素行不良で僻地に追いやられた第4王子、自分が転生者だった事を思い出す~神様から貰ったランクアップで楽々領地経営~

榊与一

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第42話 勘違い

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「驚いたわね。まさかスパム男爵が王家の血筋だなんて」

情報はすぐに集まった。
王家の出来損ないは、有名な存在だったからだ。

「王家は大きな問題を起こした男爵を、完全に追放したって事になってるが……」

「ええ。たぶんフェイクね」

夫の話では、男爵に仕える執事は交渉相手として手ごわい人物だったそうだ。
つまり切れ者。
さらにその護衛も、息子に付けていた腕利きの護衛が手も足も出ず制圧された事から、相当腕が立つ事が分かっている。

もし本当に問題児として放逐されたのなら、そんな人材が傍にいるのは不自然極まりない。
その事から、私達夫婦は男爵の追放は表面上の物だと推測する。

「目的は何なのかしら?」

「さあ、そこまでは分からない。ただ交渉してみて分かった事はある。それはスパム男爵がお金を必要としている事。そして……男爵領を繁栄させたがっているという事だ」

「王家からの支援を受けていたのなら、資金に困る様な事はないはず」

「けど、もしそうなら黒鋼の槍を売りに出したりはしないだろう?」

息子と揉めたのも、彼らが黒鋼の槍を売るための店に立ち寄った事で接触してしまったためだ。
もし資金に余裕があるのなら、武器類を手放す様な真似はしなかったはず。

「カンカンの減刑のための条件も、可能な限り額を引き上げようとしていた節も強いかったし」

「本当に放逐されたわけでもないのに資金難で、領地を繁栄させたがってもいた……はっ!?まさか!?」

私の中で一つの答えが浮かび上がり、思わず大きな声を上げてしまう。

「何か気づいたのかい?」

「ええ。もし私の考えがあっているのなら……これは王位継承に関わる事かもしれないわ」

「な!?」

私の王位継承という言葉に、夫が目を剥く。

ポロロン王国は、長子が王位に就く事が多い。
だが多いだけであって、決して次男や三男が跡を継げない訳ではなかった。

つまり――エドワード・スパム男爵にも、王位を得るチャンスはあるという訳だ。

「しかし彼は問題児で……」

私の突飛な考えに、夫が異議を挟もうとする。

「あなたは直接お会いになったのでしょう?男爵――いえ、エドワード王子は噂通りの方でしたか?」

目につくレベルで酷い人物なら、夫はその事を真っ先に私に話していたはずだ。
だがそんな話はしていない。

つまり――

「言われてみれば……少々態度はあれだったが、接した感じ、そこまで酷い人物には思えなかった」

――エドワード王子の悪い噂は誇張された物という事だ。

「噂ほどひどくない。なら……誰かが意図的に噂を膨らませた。そう考えればしっくりくるはずよ」

「王族の噂に尾ひれを付けるだなんて……そんな真似をしたら、大貴族だってただでは済まないよ。いったい誰がそんな真似をするというんだい」

「そうね。王家を攻撃して敵に回すのは愚か極まりない行為よ。でも、それが王家の人間ならどうかしら?」

外部からの攻撃なら、王家は容赦なく潰しにかかっているはずだ。
だが、王族の手によってならば話が変わって来る。
要は身内には甘いのだ。

そう考えると、尊い王家の血を引く第4王子の悪い噂がこれだけ世間に広がっているのも頷けるという物。

「まあ、そうれはそうだけど……じゃあ一体どなたがそんな真似を?」

「もちろん、エドワード王子の兄王子の方々よ」

「何のために?」

「もし……国王陛下がエドワード王子に跡を継がせたがっていたとしたら?」

「——っ!?」

私の言葉に、夫がはっと息を飲んだ。
どうやら私の出した仮定の全容に辿り着いた様だ。

「その過程があっていたなら、確かに筋は通るね。ほかの王子にとって……特にもっとも王位に近い第一王子にとって、エドワード王子は目の上のコブ以外何物でもない。だからその評判を下げる為に噂を流した。自らが王位継承レースに優位に立つために」

