59 / 158
第58話 風呂
しおりを挟む
「大衆浴場は好評みたいだな」
「ええ。一日の疲れが吹き飛ぶと、みな毎日の様にやってきております。かくいう私もですが」
村の中央に無駄に広いスペースがあったので、俺はそこに大浴場を建てた。
ペカリーヌ王女から貰った物の中に、大型の給湯器の様なマジックアイテムがあったからだ。
この世界にも、熱い風呂に入る文化はあった。
ただしそれは基本的に、大都市などに暮らす比較的余裕のある者達以上のみだ。
当然、貧しさの最先端を走ってたこの村にそんな習慣はない。
だから最初村人達も、領主が村によく分からない施設を作った的な反応だったが、物珍しさから始まり、たった数日で風呂は大好評の施設となっていた。
「それにここは涼しいですからなぁ」
風呂には、大きな休憩所を併設しておいた。
そこは冷暖房完備の空間だ。
もちろんその機能も、ペカリーヌ王女から貰ったマジックアイテムを使用しての物である。
因みに、これらは本来屋敷用に持って来てくれた物な訳だが、屋敷はカッパーが冷めずに、しかも汚れない清浄効果のあるお湯を風呂場に張ってくれているので給湯器は不要だった。
また、精霊達三人の張ってくれている結界の効果で、屋敷の敷地内は快適そのものな温度になっているので、冷暖房機能のあるマジックアイテムも不要となっている。
だから、この村に施設を作ったという訳だ。
ああそれと、贈り物には結界を張るマジックアイテムも入っていたんだが、これも当然不要品となっている。
なにせ、屋敷には既に特大精霊三人による強力な結界が張ってある訳だからな。
だが腐らせるのももったいないので、とりあえず村の周囲に結界を張るのに使おうかなと、俺は考えていた。
実は既に村の周囲にはジャガリックが石質の外壁を作ってあるので、いるかどうかは結構微妙な所ではあるんだが……ま、あって損がある訳でもないからいいだろうの精神でいく。
「このような快適な暮らし、ほんの少し前までは考える事も出来ませんでした。すべては男爵様のお陰です。なんとお礼を申し上げてよい事か」
村長が深々と腰を折ってお礼してくる。
「そんなたいした事はしてないから、気にしなくていいさ」
普通に食事出来て、風呂に入って冷房で涼む。
そんな普通を、俺は提供しただけ。
そう、俺はそんなたいそうな事をしている訳ではないのだ。
本来一市民として生まれて来たなら得られていたであろう彼らの権利。
その奪われていたものを提供しているだけに過ぎない。
「何をおっしゃりますか。わしらにとって、男爵様がこの地の領主になっていただけた事は本当に幸いでした。ワシや村の人間にできる事があれば何でも言ってくだされ。受けたご恩を少しでも返すべく、みな喜んで働きましょうぞ」
「気持ちだけ貰っておくよ」
別に何かしたい事があるわけでもなし。
彼らには平穏無事に生きて貰えればそれで充分である。
強いて言うなら、信頼度のためにタゴルには俺にもっと感謝して欲しいって事ぐらいだが……
「なんです?」
ちらりと視線をやると、タゴルがしかめっ面で聞いてくる。
「いや、なんでもない」
浴場とか外壁を作った事で信頼度は30%ぐらいまで上がってるんだけど、こいつ直ぐ下げてきやがるからな。
100%になるのはいつになる事やら。
「そういや、カンカンを鍛えてやってるんだって?」
タゴルは俺の護衛ではあるが、業務時間は基本九時五時となっていた。
超ホワイト。
屋敷には結界があって、護衛は基本いらないからこその勤務時間である。
で、仕事が終わってタゴルは即村に帰ってる訳だが、どうも最近カンカンを痛めつけ――鍛えてやっているという話を耳にする。
「ええ。本人が強くなりたいと言っているので。言っておきますけど、気にいらないから痛めつけてるわけじゃないですよ。そもそも本人の希望で相手しているだけですから」
俺の考えを読んでか、タゴルが私的な理由で痛めつけたりはしていないと返してくる。
まあ強制してないってのは本当だろうけど、私的な理由で痛めつけてないって話は正直胡散臭くはある。
彼がアリンに惚れてるってのは、傍から見たら一目瞭然だからな。
「ほどほどにしといてくれよ。オルブス商会から預かってる相手だからな。心に変な傷抱えてもあれだし」
毎日の様にごついタゴルに虐められるとか、変なトラウマ抱えてしまっても困るからな。
カンカンが残念な感じになってしまったら、多額の融資をしてくれているオルブス夫妻に合わせる顔がなくなってしまう。
「お言葉ですけど……男ってのは傷を乗り越えて強くなる物です。それが問題だってんなら、あいつ自身に訓練を辞める様にいうべきでしょう」
タゴルに、気遣いゼロの正論で返された。
まあ確かに、余計なダメージを負わせたくないなら、訓練自体辞めさせるのが一番である。
だがそれを、すると彼のやる気をそぐ事になってしまいかねない。
折角やる気があるのに、水を差すのは好ましくないんだよなぁ……
『我が神よ。ご安心を。本当に問題が出そうなら、このナタンめがタゴルを止めますので』
「ありがとう。頼むよナタン」
少々心配ではあるが、まあここは信頼度100%のナタンを信じるとしよう。
