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第3話 勇者
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「アドル!訓練しよ!!」
アンニュイな日差しの午後。
庭にあるハンモックで昼寝していると、ソアラが護衛の騎士達を引き連れて家にやって来た。
ソアラと出会ってから1年半程経つ。
お互いもう4歳だ。
最初は週2ペースで家に遊びにやって来ては、二人で母の書斎にある本を読みふけっていただけだった。
だが半年もして読む本が無くなり出したころ、ソアラは急に剣術をしようとかとち狂った事を言いだす。
ソアラ曰く。
二人で魔王を倒すために強くなろう、と。
勿論『そんなのは御免だ』と、そうはっきり断ったのだが、ソアラは全く人の話を聞きやしねぇ。
頻繁に護衛の騎士を引き連れて家にやって来ては、無理やり俺に剣術の訓練を強制してきやがる。
相手は勇者の資質を持つ天才だ。
非戦闘員クラスの市民――偽装・ソアラにはお菓子で口封じしている――である俺には、普通に考えればその相手が務まる訳がない。
にも拘らず、両親はそれを止める所か逆に乗り気だった。
仲良くさせれば、将来自分の息子に勇者が嫁いで来るかもしれないとか言って。
どうやらお隣さんに勇者が生まれたのが、二人は内心羨ましかった様だ。
だからあわよくば息子の嫁にとか、全くふざけた話である。
優しかった両親が欲を出して、毒親になってしまって俺はショックだ。
「はぁ……」
大きく溜息を吐いて、ハンモックからゆっくりと降りる。
そんな俺に、ソアラは手にした特別製の木剣を投げ渡して来た。
「じゃあ行くよ!」
矢の様に突っ込んで来たソアラの一撃を、俺は受け取った木剣で受け止める。
受けた手が衝撃で軽く痺れる程に、その一撃は重い。
それはとても4歳児の放つ一撃ではなかった。
実は、彼女のレベルはもう既に20を超えていた。
伝説級である勇者は、1レベルにつき全ステータスが4ずつ上がる。
更にソアラはマスタリー系のスキルを集中して取得しており、スキルによって200%近いボーナスが付いたそのステータスは、現在250近くまで上がっていた。
村の警備にあたっている戦士クラスの駐在さんは、高いステータスで200ちょっと――ソアラの鑑定眼調べ――らしいので、彼女は齢4歳にしてそれを超える身体能力を手に入れている事になる。
これが4歳児の強さだと考えると、勇者の強さの異常さが良く分かるだろう。
流石伝説級である。
まあ流石に国から派遣されている護衛の騎士達は全員得意ステータスが400以上だそうなので、そちらには届かないが。
因みに、1年半前の初対面時の時点で彼女のレベルは既に5まで上がっていた。
生まれた時から持っている鑑定眼で、全ての物を鑑定しまくったためあがったそうだ。
ただ鑑定していただけでそんなにレベルが上がるのか?
そう思うかもしれないが、勇者には鑑定眼の他にも、最初から習得済みのチートスキルがあった。
経験値倍加と言うスキルだ。
その名の示す通り、経験値が二倍になる効果を持ち、劇的な成長速度を誇る勇者の特性を現すスキルとなっている。
更にそれとは別に、取得出来るスキルの中に経験値ブースト――取得経験値に50%ボーナスがつく――があり、ソアラは最初のレベルアップ時に真っ先にこれを習得しているため、この二つの効果が合わさって彼女は通常の3倍の速度で成長していた。
「もうちょっと手加減を頼むよ」
ソアラの二発目を、手にした木剣でいなす様に受ける。
パワーに差があるので、彼女の強烈な攻撃を真面に受け続けたら、直ぐに腕がダメになってしまう。
「あんまり手加減すると練習にならないよ!」
そう言って、彼女は容赦なく剣を突き込んで来た。
……まったく、練習なら自分の家で騎士達とだけすればいいのに。
俺の家に来ない間は、彼女は護衛の騎士達の手ほどきを受けていた。
練習熱心なのは感心だが、俺を巻き込むのは本当にやめてほしい。
「うりゃ!」
「うぉっと!」
ソアラの剣を捌き切れず、手から俺の剣が弾かれてしまった。
これが実戦なら、俺は確実に死んでいた事だろう。
……まあもし実戦だったなら、そもそも戦わず逃げ出してるだろうけど。
「もうアドル!まじめにやってよ!」
真面目にやってはいるんだが……如何せんステータスの暴力が酷すぎる。
現在、俺のレベルは15だ。
案外ソアラと差が無いのは、勇者のスキルである経験値ブースト(50%アップ)を俺も習得している為だった。
それも彼女がまだ取得できないLv2を取得しているので、経験値は常に2倍入っている状態だ。
ん?
