ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~黒

榊与一

文字の大きさ
16 / 68

第16話 卒業

しおりを挟む
「やあ、ベニイモ」

廊下を歩いていると、同期の生徒に声をかけられる。
エブス・ザーン。
高位貴族の子息で、常に取り巻きを連れている嫌な男だ。

「なに?」

「いやなに……辞退するならこれが最後のチャンスだと、忠告しに来てやったまでさ」

エブスの言う辞退と言うのは、主席卒業生にのみ送られる金獅子賞の事だ。

明日、私は騎士学校を卒業する。
主席卒業生として。
貴族である彼は、それが気にいらないのだ。

「御忠告痛みいるわ。でも不要よ。優れた物が、金獅子賞を受けるべきだもの」

「平民風情が!」

私の言葉に、エブスの取り巻きの一人が声を荒げる。
虎の威を借る、相手にする価値もない金魚の糞だ。

「いいのか?ザーン家は騎士団に大きな影響力を持ってる。せっかく賞を貰っても、閑職かんしょくに回す事ぐらい容易い事なんだがな?」

エブスが嫌らしく笑う。
従わないなら騎士としての出世を閉ざすと言ってきたが……正直、それはどうでもいい事だった。

確かに、真面に騎士としてやっていくならザーン家は敵に回すべきではないだろう。
だが、私は――

「くだらんな。俺達は騎士になるつもりはない」

「う……タロイモ……」

エブスが背後からの声に振り返る。
そのすぐ後ろには、ゴツイ体をした兄――タロイモが腕を組んで立っていた。
その厳つい顔と目つきで見下ろされて、エブスが怯む。

「ちょっと、先に言わないでよ」

バシンとエブスの馬鹿に叩きつけてやろうと思っていた言葉を、先に兄に取られてしまった。

「き……騎士にならないだと!?はっ!だったら何故騎士学校に来た!!」

「俺達にはやるべき事があるだけだ」

そう……私達にはやるべき事があった。

ソアラ師匠の訃報。

そしてその知らせを受けたアドル師匠は、その一月後に故郷の村を出ていってしまっている。

きっと、仇を討つつもりなんだと思う。
それも一人で。

「やるべき事だと?」

「私達の大事な人の手助けをする事よ」

それは騎士になる事よりも、ずっと大事な事だった。
アドル師匠を見つけ出し、共にソアラ師匠の仇を取る。
それが今の私達の目標だ。

「言っている意味が分からんな」

「貴方に分かって貰う必要は無いわ」

「ふんっ!生意気な女だ。だが、騎士にならないというのなら金獅子賞はいらないだろう」

「あげないわ」

最初は私もそう考えた。
騎士にならない以上、主席卒業の証などいらないと。

だが兄が言ったのだ、それは私が4年間頑張った証だと。
そしてそれを卑怯な人間に譲渡する事は、ともに切磋琢磨した同期生に対する侮辱にもなる、と。

そう言われ、私は自分を恥じた。

師匠達の事もあって気が逸り、周りが見えていなかったのだ。
それを兄が窘めてくれた事には感謝しかない。

「ぐ……ザーン家の顔に泥を塗る様な真似をして、後悔する事になるぞ」

「しない」

「しないわ」

兄と言葉が被る。
これから師匠と合流し、魔王を倒そうというのだ。
こんな小物の脅しに一々怯んんだりはしない。

「くっ!覚えていろ!」

捨て台詞を吐き捨て、エブスは取り巻き達を連れて去っていく。
覚えていろも何も、明日学校を卒業すればもう二度と顔を合わす事もない。

「明日には卒業ね。ゼッツさんが師匠を見つけてくれてると良いんだけど」

ゼッツさんは、ソアラ師匠の護衛をしていた人だ。
アドル師匠にその最後を伝えたのも、彼である。

――ゼッツさんはソアラ師匠の最後の言葉を伝えた事を、酷く後悔していた。

全てを伝えなければという使命から口にしたが、あの言葉を聞いたアドル師匠がどう感じるかなんて、考えるまでもない事だったと。
その事を気に止んだゼッツさんは、アドル師匠の探索に積極的に協力してくれていた。

正直、私達だけだったらどう探していいのかもわからなかったはず。
国の情報網を扱えるゼッツさんの協力は本当にありがたかった。

「ああ」

騎士になる夢を胸に、ここへとやって来た。
だが私達兄妹は、新たな目的を持ってここから巣立つ。

待っていてください、師匠。
私達も共に戦いますから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...