24 / 27
第24話 チェック
しおりを挟む
「救って貰った恩には必ず報いるわ」
「私達の力が必要なら、これで呼んでね」
ローズ姉妹はそう言って、別れ際に俺に小さな木の笛を渡して来た。
これを吹くとどれだけ距離が離れていようとも、彼女達に俺の位置が届くマジックアイテムらしい。
転移魔法の展開には――姉妹で力を合わせれば扱えるそうだ――半日かかるそうなので、即時という訳にはいかないそうだが、吹けば何を置いても俺の元に駆け付けてくれるそうだ。
玉を貰ってるから、気にしなくていいとは言ったんだがな……
それでも必ず恩返しがしたいと、ローズ姉妹に押し付けられてしまった。
ま、有難く貰っておくとしよう。
彼女達の力を借りる様な事態なんて、そうそうないだろうとは思うが。
「10秒で1か月って所か……」
俺はセーヌ達の滞在期間中、カナン邸内にある客館に寝泊まりする事が許されていた。
国に女性達の保護申請をして――呪いはちゃんと解いてある――依頼終了の報告をギルドに澄ました後、俺は用意されたその部屋へと戻って来ている。
そこで早速試してみたのだ。
例の玉――デモンズハートの力を。
10秒で1か月というのは、体から生命力が抜ける感覚から持っていかれる寿命を推測した物だ。
多少の誤差はあるだろうが、そこまで大きな差異はないと思う。
「くくく……俺のスキルを封じて契約を解除するとはな、小賢しい奴だ。だが嫌いじゃないぞ」
相手の意図を無視してオンオフ出来てしまう事に、玉に宿る小さな悪魔――ベシアスは特に不満を持っていない様だった。
これが人間同士の契約なら憤慨ものな訳だが、どうやら悪魔の精神構造は人間とは違う様だ。
「ところで、俺の筋肉は全然膨らまなかったんだが?」
玉に魔力を流し込み、ベシアスと契約をして力を得る。
それで得られる力は、予想通り強力な物だった。
だがローブの男――ガイゼンが力をつかった際はムキムキマッチョな体に変化していたにも関わらず、何故か俺にはそう言った身体的変化が起きなかった。
ついでに言うなら、全身から黒いオーラが吹き出したりもしていない。
「あの男は肉体が虚弱だったからな。筋肉を無理やり発達させなければ我が力を真面に扱えなかったので、一時的に膨らんだだけだ。オーラが駄々洩れだったのも、それを受け止めきるだけの容量が無かったからに過ぎん」
「成程」
俺はジョビジョバ家で英才教育を受けているからな。
ベシアスの力を丸々受け止める下地があった訳だ。
「くくく。貴様のその能力と強さ。そこに我が力が加われば、正に最強の名をほしいままに出来るだろう」
「いや、絶対無理だぞ?」
寿命の事があるから早々使わないと言うのもあるが、仮にそれを無視して力を使っても最強には届かないだろう。
「なんだと?」
「少なくとも……この国最強の剣士であるアグライ兄さんには、この程度じゃ話にならないだろうからな」
強力な力である事は認めるが、アグライ兄さんは疎か、長男であるグンランの方に勝てるかも正直怪しいレベルだ。
「そいつはそんなに強いのか?」
「ああ、別格だ」
異次元レベルのフィジカルを持つ次男のアグライ兄さんは、剣も体術も化け物レベルだった。
それに加え、ユニークスキル【英雄】も出鱈目な効果を持っている。
【英雄】――それは劣勢に陥ると発動するスキルだ。
発動すると全能力が倍加し、更に3分間ありとあらゆるダメージや状態異常――スキルなどの干渉も含む――を完全に無効化する効果があった。
これが発動している状態の兄を一対一で倒せる人間は、この国に――いや、この世界にはいないと断言していい。
「お前がそこまで言うのだ。相当なのだろう。それ程の力の持ち主ならば、是非とも命を頂きたい所だ」
ベシアスが目を細めて嫌らしく笑う。
見た目は小型で丸っこい姿なので油断しそうになるが、その邪悪な笑顔をみると「ああ、こいつは悪魔なんだ」と強く認識させられる。
「アグライ兄さん程強ければ、お前の力に頼る必要なんてない。諦めろ」
そもそも邪悪な力の籠ったマジックアイテムを、兄が使うとは思えない。
俺はもう貴族じゃないから遠慮なく使うけど。
「誰か来た」
部屋に近づいてくる気配を感じ、俺は素早く革袋に玉を押し込んで隠す。
邪悪な力が宿っている物なので、人に見られても良い事はないからな。
「シビックいるか!」
ドアがドンドンと乱暴にノックされ、外から不機嫌そうな声をかけられる。
それは護衛団の副長である、イーグル・ガルダンの声だった。
一体俺になんの用だ?
