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第23話 vs勇者⑥
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「し、師匠!?何を!?」
師匠の突然の行動に慌てて剣へと手を伸ばすが、それを手で制されてしまう。
「止めるな……それより、ヒールを頼むぜ……」
「ヒール……そうか!」
ヒールは肉体を回復させる。その効果は、欠損すらも修復する程の万能ぶりだ。当然、失われた血なんかも回復させる事が出来た。ブラッドソードが血を吸い強くなるというのなら、その血をヒールで増やし続ければ際限なく強化する事も可能。それこそが師匠の狙に違いない。
「分かりました!ヒール!」
まあ実際は、魔力の都合上、ヒールを延々かけ続ける事は出来ないし、そもそも勇者が騎士達を相手にしている間というタイムリミットはあるが。
「ち……もう終わっちまったか……」
騎士達を全て始末し終えた勇者が、此方へとゆっくり歩いて来る。実力差を考えれば、それでももった方だとは思う。まあ正確には、もったというよりかは、バラバラに逃げようとしたから始末に多少時間がかかったというのが正解だが。
「おい。テメーにとっておきの攻撃をぶちかましてやるから……ちょっと待ってな……」
ありえない提案を、師匠は勇者へと持ち掛ける。相手側にそれを聞き入れるメリットなどない。普通ならば。だが奴は違う。あいつは敵の攻撃を躱さず、戦いを楽しんでいた。言ってみれば狂戦士だ。ならば――
「いい……だろう……」
勇者の歩みが止まる。
「さいこうの……ちからをみせてみろ……」
「ありがてぇこった……」
本当にありがたい。俺達の逆転のチャンスを、指を咥えて見ていてくれるのだから。とは言え、相手が途中で考えを変えないとも限らない。俺は師匠にヒールを掛けながら、勇者が動き出せばそれに対応できるよう視線を奴に固定しておく。
「くっ……そろそろ限界だな……」
暫くヒールを続けていると、師匠が苦しそうに呟く。どさりという音に慌てて振り返ると、師匠は天を眺める様に仰向けに倒れていた。
「なんでだ!?ヒールは続けてるのに!?」
倒れた師匠の姿に、俺は絶句する。その顔には生気がなく真っ青で、目の下に深い隈が出来ていた。顔や手のしわも明らかに、いや、異常な程深くなっていた。
この変貌ぶりは異常だ。一体なぜ……
「こいつは血だけじゃなく……生命力も同時に吸い取っちまうのさ……命を喰らう事で発揮する魔剣だ……つったろ?」
「なっ!?」
命という言葉は、正真正銘命が含まれていたのか。単純に血を吸うから、命を奪うという意味だと思っていた。
「直ぐに剣を!」
師匠の様子は明らかにやばい。勇者に意識を持っていかれすぎて、師匠の異変に気づけなかった。くそっ……
「もう、今更だ……」
剣を引き抜こうと手を伸ばすと、師匠がその手を握って止めてくる。
「もう殆ど……命は残っちゃいねぇ。止めたって……直ぐにおっちんじまうだけだ……」
「けど!」
「どうせ……負けりゃ死ぬんだ。だったら……勝つ確率を上げるために……俺の全てをこの剣に込める」
「師匠……」
「ナユタ……俺は善人じゃ……ねぇ。ましてや、弟子の為に無償で死んでやる程……優しい師匠でも……ない。言いたい事……分かるよな?」
「はい、とんでもなく大きな借りが出来ました……」
死ぬはずだった俺に、生きる道筋を師匠は残してくれた。それは一生をかけてでも、返さなければならない恩だ。そしてその恩を返す方法はただ一つ。そう、ただ一つだけだ。
「奴を倒して生き延び、そして誰よりも強くなって見せます。破竜帝ジークフリートを超えるぐらい」
「分かってりゃ……いい。俺の大願……たの……ん……だ……ぞ……あぁ……これで……楽に……」
師匠の呼吸が止まり、その瞳から光が消える。
「師匠。貴方からは色々な物を頂きました。ありがとうございます」
ハッキリ言って、この戦いで俺の命は相当消耗してしまっている。たとえ生き残っても、この先どれだけ生きられるか分からない。師の願いを叶えるには、圧倒的に時間が足りなかった。だが、それでも俺は出来る全力を尽くす事を此処に誓う。
「見ててください。貴方への恩返しのため、この命尽きる日まで精進する事を約束します」
そしてそのためにも、此処で勇者に勝たなければならない。俺は師匠の胸に刺さっているブラッドソードを引き抜く。あれ程短かった刀身は、師匠の体の何処に収まっていたのかと思う程に長くなっていた。
「じゅんびは……できたか?」
「ああ、待たせたな」
