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第15話 勇者召喚
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召喚の地。
かつて世界を救ったとされる勇者が召喚された地であり、ディバイン教会が管理する場所だ。そこで今、召喚の儀式が行われていた。
発起人はフェイガル王国第一王女エナイス。そしてその協力者は、王国内の魔法の全てが集まると言われる魔塔で副塔主を務めるゴンザスと、この地を管理しているディバイン教会の大司教アルダースだ。
現在、フェイガル王国は危機的とまではいかない物の、国益に関わる問題を抱えていた。それは隣国であるシグムント帝国との境界線上に、ある鉱脈が見つかった事だ。
――それはオリハルコンの鉱脈。
金属の中で最高硬度を誇り、また魔法との親和性の高い希少金属であるオリハルコン。その鉱脈が国境線上に発見されれば、利権をめぐって両国の諍《いさか》いが発生するのは必定。現在はまだ両国の協議段階ではあるが、このままいけばフェイガル王国側が多くを譲る事になる。
――何故なら、シグムント帝国には破竜帝ジークフリートがいるからだ。
両国間には、国力や抱える戦力にほぼ差はない。だが帝国には皇帝であるジークフリートがいる。他を寄せ付けない圧倒的超越者の存在。その一点でのみの差が、決定的な差となっていた。
その気になれば彼一人で王国は滅ぼされる。そんな状態では、当然王国側は日和らざる得ない。だが、オリハルコンの鉱脈が生み出す益をみすみす帝国に渡すのを歓迎する訳も無く。その結果、王国が取った手段が勇者召喚だった。
――本来ならば、世界の危機にのみ行われるはずの勇者召喚。
だが王国は、帝国との利権争いや戦争の為だけにそれを行う。もちろん表向きは、最近勢力を盛り返しつつある魔族に対する対抗手段と言う体ではあるが。
「今回は大丈夫そうね」
召喚の陣から溢れ出した眩い光が集まり、それは人型を形成していく。それは召喚というよりも、どちらかと言えばまるで創造の様に見えた。
それもそのはず。これは正確には召喚ではない。勇者召喚は便宜上の呼び名であり、実際は異世界の優れた偉人のデータを元に、この世界に適応した存在を生み出す創造の魔法となっている。それ故、その行使には大量の貴重な物資を必要とするのだ。
光が完全に人の姿に変わる。その身長は三メートル近くあり、その横幅は優に大人三人分は有していた。まるで筋肉の塊の様な巨人。それが今回召喚された――いや、複製された勇者だ。
その力強い姿にエナイスは、目を細め安堵の息を漏らす。彼女は一度失敗した事で、もう後がない状況だった。もし今回も失敗すれば、後継者争いは絶望的だったろう。
「クラスも、まぎれもなく勇者ですな。まあ前回がおかしかっただけで、本来はこうあるべきだったのですよ。まったく、あの失敗で私がどれだけ苦労した事か」
副塔主ゴンザスも勇者召喚失敗のせいで、その能力を周囲から疑問視されていた。お陰で魔塔内での発言力が下がっており、彼にとってそれは耐えがたい屈辱となっていた。そして一年半という期間が過ぎた今日という日、やっとその雪辱を注ぐ事に成功する。そのため、愚痴を吐きつつもその内心は晴れやかな物だった。
「にしても……品性のない顔をしてるわね」
生み出された勇者の顔は厳つく、知性と品性とは無縁な顔をしていた。髪が無造作に長くのばされ垂れているのが、その印象を加速させる。
前のハズレは顏だけは良かった。エナイスはそんな事を考える。もし御剣那由多《なゆた》のクラスが勇者だったなら、彼女はきっと彼を婿に向かえていた事だろう。それぐらい顔が好みだったのだ。
「まあ勇者に求めるのは強さですからな。見た目まで求めるのは酷という物ですぞ」
「まあそうね」
シグムント帝国。その支配者であるジークフリートへの牽制として生み出したのだから、それ以上を求めるのは我儘という物。そう諭す大司教アルダースの言葉にエナイスは頷いた。
「おっと、意識が入ったようですな」
瞳に光が宿った事に気付いたゴンザスがそう告げる。
生み出された巨体の勇者は少しきょろきょろと周囲を見回したのち、口を開いた。
「ここは……どこだ」
と。
「こやつ!?この世界の言葉を!?」
その言葉を聞き、その場の全員が驚く。
異世界の住人のデータを元に生み出した勇者は、元データの記憶を引き継いでいる。そのため、言語によるコミュニケーション能力や思考などは普通に持ち合わせていた。だがそれは大本になった人間の知識だ。つまり異世界の知識であり、そして言語なのだ。にも拘らず、目の前の勇者はこの世界の言語を口にした。その場の人間が驚くのも無理はないだろう。
「恐らくは、言語系スキルを所持しているのでしょうな……それも万能型の」
その中で、一人驚く事無くゴンザスが口を開いた。
「流石は勇者って所かしら……私はフェイガル王国第一王女エナイス。貴方を召喚した者よ」
エナイス王女が前に進み、巨体の勇者に高飛車な態度で声をかける。
「貴方には、この国のために働いて貰うわ。いいわね?」
――それがどんな結果を引き起こすかも知らずに。
「俺に……指図するな」
「——っ!?」
勇者の巨体が消える。いや、消えたのではない。目に見えない程の速度で動いたのだ。勇者は。そしてその手は――
うっ……ぐっ……」
