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第30話 まあないだろう
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しっかりとした大きな店構え。
見るからに高級店なそこの入り口は、透明なガラスが自動で開くタイプとなっていた。
マジックアイテム的な物だと思ってもらえばいいだろう。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件で?」
馬車から降りて俺とジャガリック、それにカッパーとタゴルとアリンの5人で店に入ると、入り口付近にいた店員が声をかけて来た。
因みに、店内は武具などがショーケースに収められており、お洒落な雰囲気で纏められている感じだ。
「実は槍を買い取って頂こうかと思いまして」
店員に応対したのは、俺ではなくジャガリックである。
別に出しゃばって前に出たという訳ではない。
一応俺は領主なので、執事ポジの彼がやり取りをすると――ジャガリックの申しでを受けて――事前に決めてあったからだ。
「槍……でございますか?」
「ええ。黒鋼製の槍です」
「おお!黒鋼製ですとな!」
黒鋼はかなり高価な金属だ。
その槍を売りに来たと聞いて、店員の目の色が変わった。
店内を入り口付近からざっと見た感じ黒鋼製の物はなさそうなので、この辺りでは珍しい物となっているのだろうと思われる。
因みに黒鋼のランクは、王家の騎士達が身に着けている様なレベルだと思って貰っていい。
「こちらが現物になります」
一緒について来たタゴルの手にある黒鋼の槍をジャガリックが受け取り、巻いてあった布を――むき出しだとあれなので――剥がして店員へと見せる。
「ほほう。これはこれは……刃から柄の部分まで全て黒鋼でございますな」
「はい。これと同じ物を20本程、貴店で買い取って頂きたいのです」
ジャガリックはつらつらと話を進めていく。
そしてその言葉の語尾に、例の『じゃが』はない。
ジャガリック曰く、じゃがは幼児言葉で、大精霊になった事で卒業したとの事。
まあ今のイケオジ的なビジュアルで、語尾にじゃがじゃがつけてたら完全に頭おかしい人だから、卒業できてよかったのは疑いようがない。
「立ち話もなんですので、中へどうぞ」
店員が俺達を商談室へと案内してくれる。
ただし、カッパーだけは――
「退屈そうなんでパスします」
――と言って店内に残ってしまっている。
カッパー一人店内に置いて行くのは少し気がかりだったが、まあ流石にカッパーもこんな場所でトラブルを起こす様な馬鹿な真似はしないだろう。
精霊とはいえ、くるくるパーって訳ではないからな。
「品質をチェックさせていただいた所……」
マジックアイテムによる品質チェックが入り、店員が呼んだ担当の人間が価格を提示してくる。
もちろん、俺にはそれが適正かどうかなど分からない。
なにせこの世界では、これまでボンクラ王子として過ごして来た訳だからな。
黒鋼が高級品である事を辛うじて知ってはいても、正確な値段までは把握出来ている訳がない。
それだと、いい様にカモにされるんじゃないか?
そうだな。
最初は少しぐらい足元を見られても仕方がないと割り切っていた。
だがそこに救世主が現れた。
そう、ジャガリックである。
彼は大精霊に進化する際、莫大な量の知識を得たそうだ。
その中には人間社会に関する事もあったらしく、交渉で価格が適正の範囲に収まる様上手く纏めてくれるとの事。
本当に助かる。
因みにカッパーも同じ様に知識は得ているらしい。
全然そうは見えなかったが。
「この品質ですと、お値段は一本30万ゴルダになっております」
「ははは、ご冗談を。確認して分かっているとは思いますが、この槍は柄まで全て黒鋼で出来ています。その価格ですと、原価すら大きく割り込んでしまします。それなら純粋に金属として買取していただいた方がましですな。一本60万ゴルダ。これ以下になる様でしたら、他をあたらせて頂きます」
因みに売る武器を槍に限定したのは、鉈では売れにくいのと、金属の量が槍の方が多かったからである。
高額な金属をより多く使ってる武器の方が、価格が高くなるのは必定だからな。
「むむ……しかしその価格ですと……」
ジャガリックが店員と交渉を続ける。
で、結果――
「わかりました。その価格でお譲りいたしましょう」
――一本55万ゴルダの買取で収まった。
最初店側から提示されたのが30万だった事を考えると、倍近い値段だ。
ほんと、ジャガリックがいてよかった。
彼がいなかったら、この店に死ぬほどボッタクられていた事だろう。
「では、残りの槍もお見せいただけますか」
交渉が終わったので、馬車に乗せてきた残りを取りに行く。
席を立って商談室から出ようとすると――
「おや、何か騒がしいですな。何かあったのでしょうか?」
――外から喧騒が聞こえてきた。
すっごく嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
「……」
扉を開けて外に出ると、俺の目に入ってきたのは店内で仁王立ちするカッパーと。
その周囲に倒れている男達の姿。
倒れている人達の顔は水の玉に覆われている様な感じで、全員呼吸が出来ないのか、その場で苦し気に藻掻いている。
どう見ても、カッパーがやらかしたの図だ。
……何やってんだこの馬鹿は?
