ならある。
此方からは無理に攻撃を仕掛けず、時間を稼げばいいだけだ。
何せ俺の連打すら回復しきる程のギフトだからな、維持には相当な量のプラーナが必要となっているはず。
恐らくそう長くは維持出来ないだろう。
――だが、それではつまらない。
相手のご自慢の耐久力をぶち抜いて勝つから、面白いんだ。
持久戦を否定するわけではないが、せっかくなんだから気持ちいい勝利を目指すとしよう。
「まあいい。じゃあこっちも能力を使わせてもらうぜ」
俺は自分のギフトを発動させる。
髪が地面につくが長さが足りないので、気にせず伸ばし続けた。
俺の足元で髪がうねうねしている光景は、若干気持ち悪いが気にしない。
「こんなもんか」
必要な長さになった所で、襟足の辺りから手刀でバッサリと髪を切った。
そして落下していく切り口を俺は右手で掴む。
「何のつもりだ?」
俺の行動を見て、アポロンが訝し気な眼差しを俺に向ける。
まあ能力を使うと言って、髪を伸ばして切っただけだからな。
その反応も仕方がない。
だが、本番はここからだ。
「こうするのさ」
俺は握った髪の束にプラーナを送り、ギフトでコントロールする。
髪はぐるぐると螺旋状に捻じれ、やがて一本の紐――鞭に生まれ変わった。
「鞭か……」
「ああ、武器を使わてもらう。俺のギフトで生み出した武器だ。文句はないよな?」
「ふん。鞭を持った程度で、わが愛を崩せると思ったら大違いだ」
程度ねぇ……
人間は武器を使う。
何故か?
それは極めてシンプルな理由だった。
その方が強いからだ。
そしてそれは当然俺にも当てはまる。
レベルアップで能力が上がろうが、プラーナで肉体を強化しようが、それでも武器を使った方が強い。
もちろんそれ相応の武器を持てば、の話ではあるが。
「どうやら、鞭の恐ろしさを知らないみたいだな」
理想で言うのなら、大剣が良かった。
それが一番扱い慣れているからな。
だが俺のプラーナでは、髪で剣を象っても、その硬度は精々鉄レベルがいい所だった。
その程度の硬さでアポロンを殴ったら、間違いなくへし折れてしまうだろう。
だから鞭にしたのだ。
それほど高い硬度を必要とせず。
かつ、相手に大ダメージを与える事の出来る武器。
それが鞭だ。
「試しに一発いくぜ。受けてみな」
鞭の中ほどを握った左手を頭上に掲げ、右手で鞭の根元を握って程よく溜めを作る。
そして勢いよく右手を振りぬいた。
「――っ!?」
超高速の一撃。
アポロンはそれを咄嗟に手でガードするが、しなった鞭の生み出す衝撃を受け止めきれず「パーン!!!」という乾いた音と共に豪快に吹き飛んだ。
「ぐ……」
奴のガードした手の皮は弾け飛び、筋繊維がむき出しになって血が溢れ出している。
鞭を振るうのは結構久しぶりなのだが、問題なく行けそうだ。
「どうだ?鞭の威力は分かってくれたか?」
威力だけなら大剣以上といっていいだろう。
接近されると使い物にならなかったり、広い場所じゃないと扱い辛い武器ではあるが、やはりその破壊力はピカ一だ。
「さて。鞭の恐ろしさが分かって貰えた所で、次からは本番だ」
再び鞭を構える。
それを見てアポロンが突っ込んで来た。
妨害する気なのだろう。
が――俺の方が早い!
放った一撃がアポロンを捕らえる。
今度は吹き飛びこそしなかった物の、堪えた分衝撃が逃げないので、ダメージは上がっていると言っていいだろう。
受けた部分の皮がはじけ、血しぶきが飛ぶ。
「この程度!」
そのダメージは、サンクチュアリによって瞬く間に回復されていく。
「誰も一発なんて言ってないぜ!」
だが完全に回復されるよりも早く、俺はもう一撃を加える。
いや、一撃だけではない。
連続で鞭を振るい、容赦なくアポロンの体に強打を振るい続けた。
「やっぱ大したもんだ!けど!どこまで持つかな!」
アポロンは鞭を受けながらも、果敢に前に出てくる。
少しでも間合いを詰めるつもりなのだろう。
だがそれを許す程俺も甘くはない。
相手が近づいた分だけ、鞭を振るいながら俺も素早く後ろに下がる。
当然武舞台上から落ちる様な間抜けな動きはしない。
まあ別に正式な試合じゃないので、場外に出ても問題はないのだが。
これは気分の問題だ。
この円形の舞台の上で、奴を仕留めさせて貰う。
「ぬううぅぅぅぅ!」
タックルしてきたアポロンをひらりと躱し、その肩口に鞭を叩き込む。
乾いた音と共に皮ごと肉が弾け飛ぶ。
無理な攻撃をしてきたという事は、奴自身が焦っている証拠だ。
実際、明らかにダメージの回復は間に合っていない。
「くそっ!」
奴は鞭を掴んで止めようとするが、鞭は直前で軌道を歪めて奴の腕を打つ。
これはただの鞭じゃない。
俺のギフトによって生み出した鞭だ。
そのため、振るってからでも多少なら軌道を変える事が出来るのだ。
「ぐううぅぅぅ」
「おらぁ!」
ついに堪えきれなくなったのか、俺の鞭を受けてアポロンが吹き飛んだ。
同時に、周囲に展開されていた力。
愛の聖域が解除されたのが分かる。
勝負あったか?
いや違う。
奴の肉体から感じるプラーナに大きな衰えはない。
維持できなくなったのではなく、自らの意思で解除したのだろう。
という事は吹き飛んだのもワザとで、俺から距離を取る為と考えるべきか。
奴の狙いが分からない。
だが敢えて飛び込ませてもらう。
「はぁ!」
俺はアポロンへと突っ込みながら、手にした鞭を振るう。
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