吾輩は時々、黒猫である。

やまとゆう

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第3章 師匠と師匠の師匠

#25.

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 「いいか、2人とも。人は絶対1人では生きていけない。誰かに、それに何かに助けを求めたりするもんだ。もしお前たちが挫けそうになったり、挫けそうな誰かを見つけた時はそいつの手を取って寄り添うんだ。助けが欲しい時は手を伸ばすんだ。絶対1人になったらダメだからな。これは師匠からの唯一のお願いだ」

それを聞いたニケと優子は、オレの体からそっと離れた。春に咲く花のような優しい笑顔がオレの胸の辺りで咲いた。それを見たオレもつられた。

 「しょうがないね。いつもはムカつくことを言ったりしてくる師匠だけど、そのお願いだけは聞いてあげるよ」
 「私も今の師匠の言葉を心の中に大事にしまっておきます」
 「へへ、ありがとうな。2人とも」
 「また、泊まりに来ていいですか?」
 「うん、いつでもいいぞ」
 「あ、ありがとうございます」
 「僕、優子がそんなに泣くんだって初めて知ったよ」

ニケが涙を流す優子を見守るように笑う顔を見て、オレも泣きそうになり慌てて堪えた。

 「じゃあ次はニケの隠しごとでも聞くか!」
 「は!? 僕は何も無いよ」
 「え~? 顔にウソって書いてあるぞ~」
 「眠くなってきたから僕はそろそろ寝る」
 「ハハ、ふてくされるなよ。まぁ時間も時間だしな。そろそろ寝るか」
 「そうですね。そうしましょう」

オレたちはそれぞれが使ったグラスを片付けて階段を登り寝床へ向かった。家に漂うひんやりとした空気が何とも心地よく思えた。

 「じゃあ優子はオレの部屋で寝るか。ベッド、1つしかないけどデカいから心配しないでくれ」
 「はい。もちろんです」
 「師匠、優子に変なことしたらダメだよ」
 「変なことって何だ? ニケ、何考えてんだよ! いやらしいぃー!」

 家の外にも届きそうな声でニケをからかうと、ニケの顔が風呂上がりに見た時みたいに一瞬で真っ赤になった。

 「く、くすぐったりするなってことだよ!」
 「ハハ、さぁ思春期少年とはここでお別れしてオレたち美女はこっちだ。じゃあニケ、また明日な」
 「馬鹿にしやがって」
 「オレはお前のそういうとこ大好きだよ。じゃあおやすみ」
 「……おやすみ」

ニケはそっぽを向きながらも、それこそ猫の鳴き声のように小さな声でオレに返事をした。ニケが部屋のドアをぱたんと閉めたのを確認してからオレは部屋のドアを開けた。

 「ニケは純粋だよ。本当に可愛い」
 「そうですね、私もそう思います」
 「ふふ、優子からそう言ってもらえるあいつは幸せ者だな」

今日は終始ニケの話題を優子としながらオレと優子はベッドに入った。ひんやりと程よく冷たい布団が気持ちいい。優子が寒がらないといいが。

 「寒くないか?」
 「はい、とっても心地いいです」
 「そりゃ良かった。疲れてるだろうから、いっぱい休んでくれよ」
 「はい。あ、師匠ワガママ言ってもいいですか?」
 「うん? どうした?」
 「師匠にくっついて寝てもいいですか?」

まるでピアノの音色のように綺麗で優しい優子の声を聞いて、オレはまた気持ちが込み上げた。

 「うん、もちろんいいよ」

抱きしめた優子の体は小刻みに震えていた。それと鼻をすする音も微かに聞こえた。

 「師匠、暖かいです」
 「優子、さっきは悲しい思いをさせてごめんな」
 「今だけは我慢しなくてもいいですか?」
 「うん、しなくてもいい。頑張ってくれてありがとうな」

オレの体に抱きついたまま優子は、ダムが決壊したように泣きじゃくった。オレは優子の体を強く抱きしめた。サラサラの髪を優しく撫で続けた。泣き疲れた優子は顔をぐしゃぐしゃにしたまま眠りについた。それにつられてオレの目からも涙が零れた。オレ気持ちよさそうに眠る優子の髪をいつまでも撫で続けた。ふと机の上にある写真立てに入った琥珀さんと二人で映る写真がオレの視界に入った。

 「師匠。オレ、この子たちの師匠になれて本当によかったよ」

オレの独り言に、うーんと優子が反応した。オレの瞼も次第に重くなっていく。今日、また一つこの場所で大切な思い出ができた。その日、オレは夢の中で琥珀さんに抱きしめられた。

 『香澄は私なんかよりも、とっても立派な師匠だよ。これからも、オレの一番弟子として見守っているからね』

夢の中で聞いた琥珀さんの言葉が、目を覚ましてもオレは鮮明に覚えていた。オレは隣で眠る優子を包み込むように優しく抱きしめた。

 「んー」

優子もぎゅっと抱きしめ返してきた。小鳥がさえずる鳴き声と、カーテンの隙間から差し込む優しい陽の光。幸せな朝とはこの瞬間みたいなことを言うのだろう。そう思って目覚めたとても過ごしやすい5月の朝だった。
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