何で勇者のスキルを習得できるか?だって。
それは簡単な話である。
俺のクラス、スキルマスターはありとあらゆるクラスのスキルを習得できるクラスだからだ。
そのため、俺は魔法使いや勇者なんかのスキルを好きな様に選んで取得する事が出来た。
まあ勇者の様なクラス自体に付属する、鑑定眼や経験値倍加なんかは手に入らないが。
それと、スキルマスターはスキルツリーを無視してスキルを習得する事が可能だ。
通常、勇者が経験値ブーストのレベル2を取得するには多くの前提スキルを取った後になるのだが、俺ならそれを無視できる。
それでソアラにはまだ取れないスキルを、先に習得する事が出来ているという訳だ。
因みに、スキルツリーとはゲーム用語である。
前提となるスキルを取る事で取得できるスキル群――その上に広がっていくような様が、木の枝の様に見える事からつけられた呼称だ。
「無茶言うなよ」
俺は飛ばされた木剣をゆっくりと拾いあげる。
死ぬ程もたついて可能な限り遅延行為をしたい所だが、それをやると250ある筋力でソアラに蹴り飛ばされてしまう。
困った話だ。
「どんだけステータス差があると思ってんだよ」
「大丈夫!アドルはやればできる子だから!根性だよ!」
そう言うレベルの問題ではないんだが……
世の中、根性でどうにでもなるなら誰も苦労しない。
やれやれと心の中で溜息を吐き、俺は手にした木剣を構えた。
アンニュイな日差しの午後。
庭にあるハンモックで昼寝していると、ソアラが護衛の騎士達を引き連れて家にやって来た。
ソアラと出会ってから1年半程経つ。
お互いもう4歳だ。
最初は週2ペースで家に遊びにやって来ては、二人で母の書斎にある本を読みふけっていただけだった。
だが半年もして読む本が無くなり出したころ、ソアラは急に剣術をしようとかとち狂った事を言いだす。
ソアラ曰く。
二人で魔王を倒すために強くなろう、と。
勿論『そんなのは御免だ』と、そうはっきり断ったのだが、ソアラは全く人の話を聞きやしねぇ。
頻繁に護衛の騎士を引き連れて家にやって来ては、無理やり俺に剣術の訓練を強制してきやがる。
相手は勇者の資質を持つ天才だ。
非戦闘員クラスの市民――偽装・ソアラにはお菓子で口封じしている――である俺には、普通に考えればその相手が務まる訳がない。
にも拘らず、両親はそれを止める所か逆に乗り気だった。
仲良くさせれば、将来自分の息子に勇者が嫁いで来るかもしれないとか言って。
どうやらお隣さんに勇者が生まれたのが、二人は内心羨ましかった様だ。
だからあわよくば息子の嫁にとか、全くふざけた話である。
優しかった両親が欲を出して、毒親になってしまって俺はショックだ。
「はぁ……」
大きく溜息を吐いて、ハンモックからゆっくりと降りる。
そんな俺に、ソアラは手にした特別製の木剣を投げ渡して来た。
「じゃあ行くよ!」
矢の様に突っ込んで来たソアラの一撃を、俺は受け取った木剣で受け止める。
受けた手が衝撃で軽く痺れる程に、その一撃は重い。
それはとても4歳児の放つ一撃ではなかった。
実は、彼女のレベルはもう既に20を超えていた。
伝説級である勇者は、1レベルにつき全ステータスが4ずつ上がる。
更にソアラはマスタリー系のスキルを集中して取得しており、スキルによって200%近いボーナスが付いたそのステータスは、現在250近くまで上がっていた。
村の警備にあたっている戦士クラスの駐在さんは、高いステータスで200ちょっと――ソアラの鑑定眼調べ――らしいので、彼女は齢4歳にしてそれを超える身体能力を手に入れている事になる。
これが4歳児の強さだと考えると、勇者の強さの異常さが良く分かるだろう。
流石伝説級である。
まあ流石に国から派遣されている護衛の騎士達は全員得意ステータスが400以上だそうなので、そちらには届かないが。
因みに、1年半前の初対面時の時点で彼女のレベルは既に5まで上がっていた。
生まれた時から持っている鑑定眼で、全ての物を鑑定しまくったためあがったそうだ。
ただ鑑定していただけでそんなにレベルが上がるのか?