「とは言え、多少問題児だったというのは事実だったはずよ」

火のない所に煙は立たない。
品行方正で全く非の打ち所のない優秀な人物だったなら、噂を成立させること自体難しかったはずだ。

「そして噂のせいで玉座から遠ざかった王子に、逆転劇を演じさせるために国王は敢えて除籍した」

「私はそう睨んでいるわ」

現スパム男爵領は死の森が大半を占める、長年放棄されて来たに等しい貧しい領地だ。
そこを発展させて実力を示す事が出来れば、王家に返り咲き、その功績をもって王位継承争いでアドバンテージを取る事が出来るはず。

「なにも生み出さなかった王家の土地を、豊かな環境に変える。まあ確かに、それは功績としては大きいだろうね。けど、少し無理があるんじゃないかい?そう簡単にいく様な場所なら、とっくの昔に王家が何とかしているはずだよ」

それはもっともな意見だ。

資金を集めている事からも、王家からのサポートが最低限である事は疑い様がない。
そしてそれは同時に、エドワード王子に手を貸している貴族パトロンがいない事も表している。

まあそれは当然の事でしょうけど……

仮に上手くいっても、王家が手厚く支援したり、貴族からの多大な支援ありきでは評価が低くなってしまう。
なので、逆転するだけの成果を得るには、支援のほとんどない状態からその手腕を振るう必要があるのだ。

正直、そんな状態であの領地を繁栄させるのはかなり厳しい。

しかも時間という制限まである。
発展させる事に成功しても、そこに三十年も四十年もかかってしまったのでは。その間に誰かに継承されてしまう可能性が高いためだ。

「きっと何かがあるはずよ」

私の仮定が正しければ、きっと逆転の為の秘策が用意されているはずだ。
もしそこに可能性がないのなら、他の手段をとっているはずだから。

「ふむ……しかしあの領地にあるのは死の森ぐらいだよ?」

領地の大半以上は死の森であり、残りもただの痩せた土地で鉱物などの地下資源もない。
確かにあそこにあるのは死の森ぐらいである。

だが、私は発想を逆転させる。

「なら、その死の森こそが肝なんだわ」

――死の森についての情報を、私は頭の中から引き出す。

「死の森には、確か精霊神の逸話があったわよね?」

精霊とは、かつては人に大きな恩恵を齎してくれていたと言われている存在だ。
だが今やその姿を全く見る事は出来ず、一説では、全滅してしまったのではないかさえ言われていた。

そして精霊神とは、精霊を生み出した神だと言われている存在である。

「ああ、確か……1000年程前に邪霊神と相打ちになって眠りについた場所が、死の森になったってあの昔話かい」

精霊の神が眠りについた場所が魔物だらけになる。
一見不自然に思える話ではあるが、その地で魔物の神である邪霊神が死んだ事で大地が汚染されそうなった。
そう考えれば、話としての不自然さはない。

「ええ、その言い伝えが本当で……王家が精霊神についての情報を持っているなら……」

神を復活させる。
とまでは行かなくても、眠っている精霊神から何らかの恩寵を賜る術があったなら、逆転の芽は十分すぎる程と言えるだろう。

「流石にそれは飛躍しすぎじゃないかい?」

「そうね。でも、国王陛下がエドワード様の為に動いていたのなら、賭けてみる価値はあると思わない?」

精霊神からの恩寵云々は、少々夢物語寄りと言われれば私も頷くしかない。
だが、何かあるのは間違いない。

「勝った際の見返りは確かに大きいかもね」

もし賭けに勝てば、オルブス商会は次期国王の功臣とすらなりえるのだ。
そこから得られる利益は、今のままの私達が一生をかけても在られない物となるだろう。
ひょっとしたら、貴族の位すら賜る事が出来るかもしれない。

「ふむ…………まあそうだな。君の言う通り賭けてみるか」

夫が少し考えこんでから、私の勧めに同意する。

「けど……私達が大きく支援してしまったら、エドワード王子の評価にケチがつかないかい?」

「それなら大丈夫よ。平民である私達がお金を出す分には、王族として平民を誘導コントロールしたと逆に評価されるはずよ」

貴族を頼れば、貴族に借りが出来てしまう事になる。
それを王家は嫌い、どうしても評価は低くなってしまう。

だが、平民からの支援は別だ。

王族や貴族は、民草を自分達のために存在していると考えていた。
なのでそれを上手く利用する事は、優秀な統治者としての資質を示す要素であって、決してマイナス評価には繋がらない。

「そうか。それじゃあ早速、男爵家に資金提供の打診を……いや、それではだめだな」

「ええ、資金を直接渡すのは出来るだけ控えましょう。ただお金のやり取りだけをするよりも、領地発展の計画に私達が直接噛んだ方が密な関係を築きやすい筈よ」

せっかく出資するのだ。
利益は最大限に誘導しなければ。

「何か案はあるかい?」

「そうね……町を作ってみるのはどうかしら?ギルドを招致して、冒険者達がこぞって集まる街を」

冒険者は魔物を狩る事を生業にする者達の総称だ。

彼らは魔物から錬金術や薬の素材となる部位をはぎ取り、それを売る事で生計を立てている。
そして死の森は魔物の宝庫だ。
王家が管理している間は立ち入りを禁止されていた場所だが、開放して町を作れば多くの人が集まる事だろう。

「なるほど。領地の発展。それに……死の森の魔物の間引きも出来て一石二鳥って訳だね」

「ええ」

死の森に眠る精霊神に接触すのなら、中の魔物は必ず障害となる。
だが冒険者達が魔物を狩れば、それを間引いて内部での行動の安全性を高める事が出来た。

仮に精霊神との接触が考え違いだったとしても、冒険者の街を作る事は人集め。
ひいては領地の発展につながる事になるので、それだけでも十分意味があるだろう。

「分かった。そっちの方向で進めていくとしよう。とは言え勝手に進める訳にも行かないから、一度ちゃんとお伺いする必要があるね」

「それでしたら、私が行きます」

一度自分の目で、エドワード王子を見ておきたかった。

「わかった、頼むよ」

「ええ、お任せください」

その後、私と夫は今後の計画を練った。
その過程で、村に出す店を白紙に戻し、息子にはより厳しい環境で更生を促す事を決める。

商会と、あの子の未来のために。

「では行ってまいります」

全ての用意を終えた私は、家畜の納入に合わせる形で男爵領へと向かう。

「ふふ……どうしようもない子だと思ってたけど、まさかこんな幸運を運んでくれるなんて。流石私の子だわ」

馬車に揺られながら、私を外の景色を眺めながらつぶやく。

カンカンがやらかしたと聞いたときは生きた心地がしなかったが、そのお陰でエドワード王子と繋がりを持てたのだ。
まさに災い転じて福となすである。

まあ、まだ福を掴めると決まった訳ではないが……

息子の事もあるので、それを挽回しつつ、いかに王子の覚えを良くするか。
そして、王子が王位につけるか。
とくに後者は此方の力だけでは何ともできないん部分も多いだろうから、大きな賭けになる。

だが私には予感があった。
上手くいく予感が。

この時の私は、王子が本当にどうしようもない人間で、隣国の王女様が怪我を負わされた結果追放された事など――対外的には伏せられていたため――知る由もなかった。

なので、私の想定は全てただの勘違い。
だが、後にこの勘違いに私は心から感謝する事になる。

――何故なら、オルブス商会はやがて国一どころか、そんな物とは比べ物にならないほどの栄光を掴む事になるのだから。
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