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最終章 新しい「疲れたら此処へ来て」
#63
しおりを挟む______半年後。
*
「斗和さん、どうかな? 似合ってる?」
「……ごめん。正直、言葉にできないぐらい綺麗なんだよね……」
「……フフ。恥ずかしいけど、そうやって言ってくれると、やっぱり着て良かったなって思うよ」
目の前にいる雫さん。いつも可愛いし、いつも綺麗な彼女だけれど、今日は、冗談抜きで、ぶっちぎりで、圧倒的に綺麗だった。式の当日に僕に見せたいということで、ウエディングドレス姿の彼女を見ることが出来なかった僕の目の前には、まるで天使が舞い降りたのかと思うほど、煌びやかで華やかな雫さんがいた。
「やばい……。なんか急に緊張してきたな……」
「え? 斗和さんともあろう者が珍しいね」
フフと口元を右手で隠して笑う彼女は、腕には優しさを表現したようなきめ細やかな白いレースのグローブをつけ、耳元には控えめなのに、それでいて見る人を惹きつけるような存在感を放つ四葉のクローバーのイヤリングが輝く。真っ白なドレスは、この世界に存在するどんな色よりも綺麗な色に見えた。今日の彼女と目が合うだけで僕の心臓は次第に鼓動が大きく、そして強くなっていく。
「大丈夫だよ。私が隣にいるから」
「……今日の雫さん、なんかカッコいいね……」
弱気になる僕の手を温かい手で優しく握ってくれる彼女の体温が、いつものように僕を落ち着かせてくれる。その彼女の手を握っているだけで、慌てていた僕の心が、すっと落ち着いて穏やかな波のように落ち着きを取り戻してくれる。
「私からしたら、斗和さんの方がずっとカッコいいよ。それに、今日はカッコいいより、さっきみたいに綺麗って言ってくれる方が嬉しいんだけど……」
「もちろん、びっくりするぐらい綺麗だよ。それでいて、カッコいい雫さんって、なんか今日はもう無敵じゃない?」
「あ、なんかテキトーにまとめられちゃったな」
「テキトーじゃないよ。でも、ちょっとずつ落ち着いてきたな」
「それならいいけど」
フフと笑う彼女の声が響く控え室のドアがコンコンとノックされた。スタッフの女の人が「失礼します」と言いながら重そうなドアをゆっくりと開けた。そこには半年ぶりに会う師匠の姿があった。師匠はいつものように僕らの顔を見ると「よっ」と言って右手を上げてヘラッと笑った。
「カッコいいじゃんか。斗和。雫ちゃんもすっごく綺麗だな!」
「カケルさん。ご無沙汰しています。今日は本当にありがとうございます」
「ううん。オレの方こそ、こんな晴々しい式に呼んでくれてありがとうな。大役、オレに務まるか分かんないけど頑張るよ」
「僕の方こそ、師匠が今日来てくれて、本当に嬉しいよ。あと、師匠の顔を見たおかげで、ちょっとずつ緊張が解れてきてる気がする」
「そうなの? いつもより、まだまだ顔は強張ってる気がするけどな。まぁ役に立ててるなら良かったよ」
師匠のスーツ姿、久しぶりに見るけどやっぱりすごくカッコいい。僕なんかよりもずっとスタイルが良くて紺色がよく似合うし、ネクタイの柄なんて師匠しか似合わないんじゃないかと思うぐらいハマっている楽器のワンポイント柄がいくつも入っている。
「今日はお前たちの晴れ舞台なんだ。しっかり目に焼き付けさせてもらうよ」
「き、期待に添えられるように頑張るよ!」
「はは。もっとリラックスしろよ。お前はいつも通り、ヘラヘラゆるゆるしてる方がらしさが出るからな。無理に背伸びしなくていいんだ」
やっぱり僕の心の中は師匠にお見通しだった。半分呆れるように笑いながら師匠の笑顔を眺めた。そういえばリッカちゃんがいない。式には参加すると師匠から話を聞いていたはずだったけれど。
「ヘラヘラゆるゆる、いつもしてるつもりは無いんだけどな。師匠、そういえば、リッカちゃんは?」
「あぁ、さっき気分が変わったって言って車の中で髪の毛結び直してるよ。久しぶりに会うお前たちに成長したところを見せたいんだろうよ」