見るからに高級店なそこの入り口は、透明なガラスが自動で開くタイプとなっていた。
マジックアイテム的な物だと思ってもらえばいいだろう。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件で?」
馬車から降りて俺とジャガリック、それにカッパーとタゴルとアリンの5人で店に入ると、入り口付近にいた店員が声をかけて来た。
因みに、店内は武具などがショーケースに収められており、お洒落な雰囲気で纏められている感じだ。
「実は槍を買い取って頂こうかと思いまして」
店員に応対したのは、俺ではなくジャガリックである。
別に出しゃばって前に出たという訳ではない。
一応俺は領主なので、執事ポジの彼がやり取りをすると――ジャガリックの申しでを受けて――事前に決めてあったからだ。
「槍……でございますか?」
「ええ。黒鋼製の槍です」
「おお!黒鋼製ですとな!」
黒鋼はかなり高価な金属だ。
その槍を売りに来たと聞いて、店員の目の色が変わった。
店内を入り口付近からざっと見た感じ黒鋼製の物はなさそうなので、この辺りでは珍しい物となっているのだろうと思われる。
因みに黒鋼のランクは、王家の騎士達が身に着けている様なレベルだと思って貰っていい。
「こちらが現物になります」
一緒について来たタゴルの手にある黒鋼の槍をジャガリックが受け取り、巻いてあった布を――むき出しだとあれなので――剥がして店員へと見せる。
「ほほう。これはこれは……刃から柄の部分まで全て黒鋼でございますな」
「はい。これと同じ物を20本程、貴店で買い取って頂きたいのです」
ジャガリックはつらつらと話を進めていく。
そしてその言葉の語尾に、例の『じゃが』はない。
ジャガリック曰く、じゃがは幼児言葉で、大精霊になった事で卒業したとの事。
まあ今のイケオジ的なビジュアルで、語尾にじゃがじゃがつけてたら完全に頭おかしい人だから、卒業できてよかったのは疑いようがない。
「立ち話もなんですので、中へどうぞ」
店員が俺達を商談室へと案内してくれる。
ただし、カッパーだけは――
「退屈そうなんでパスします」
――と言って店内に残ってしまっている。
カッパー一人店内に置いて行くのは少し気がかりだったが、まあ流石にカッパーもこんな場所でトラブルを起こす様な馬鹿な真似はしないだろう。
精霊とはいえ、くるくるパーって訳ではないからな。
「品質をチェックさせていただいた所……」
マジックアイテムによる品質チェックが入り、店員が呼んだ担当の人間が価格を提示してくる。
もちろん、俺にはそれが適正かどうかなど分からない。
なにせこの世界では、これまでボンクラ王子として過ごして来た訳だからな。
黒鋼が高級品である事を辛うじて知ってはいても、正確な値段までは把握出来ている訳がない。
それだと、いい様にカモにされるんじゃないか?
そうだな。
最初は少しぐらい足元を見られても仕方がないと割り切っていた。
だがそこに救世主が現れた。
そう、ジャガリックである。
彼は大精霊に進化する際、莫大な量の知識を得たそうだ。
その中には人間社会に関する事もあったらしく、交渉で価格が適正の範囲に収まる様上手く纏めてくれるとの事。
本当に助かる。
因みにカッパーも同じ様に知識は得ているらしい。
全然そうは見えなかったが。
「この品質ですと、お値段は一本30万ゴルダになっております」
「ははは、ご冗談を。確認して分かっているとは思いますが、この槍は柄まで全て黒鋼で出来ています。その価格ですと、原価すら大きく割り込んでしまします。それなら純粋に金属として買取していただいた方がましですな。一本60万ゴルダ。これ以下になる様でしたら、他をあたらせて頂きます」
因みに売る武器を槍に限定したのは、鉈では売れにくいのと、金属の量が槍の方が多かったからである。
高額な金属をより多く使ってる武器の方が、価格が高くなるのは必定だからな。
「むむ……しかしその価格ですと……」
ジャガリックが店員と交渉を続ける。
で、結果――
「わかりました。その価格でお譲りいたしましょう」
――一本55万ゴルダの買取で収まった。
最初店側から提示されたのが30万だった事を考えると、倍近い値段だ。
ほんと、ジャガリックがいてよかった。
彼がいなかったら、この店に死ぬほどボッタクられていた事だろう。
「では、残りの槍もお見せいただけますか」
交渉が終わったので、馬車に乗せてきた残りを取りに行く。
席を立って商談室から出ようとすると――
「おや、何か騒がしいですな。何かあったのでしょうか?」
――外から喧騒が聞こえてきた。
すっごく嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
「……」
扉を開けて外に出ると、俺の目に入ってきたのは店内で仁王立ちするカッパーと。
その周囲に倒れている男達の姿。
倒れている人達の顔は水の玉に覆われている様な感じで、全員呼吸が出来ないのか、その場で苦し気に藻掻いている。
どう見ても、カッパーがやらかしたの図だ。
……何やってんだこの馬鹿は?
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