俺は剣の柄をしっかりと両手に握り、その赤黒く禍々しい刀身を奴へと向ける。そしてハッキリと宣言した。
「お前を殺す」
と。
師匠の突然の行動に慌てて剣へと手を伸ばすが、それを手で制されてしまう。
「止めるな……それより、ヒールを頼むぜ……」
「ヒール……そうか!」
ヒールは肉体を回復させる。その効果は、欠損すらも修復する程の万能ぶりだ。当然、失われた血なんかも回復させる事が出来た。ブラッドソードが血を吸い強くなるというのなら、その血をヒールで増やし続ければ際限なく強化する事も可能。それこそが師匠の狙に違いない。
「分かりました!ヒール!」
まあ実際は、魔力の都合上、ヒールを延々かけ続ける事は出来ないし、そもそも勇者が騎士達を相手にしている間というタイムリミットはあるが。
「ち……もう終わっちまったか……」
騎士達を全て始末し終えた勇者が、此方へとゆっくり歩いて来る。実力差を考えれば、それでももった方だとは思う。まあ正確には、もったというよりかは、バラバラに逃げようとしたから始末に多少時間がかかったというのが正解だが。
「おい。テメーにとっておきの攻撃をぶちかましてやるから……ちょっと待ってな……」
ありえない提案を、師匠は勇者へと持ち掛ける。相手側にそれを聞き入れるメリットなどない。普通ならば。だが奴は違う。あいつは敵の攻撃を躱さず、戦いを楽しんでいた。言ってみれば狂戦士だ。ならば――
「いい……だろう……」
勇者の歩みが止まる。
「さいこうの……ちからをみせてみろ……」
「ありがてぇこった……」
本当にありがたい。俺達の逆転のチャンスを、指を咥えて見ていてくれるのだから。とは言え、相手が途中で考えを変えないとも限らない。俺は師匠にヒールを掛けながら、勇者が動き出せばそれに対応できるよう視線を奴に固定しておく。
「くっ……そろそろ限界だな……」
暫くヒールを続けていると、師匠が苦しそうに呟く。どさりという音に慌てて振り返ると、師匠は天を眺める様に仰向けに倒れていた。
「なんでだ!?ヒールは続けてるのに!?」
倒れた師匠の姿に、俺は絶句する。その顔には生気がなく真っ青で、目の下に深い隈が出来ていた。顔や手のしわも明らかに、いや、異常な程深くなっていた。
この変貌ぶりは異常だ。一体なぜ……
「こいつは血だけじゃなく……生命力も同時に吸い取っちまうのさ……命を喰らう事で発揮する魔剣だ……つったろ?」
「なっ!?」
命という言葉は、正真正銘命が含まれていたのか。単純に血を吸うから、命を奪うという意味だと思っていた。
「直ぐに剣を!」
師匠の様子は明らかにやばい。勇者に意識を持っていかれすぎて、師匠の異変に気づけなかった。くそっ……
「もう、今更だ……」
剣を引き抜こうと手を伸ばすと、師匠がその手を握って止めてくる。
「もう殆ど……命は残っちゃいねぇ。止めたって……直ぐにおっちんじまうだけだ……」
「けど!」
「どうせ……負けりゃ死ぬんだ。だったら……勝つ確率を上げるために……俺の全てをこの剣に込める」
「師匠……」
「ナユタ……俺は善人じゃ……ねぇ。ましてや、弟子の為に無償で死んでやる程……優しい師匠でも……ない。言いたい事……分かるよな?」
「はい、とんでもなく大きな借りが出来ました……」
死ぬはずだった俺に、生きる道筋を師匠は残してくれた。それは一生をかけてでも、返さなければならない恩だ。そしてその恩を返す方法はただ一つ。そう、ただ一つだけだ。
「奴を倒して生き延び、そして誰よりも強くなって見せます。破竜帝ジークフリートを超えるぐらい」
「分かってりゃ……いい。俺の大願……たの……ん……だ……ぞ……あぁ……これで……楽に……」
師匠の呼吸が止まり、その瞳から光が消える。
「師匠。貴方からは色々な物を頂きました。ありがとうございます」
ハッキリ言って、この戦いで俺の命は相当消耗してしまっている。たとえ生き残っても、この先どれだけ生きられるか分からない。師の願いを叶えるには、圧倒的に時間が足りなかった。だが、それでも俺は出来る全力を尽くす事を此処に誓う。
「見ててください。貴方への恩返しのため、この命尽きる日まで精進する事を約束します」
そしてそのためにも、此処で勇者に勝たなければならない。俺は師匠の胸に刺さっているブラッドソードを引き抜く。あれ程短かった刀身は、師匠の体の何処に収まっていたのかと思う程に長くなっていた。
「じゅんびは……できたか?」
「ああ、待たせたな」
俺は剣の柄をしっかりと両手に握り、その赤黒く禍々しい刀身を奴へと向ける。そしてハッキリと宣言した。
「お前を殺す」
と。
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