へへへと笑う師匠から、以前よりも父親の顔が見れるようになった気がする。目尻に刻まれている皺が以前よりも深くなっているような気がするのは気のせいだろうか。
「久しぶりに会うリッカちゃん、楽しみだなぁ」
「あぁ、髪の毛が伸びてるのもあるんだけど、最近随分と大人っぽくなってるんだ。また一段とチハルに似てきてオレもドキッてすることが増えてきてるよ」
雫さんと師匠が話していると、慌ただしい足音がどんどん僕らのいるこの部屋に近づいてくる音がした。
「雫さぁーん! 斗和さぁーん! 久しぶりー!」
開いているドアから飛び出てくるように現れた雫ちゃんは、僕らにぶんぶん手を降りながら太陽のように明るい笑顔を向けてくれた。師匠は大人っぽくなったと言ったけれど、目の前にいるリッカちゃんはまだまだ可愛い女子高生だった。
「リッカちゃん! 久しぶり! 髪の毛伸びたね! すっごく可愛い!」
「えへへ。ありがとう! 母さんみたいに綺麗な髪の毛を目指してるから、雫さんがそう言ってくれると私もすっごく嬉しい! でも、今日の雫さんは世界で一番可愛い! 結婚おめでとう!」
真っ白なドレスに飛び込むように抱きついたリッカちゃんは、そのまま雫さんに頭を撫でられ幸せそうな顔で笑っている。
「リッカちゃん、ありがとう! 誰よりも勢いのある祝福、とっても嬉しいよ。それに、今日は来てくれてありがとう。部活は休みなの?」
「ううん、実は休みでは無いんだけど、どうしても2人の結婚式には参加したいって思ったから思い切って部活、オフにしちゃった。キャプテンだからそういうことも出来るんだ」
「そ、そうなんだ。来てくれたのはもちろん嬉しいけど、よかったの?」
「大丈夫大丈夫! むしろみんな、今日しっかり休むことが出来たらまた明日からインター杯に向けて意気込むと思うから結果オーライだよ」
「イ、インター杯!?」
「うん! 私たちね、今年県で一番になったんだ!」
「ほ、ほんとに!? おめでとう! やだ、教えてよ! それが決まった時に!」
「えへへ。なんか私もサプライズみたいなことしたくて。2人を驚かすことが出来たっぽいから私の作戦は成功だね!」
ドヤ顔で胸を張るリッカちゃんは、さっき師匠が言ったように表情や目元なんかが師匠の奥さんだったチハルさんによく似ている気がした。まだまだ子どもらしい明るさを持ち合わせていて微笑ましいけれど。それにしても驚いた。リッカちゃんは部活の方でも大きく成長を遂げていたようだ。
「すごいね。リッカちゃん。逆に僕らがお祝いしないとだね」
「ううん。斗和さん。今日は私が2人をお祝いしたい日だから。それに、私の目標はもう日本一になることに変わってるから、そこまでは気を抜かないでいるよ」
「日本一かぁ。すごい目標だね。でも、リッカちゃんがキャプテンの陸上部なら、それも叶う気がしてくるよ」
「日本で一番になったら、母さんも喜んでくれそうだもんな」
「そうそう! それでね、お墓参りする時にそう伝えるのが今の私の目標なんだ」
「大丈夫。リッカちゃんなら叶えられるよ。その目標」
「うん。私もリッカちゃんの夢、応援してるね」
「ありがとう……。って! ダメだ! 今日は2人の日! 私の話はこれでおしまい! ほら! 外見て! たくさんの人が来てるよ!」
リッカちゃんに促され、窓の外を見てみると、受付をしている人たちが随分と増えていた。その中にはTsukakokoのクライアントの人たちや、お爺ちゃんの親友だった徳田商店のおじちゃん、川野町からはるばるやってきてくれたおじさんやおばさん、幼馴染のリョウヤくんとそのお父さん、次々と大切な人たちが来てくれていた。その姿を見ていると、僕は危うく涙を流しそうになってしまった。慌てて引っ込めながら僕は雫さんや師匠、リッカちゃんたちと一緒に笑い合った。
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