一瞬、無視してやろうかと考える。
客館に寝泊まりさせて貰っているとは言え、今の俺は勤務外だからな。
礼儀知らずの相手を無理にしてやる必要はない。
……ま、そう言う訳にもいかないか。
イーグルが態々来たという事は、間違いなくペイレス家関係の要件だろうしな。
「いるのは分かってるぞ!早く出ろ!」
更にガンガンと、力強く扉が叩かれる。
「やれやれ」
今にも扉が壊されそうな勢いだ。
俺は首を軽く竦めてから扉を開いた。
「私達の力が必要なら、これで呼んでね」
ローズ姉妹はそう言って、別れ際に俺に小さな木の笛を渡して来た。
これを吹くとどれだけ距離が離れていようとも、彼女達に俺の位置が届くマジックアイテムらしい。
転移魔法の展開には――姉妹で力を合わせれば扱えるそうだ――半日かかるそうなので、即時という訳にはいかないそうだが、吹けば何を置いても俺の元に駆け付けてくれるそうだ。
玉を貰ってるから、気にしなくていいとは言ったんだがな……
それでも必ず恩返しがしたいと、ローズ姉妹に押し付けられてしまった。
ま、有難く貰っておくとしよう。
彼女達の力を借りる様な事態なんて、そうそうないだろうとは思うが。
「10秒で1か月って所か……」
俺はセーヌ達の滞在期間中、カナン邸内にある客館に寝泊まりする事が許されていた。
国に女性達の保護申請をして――呪いはちゃんと解いてある――依頼終了の報告をギルドに澄ました後、俺は用意されたその部屋へと戻って来ている。
そこで早速試してみたのだ。
例の玉――デモンズハートの力を。
10秒で1か月というのは、体から生命力が抜ける感覚から持っていかれる寿命を推測した物だ。
多少の誤差はあるだろうが、そこまで大きな差異はないと思う。
「くくく……俺のスキルを封じて契約を解除するとはな、小賢しい奴だ。だが嫌いじゃないぞ」
相手の意図を無視してオンオフ出来てしまう事に、玉に宿る小さな悪魔――ベシアスは特に不満を持っていない様だった。
これが人間同士の契約なら憤慨ものな訳だが、どうやら悪魔の精神構造は人間とは違う様だ。
「ところで、俺の筋肉は全然膨らまなかったんだが?」
玉に魔力を流し込み、ベシアスと契約をして力を得る。
それで得られる力は、予想通り強力な物だった。
だがローブの男――ガイゼンが力をつかった際はムキムキマッチョな体に変化していたにも関わらず、何故か俺にはそう言った身体的変化が起きなかった。
ついでに言うなら、全身から黒いオーラが吹き出したりもしていない。
「あの男は肉体が虚弱だったからな。筋肉を無理やり発達させなければ我が力を真面に扱えなかったので、一時的に膨らんだだけだ。オーラが駄々洩れだったのも、それを受け止めきるだけの容量が無かったからに過ぎん」
「成程」
俺はジョビジョバ家で英才教育を受けているからな。
ベシアスの力を丸々受け止める下地があった訳だ。
「くくく。貴様のその能力と強さ。そこに我が力が加われば、正に最強の名をほしいままに出来るだろう」
「いや、絶対無理だぞ?」
寿命の事があるから早々使わないと言うのもあるが、仮にそれを無視して力を使っても最強には届かないだろう。
「なんだと?」
「少なくとも……この国最強の剣士であるアグライ兄さんには、この程度じゃ話にならないだろうからな」
強力な力である事は認めるが、アグライ兄さんは疎か、長男であるグンランの方に勝てるかも正直怪しいレベルだ。
「そいつはそんなに強いのか?」
「ああ、別格だ」
異次元レベルのフィジカルを持つ次男のアグライ兄さんは、剣も体術も化け物レベルだった。
それに加え、ユニークスキル【英雄】も出鱈目な効果を持っている。
【英雄】――それは劣勢に陥ると発動するスキルだ。
発動すると全能力が倍加し、更に3分間ありとあらゆるダメージや状態異常――スキルなどの干渉も含む――を完全に無効化する効果があった。
これが発動している状態の兄を一対一で倒せる人間は、この国に――いや、この世界にはいないと断言していい。
「お前がそこまで言うのだ。相当なのだろう。それ程の力の持ち主ならば、是非とも命を頂きたい所だ」
ベシアスが目を細めて嫌らしく笑う。
見た目は小型で丸っこい姿なので油断しそうになるが、その邪悪な笑顔をみると「ああ、こいつは悪魔なんだ」と強く認識させられる。
「アグライ兄さん程強ければ、お前の力に頼る必要なんてない。諦めろ」
そもそも邪悪な力の籠ったマジックアイテムを、兄が使うとは思えない。
俺はもう貴族じゃないから遠慮なく使うけど。
「誰か来た」
部屋に近づいてくる気配を感じ、俺は素早く革袋に玉を押し込んで隠す。
邪悪な力が宿っている物なので、人に見られても良い事はないからな。
「シビックいるか!」
ドアがドンドンと乱暴にノックされ、外から不機嫌そうな声をかけられる。
それは護衛団の副長である、イーグル・ガルダンの声だった。
一体俺になんの用だ?
一瞬、無視してやろうかと考える。
客館に寝泊まりさせて貰っているとは言え、今の俺は勤務外だからな。
礼儀知らずの相手を無理にしてやる必要はない。
……ま、そう言う訳にもいかないか。
イーグルが態々来たという事は、間違いなくペイレス家関係の要件だろうしな。
「いるのは分かってるぞ!早く出ろ!」
更にガンガンと、力強く扉が叩かれる。
「やれやれ」
今にも扉が壊されそうな勢いだ。
俺は首を軽く竦めてから扉を開いた。
5
あなたにおすすめの小説
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件
☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。
しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった!
辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。
飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。
「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!?
元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる