素行不良で僻地に追いやられた第4王子、自分が転生者だった事を思い出す~神様から貰ったランクアップで楽々領地経営~

榊与一

文字の大きさ
31 / 158

第30話 まあないだろう

しおりを挟む
しっかりとした大きな店構え。
見るからに高級店なそこの入り口は、透明なガラスが自動で開くタイプとなっていた。
マジックアイテム的な物だと思ってもらえばいいだろう。

「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件で?」

馬車から降りて俺とジャガリック、それにカッパーとタゴルとアリンの5人で店に入ると、入り口付近にいた店員が声をかけて来た。

因みに、店内は武具などがショーケースに収められており、お洒落な雰囲気で纏められている感じだ。

「実は槍を買い取って頂こうかと思いまして」

店員に応対したのは、俺ではなくジャガリックである。
別に出しゃばって前に出たという訳ではない。
一応俺は領主なので、執事ポジの彼がやり取りをすると――ジャガリックの申しでを受けて――事前に決めてあったからだ。

「槍……でございますか?」

「ええ。黒鋼製の槍です」

「おお!黒鋼製ですとな!」

黒鋼はかなり高価な金属だ。
その槍を売りに来たと聞いて、店員の目の色が変わった。
店内を入り口付近からざっと見た感じ黒鋼製の物はなさそうなので、この辺りでは珍しい物となっているのだろうと思われる。

因みに黒鋼のランクは、王家の騎士達が身に着けている様なレベルだと思って貰っていい。

「こちらが現物になります」

一緒について来たタゴルの手にある黒鋼の槍をジャガリックが受け取り、巻いてあった布を――むき出しだとあれなので――剥がして店員へと見せる。

「ほほう。これはこれは……刃から柄の部分まで全て黒鋼でございますな」

「はい。これと同じ物を20本程、貴店で買い取って頂きたいのです」

ジャガリックはつらつらと話を進めていく。
そしてその言葉の語尾に、例の『じゃが』はない。
ジャガリック曰く、じゃがは幼児言葉で、大精霊になった事で卒業したとの事。

まあ今のイケオジ的なビジュアルで、語尾にじゃがじゃがつけてたら完全に頭おかしい人だから、卒業できてよかったのは疑いようがない。

「立ち話もなんですので、中へどうぞ」

店員が俺達を商談室へと案内してくれる。
ただし、カッパーだけは――

「退屈そうなんでパスします」

――と言って店内に残ってしまっている。

カッパー一人店内に置いて行くのは少し気がかりだったが、まあ流石にカッパーもこんな場所でトラブルを起こす様な馬鹿な真似はしないだろう。
精霊とはいえ、くるくるパーって訳ではないからな。

「品質をチェックさせていただいた所……」

マジックアイテムによる品質チェックが入り、店員が呼んだ担当の人間が価格を提示してくる。
もちろん、俺にはそれが適正かどうかなど分からない。
なにせこの世界では、これまでボンクラ王子として過ごして来た訳だからな。
黒鋼が高級品である事を辛うじて知ってはいても、正確な値段までは把握出来ている訳がない。

それだと、いい様にカモにされるんじゃないか?

そうだな。
最初は少しぐらい足元を見られても仕方がないと割り切っていた。
だがそこに救世主が現れた。
そう、ジャガリックである。

彼は大精霊に進化する際、莫大な量の知識を得たそうだ。
その中には人間社会に関する事もあったらしく、交渉で価格が適正の範囲に収まる様上手く纏めてくれるとの事。
本当に助かる。

因みにカッパーも同じ様に知識は得ているらしい。
全然そうは見えなかったが。

「この品質ですと、お値段は一本30万ゴルダになっております」

「ははは、ご冗談を。確認して分かっているとは思いますが、この槍は柄まで全て黒鋼で出来ています。その価格ですと、原価すら大きく割り込んでしまします。それなら純粋に金属として買取していただいた方がましですな。一本60万ゴルダ。これ以下になる様でしたら、他をあたらせて頂きます」

因みに売る武器を槍に限定したのは、鉈では売れにくいのと、金属の量が槍の方が多かったからである。
高額な金属をより多く使ってる武器の方が、価格が高くなるのは必定だからな。

「むむ……しかしその価格ですと……」

ジャガリックが店員と交渉を続ける。
で、結果――

「わかりました。その価格でお譲りいたしましょう」

――一本55万ゴルダの買取で収まった。

最初店側から提示されたのが30万だった事を考えると、倍近い値段だ。
ほんと、ジャガリックがいてよかった。
彼がいなかったら、この店に死ぬほどボッタクられていた事だろう。

「では、残りの槍もお見せいただけますか」

交渉が終わったので、馬車に乗せてきた残りを取りに行く。
席を立って商談室から出ようとすると――

「おや、何か騒がしいですな。何かあったのでしょうか?」

――外から喧騒が聞こえてきた。

すっごく嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

「……」

扉を開けて外に出ると、俺の目に入ってきたのは店内で仁王立ちするカッパーと。
その周囲に倒れている男達の姿。
倒れている人達の顔は水の玉に覆われている様な感じで、全員呼吸が出来ないのか、その場で苦し気に藻掻いている。

どう見ても、カッパーがやらかしたの図だ。

……何やってんだこの馬鹿は?
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...