そう思うかもしれないが、勇者には鑑定眼の他にも、最初から習得済みのチートスキルがあった。
経験値倍加と言うスキルだ。
その名の示す通り、経験値が二倍になる効果を持ち、劇的な成長速度を誇る勇者の特性を現すスキルとなっている。
更にそれとは別に、取得出来るスキルの中に経験値ブースト――取得経験値に50%ボーナスがつく――があり、ソアラは最初のレベルアップ時に真っ先にこれを習得しているため、この二つの効果が合わさって彼女は通常の3倍の速度で成長していた。
「もうちょっと手加減を頼むよ」
ソアラの二発目を、手にした木剣でいなす様に受ける。
パワーに差があるので、彼女の強烈な攻撃を真面に受け続けたら、直ぐに腕がダメになってしまう。
「あんまり手加減すると練習にならないよ!」
そう言って、彼女は容赦なく剣を突き込んで来た。
……まったく、練習なら自分の家で騎士達とだけすればいいのに。
俺の家に来ない間は、彼女は護衛の騎士達の手ほどきを受けていた。
練習熱心なのは感心だが、俺を巻き込むのは本当にやめてほしい。
「うりゃ!」
「うぉっと!」
ソアラの剣を捌き切れず、手から俺の剣が弾かれてしまった。
これが実戦なら、俺は確実に死んでいた事だろう。
……まあもし実戦だったなら、そもそも戦わず逃げ出してるだろうけど。
「もうアドル!まじめにやってよ!」
真面目にやってはいるんだが……如何せんステータスの暴力が酷すぎる。
現在、俺のレベルは15だ。
案外ソアラと差が無いのは、勇者のスキルである経験値ブースト(50%アップ)を俺も習得している為だった。
それも彼女がまだ取得できないLv2を取得しているので、経験値は常に2倍入っている状態だ。
ん?
何で勇者のスキルを習得できるか?だって。
それは簡単な話である。
俺のクラス、スキルマスターはありとあらゆるクラスのスキルを習得できるクラスだからだ。
そのため、俺は魔法使いや勇者なんかのスキルを好きな様に選んで取得する事が出来た。
まあ勇者の様なクラス自体に付属する、鑑定眼や経験値倍加なんかは手に入らないが。
それと、スキルマスターはスキルツリーを無視してスキルを習得する事が可能だ。
通常、勇者が経験値ブーストのレベル2を取得するには多くの前提スキルを取った後になるのだが、俺ならそれを無視できる。
それでソアラにはまだ取れないスキルを、先に習得する事が出来ているという訳だ。
因みに、スキルツリーとはゲーム用語である。
前提となるスキルを取る事で取得できるスキル群――その上に広がっていくような様が、木の枝の様に見える事からつけられた呼称だ。
「無茶言うなよ」
俺は飛ばされた木剣をゆっくりと拾いあげる。
死ぬ程もたついて可能な限り遅延行為をしたい所だが、それをやると250ある筋力でソアラに蹴り飛ばされてしまう。
困った話だ。
「どんだけステータス差があると思ってんだよ」
「大丈夫!アドルはやればできる子だから!根性だよ!」
そう言うレベルの問題ではないんだが……
世の中、根性でどうにでもなるなら誰も苦労しない。
やれやれと心の中で溜息を吐き、俺は手にした木剣を構えた。
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