――王女エナイスの細い首を掴み、その体を軽々と持ち上げる。
かつて世界を救ったとされる勇者が召喚された地であり、ディバイン教会が管理する場所だ。そこで今、召喚の儀式が行われていた。
発起人はフェイガル王国第一王女エナイス。そしてその協力者は、王国内の魔法の全てが集まると言われる魔塔で副塔主を務めるゴンザスと、この地を管理しているディバイン教会の大司教アルダースだ。
現在、フェイガル王国は危機的とまではいかない物の、国益に関わる問題を抱えていた。それは隣国であるシグムント帝国との境界線上に、ある鉱脈が見つかった事だ。
――それはオリハルコンの鉱脈。
金属の中で最高硬度を誇り、また魔法との親和性の高い希少金属であるオリハルコン。その鉱脈が国境線上に発見されれば、利権をめぐって両国の諍《いさか》いが発生するのは必定。現在はまだ両国の協議段階ではあるが、このままいけばフェイガル王国側が多くを譲る事になる。
――何故なら、シグムント帝国には破竜帝ジークフリートがいるからだ。
両国間には、国力や抱える戦力にほぼ差はない。だが帝国には皇帝であるジークフリートがいる。他を寄せ付けない圧倒的超越者の存在。その一点でのみの差が、決定的な差となっていた。
その気になれば彼一人で王国は滅ぼされる。そんな状態では、当然王国側は日和らざる得ない。だが、オリハルコンの鉱脈が生み出す益をみすみす帝国に渡すのを歓迎する訳も無く。その結果、王国が取った手段が勇者召喚だった。
――本来ならば、世界の危機にのみ行われるはずの勇者召喚。
だが王国は、帝国との利権争いや戦争の為だけにそれを行う。もちろん表向きは、最近勢力を盛り返しつつある魔族に対する対抗手段と言う体ではあるが。
「今回は大丈夫そうね」
召喚の陣から溢れ出した眩い光が集まり、それは人型を形成していく。それは召喚というよりも、どちらかと言えばまるで創造の様に見えた。
それもそのはず。これは正確には召喚ではない。勇者召喚は便宜上の呼び名であり、実際は異世界の優れた偉人のデータを元に、この世界に適応した存在を生み出す創造の魔法となっている。それ故、その行使には大量の貴重な物資を必要とするのだ。
光が完全に人の姿に変わる。その身長は三メートル近くあり、その横幅は優に大人三人分は有していた。まるで筋肉の塊の様な巨人。それが今回召喚された――いや、複製された勇者だ。
その力強い姿にエナイスは、目を細め安堵の息を漏らす。彼女は一度失敗した事で、もう後がない状況だった。もし今回も失敗すれば、後継者争いは絶望的だったろう。
「クラスも、まぎれもなく勇者ですな。まあ前回がおかしかっただけで、本来はこうあるべきだったのですよ。まったく、あの失敗で私がどれだけ苦労した事か」
副塔主ゴンザスも勇者召喚失敗のせいで、その能力を周囲から疑問視されていた。お陰で魔塔内での発言力が下がっており、彼にとってそれは耐えがたい屈辱となっていた。そして一年半という期間が過ぎた今日という日、やっとその雪辱を注ぐ事に成功する。そのため、愚痴を吐きつつもその内心は晴れやかな物だった。
「にしても……品性のない顔をしてるわね」
生み出された勇者の顔は厳つく、知性と品性とは無縁な顔をしていた。髪が無造作に長くのばされ垂れているのが、その印象を加速させる。
前のハズレは顏だけは良かった。エナイスはそんな事を考える。もし御剣那由多《なゆた》のクラスが勇者だったなら、彼女はきっと彼を婿に向かえていた事だろう。それぐらい顔が好みだったのだ。
「まあ勇者に求めるのは強さですからな。見た目まで求めるのは酷という物ですぞ」
「まあそうね」
シグムント帝国。その支配者であるジークフリートへの牽制として生み出したのだから、それ以上を求めるのは我儘という物。そう諭す大司教アルダースの言葉にエナイスは頷いた。
「おっと、意識が入ったようですな」
瞳に光が宿った事に気付いたゴンザスがそう告げる。
生み出された巨体の勇者は少しきょろきょろと周囲を見回したのち、口を開いた。
「ここは……どこだ」
と。
「こやつ!?この世界の言葉を!?」
その言葉を聞き、その場の全員が驚く。
異世界の住人のデータを元に生み出した勇者は、元データの記憶を引き継いでいる。そのため、言語によるコミュニケーション能力や思考などは普通に持ち合わせていた。だがそれは大本になった人間の知識だ。つまり異世界の知識であり、そして言語なのだ。にも拘らず、目の前の勇者はこの世界の言語を口にした。その場の人間が驚くのも無理はないだろう。
「恐らくは、言語系スキルを所持しているのでしょうな……それも万能型の」
その中で、一人驚く事無くゴンザスが口を開いた。
「流石は勇者って所かしら……私はフェイガル王国第一王女エナイス。貴方を召喚した者よ」
エナイス王女が前に進み、巨体の勇者に高飛車な態度で声をかける。
「貴方には、この国のために働いて貰うわ。いいわね?」
――それがどんな結果を引き起こすかも知らずに。
「俺に……指図するな」
「——っ!?」
勇者の巨体が消える。いや、消えたのではない。目に見えない程の速度で動いたのだ。勇者は。そしてその手は――
うっ……ぐっ……」
――王女エナイスの細い首を掴み、その体を軽々と持ち上げる。
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