「ええ。一日の疲れが吹き飛ぶと、みな毎日の様にやってきております。かくいう私もですが」
村の中央に無駄に広いスペースがあったので、俺はそこに大浴場を建てた。
ペカリーヌ王女から貰った物の中に、大型の給湯器の様なマジックアイテムがあったからだ。
この世界にも、熱い風呂に入る文化はあった。
ただしそれは基本的に、大都市などに暮らす比較的余裕のある者達以上のみだ。
当然、貧しさの最先端を走ってたこの村にそんな習慣はない。
だから最初村人達も、領主が村によく分からない施設を作った的な反応だったが、物珍しさから始まり、たった数日で風呂は大好評の施設となっていた。
「それにここは涼しいですからなぁ」
風呂には、大きな休憩所を併設しておいた。
そこは冷暖房完備の空間だ。
もちろんその機能も、ペカリーヌ王女から貰ったマジックアイテムを使用しての物である。
因みに、これらは本来屋敷用に持って来てくれた物な訳だが、屋敷はカッパーが冷めずに、しかも汚れない清浄効果のあるお湯を風呂場に張ってくれているので給湯器は不要だった。
また、精霊達三人の張ってくれている結界の効果で、屋敷の敷地内は快適そのものな温度になっているので、冷暖房機能のあるマジックアイテムも不要となっている。
だから、この村に施設を作ったという訳だ。
ああそれと、贈り物には結界を張るマジックアイテムも入っていたんだが、これも当然不要品となっている。
なにせ、屋敷には既に特大精霊三人による強力な結界が張ってある訳だからな。
だが腐らせるのももったいないので、とりあえず村の周囲に結界を張るのに使おうかなと、俺は考えていた。
実は既に村の周囲にはジャガリックが石質の外壁を作ってあるので、いるかどうかは結構微妙な所ではあるんだが……ま、あって損がある訳でもないからいいだろうの精神でいく。
「このような快適な暮らし、ほんの少し前までは考える事も出来ませんでした。すべては男爵様のお陰です。なんとお礼を申し上げてよい事か」
村長が深々と腰を折ってお礼してくる。
「そんなたいした事はしてないから、気にしなくていいさ」
普通に食事出来て、風呂に入って冷房で涼む。
そんな普通を、俺は提供しただけ。
そう、俺はそんなたいそうな事をしている訳ではないのだ。
本来一市民として生まれて来たなら得られていたであろう彼らの権利。
その奪われていたものを提供しているだけに過ぎない。
「何をおっしゃりますか。わしらにとって、男爵様がこの地の領主になっていただけた事は本当に幸いでした。ワシや村の人間にできる事があれば何でも言ってくだされ。受けたご恩を少しでも返すべく、みな喜んで働きましょうぞ」
「気持ちだけ貰っておくよ」
別に何かしたい事があるわけでもなし。
彼らには平穏無事に生きて貰えればそれで充分である。
強いて言うなら、信頼度のためにタゴルには俺にもっと感謝して欲しいって事ぐらいだが……
「なんです?」
ちらりと視線をやると、タゴルがしかめっ面で聞いてくる。
「いや、なんでもない」
浴場とか外壁を作った事で信頼度は30%ぐらいまで上がってるんだけど、こいつ直ぐ下げてきやがるからな。
100%になるのはいつになる事やら。
「そういや、カンカンを鍛えてやってるんだって?」
タゴルは俺の護衛ではあるが、業務時間は基本九時五時となっていた。
超ホワイト。
屋敷には結界があって、護衛は基本いらないからこその勤務時間である。
で、仕事が終わってタゴルは即村に帰ってる訳だが、どうも最近カンカンを痛めつけ――鍛えてやっているという話を耳にする。
「ええ。本人が強くなりたいと言っているので。言っておきますけど、気にいらないから痛めつけてるわけじゃないですよ。そもそも本人の希望で相手しているだけですから」
俺の考えを読んでか、タゴルが私的な理由で痛めつけたりはしていないと返してくる。
まあ強制してないってのは本当だろうけど、私的な理由で痛めつけてないって話は正直胡散臭くはある。
彼がアリンに惚れてるってのは、傍から見たら一目瞭然だからな。
「ほどほどにしといてくれよ。オルブス商会から預かってる相手だからな。心に変な傷抱えてもあれだし」
毎日の様にごついタゴルに虐められるとか、変なトラウマ抱えてしまっても困るからな。
カンカンが残念な感じになってしまったら、多額の融資をしてくれているオルブス夫妻に合わせる顔がなくなってしまう。
「お言葉ですけど……男ってのは傷を乗り越えて強くなる物です。それが問題だってんなら、あいつ自身に訓練を辞める様にいうべきでしょう」
タゴルに、気遣いゼロの正論で返された。
まあ確かに、余計なダメージを負わせたくないなら、訓練自体辞めさせるのが一番である。
だがそれを、すると彼のやる気をそぐ事になってしまいかねない。
折角やる気があるのに、水を差すのは好ましくないんだよなぁ……
『我が神よ。ご安心を。本当に問題が出そうなら、このナタンめがタゴルを止めますので』
「ありがとう。頼むよナタン」
少々心配ではあるが、まあここは信頼度100%のナタンを信じるとしよう。
221
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる