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最終章 黒猫と「人」
#29.
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ーーーーー。
いつの間にか眠っていたボクは、本当に久しぶりに黒猫になっていた。温かいホットカーペットのように心地良い太ももの上で寝ていたボクは、目線を上にやると、優子もすーすーと寝息を立てて気持ちよさそうに眠っていた。このタイミングで黒猫になったことをボクは後悔した。壁にかかっている時計を見ると15時を回っていた。まだ人間に戻るには時間がかかりそうだ。彼女と話したいことがたくさんあるのに。言葉を交わせないもどかしさが心の中を独り占めする。師匠がいなくなったことを改めて思い出すと、悲しい気持ちと寂しい気持ちとが荒い波になって胸に押し寄せる。当たり前のように側にいた存在がいないのは、こんなにも辛いことを初めて知った。けれど、今は優子の温もりがボクの心を落ち着かせてくれている。しばらく優子に身を委ねていると、彼女はもぞもぞと動き始めてうーんと目を擦りながら起きた。太ももの上にいるボクを見て、一瞬驚いたようにびくっと足が跳ねた。
「おぉ、キミはあの公園の」
ボクを見た優子は、それからは驚くことなくボクの毛並みを撫で始めた。どうして公園にいた黒猫だと思ったのかは分からなかった。
「久しぶりだね。まさかこんな場所で会うなんて」
黒猫の状態で優子に会うのも本当に久しぶりだった。記憶を思い返すだけでも胸が熱くなる。あの公園にいる白猫と仙猫さんにもずっと会っていない。元気かな。また会いに行かなくちゃ。そんなことを考えながら僕は優子の綺麗な瞳をじっと見つめた。
「キミがここにいること、何でか分からないけれど違和感に感じないや」
優子の笑顔を見ると、さっきまで押し寄せていた心の中の荒波が嘘のように落ち着いた。
「ふふ、やっぱりキミは可愛いね」
もふもふとボクの毛並みを撫で続ける優子。目の前にいたニケという人間が突然いなくなり、目を覚ますと黒猫がいた現実。それを彼女はどう解釈しているのだろう。今は聞く術の無いそんな疑問が頭に浮かぶ。
「私、今日からここに住むんだ」
優子は唐突にそう言った。窓の外を見ながらも、彼女の言葉は確実にボクに届けていた。
「ここに住んでる私の大切な人が寂しい思いをしてるんだ。キミによく似ている可愛らしい人だよ」
優しく暖かい瞳がボクに向けられる。優子はいつからこんな瞳をするようになったのだろう。そこにはもうロボットみたいな無表情の優子はいなかった。むしろ、窓から彼女に差す光が相まって聖女という表現が相応しい程に神々しく見えた。
「その人はね、私なんかよりしっかりしていて、とっても優しいんだ。けれど、今その人の心の中には大きな穴がぽっかりと空いていると思うんだ。だから私がその穴を埋めてあげるの」
ボクの頭を撫でながら話す優子の声は、子守唄のように心地よくボクの耳に届く。ボクの小さくなった心臓が徐々に脈を強く打ち始める。
「私、いつからかその人を見ていたんだ。ネコの世界にもあるのかな。あのネコをいつまでも見ていたいって思う気持ち。あ、キミはあの公園にいる白猫とお似合いだと思うよ」
ふふふと笑う優子の顔が見たくなって目線を再び優子の方へ向けた。
「お、図星だな」
と、今度は悪戯っぽく笑う顔をボクに向けた。ボクの心の中は、春の優しい風が吹き抜けたように暖かくなった。
「私、ついこの前まで人間が嫌いだった。自分の為だけに行動して、他の人が転んでいても手を差し伸べないこの世界が」
そう言って優子は口を閉じた。コポコポと、愛嬌のある加湿器の音だけが部屋に聞こえる。
「でも、私は師匠と出会ってニケさんと出会った。京子さんや美咲さん、風花さんと真希さん。4人も友達ができた。みんなが私を変えてくれた。私は生まれて初めて人が好きになった。生きていてよかったと思った。ここは、私のとっても大切な場所なんだ」
優子の優しい言葉と手がボクを包み込む。
「正直、私の心の中にも大きな穴は空いている。彼と同じぐらい、大きな穴が空いている。でも、挫けていたらあの人も悲しくなると思う。心配になると思う。だから私は、あの人がまた帰ってきた時に笑顔で迎えたい。そう思ったんだ」
優子の声が徐々に震え出した。ボクの背中にある優子の手も少し震えている。
「えへへ、何でネコのキミにこんな話したんだろうね。人間のことなんてキミには関係ないのに」
優子の目から流れる涙を止める術が無かったボクは、自分の出来る精一杯の温もりをと、そっと再び優子の太ももの上に寄り添うように乗った。すると、優子はボクの体を全身で抱きしめ、泣き崩れるようにうずくまった。
「ありがとう。少しこのままでいさせて」
優子はそう言って涙を流したまま眠りについた。ボクもつられて瞼が閉じていった。
いつの間にか眠っていたボクは、本当に久しぶりに黒猫になっていた。温かいホットカーペットのように心地良い太ももの上で寝ていたボクは、目線を上にやると、優子もすーすーと寝息を立てて気持ちよさそうに眠っていた。このタイミングで黒猫になったことをボクは後悔した。壁にかかっている時計を見ると15時を回っていた。まだ人間に戻るには時間がかかりそうだ。彼女と話したいことがたくさんあるのに。言葉を交わせないもどかしさが心の中を独り占めする。師匠がいなくなったことを改めて思い出すと、悲しい気持ちと寂しい気持ちとが荒い波になって胸に押し寄せる。当たり前のように側にいた存在がいないのは、こんなにも辛いことを初めて知った。けれど、今は優子の温もりがボクの心を落ち着かせてくれている。しばらく優子に身を委ねていると、彼女はもぞもぞと動き始めてうーんと目を擦りながら起きた。太ももの上にいるボクを見て、一瞬驚いたようにびくっと足が跳ねた。
「おぉ、キミはあの公園の」
ボクを見た優子は、それからは驚くことなくボクの毛並みを撫で始めた。どうして公園にいた黒猫だと思ったのかは分からなかった。
「久しぶりだね。まさかこんな場所で会うなんて」
黒猫の状態で優子に会うのも本当に久しぶりだった。記憶を思い返すだけでも胸が熱くなる。あの公園にいる白猫と仙猫さんにもずっと会っていない。元気かな。また会いに行かなくちゃ。そんなことを考えながら僕は優子の綺麗な瞳をじっと見つめた。
「キミがここにいること、何でか分からないけれど違和感に感じないや」
優子の笑顔を見ると、さっきまで押し寄せていた心の中の荒波が嘘のように落ち着いた。
「ふふ、やっぱりキミは可愛いね」
もふもふとボクの毛並みを撫で続ける優子。目の前にいたニケという人間が突然いなくなり、目を覚ますと黒猫がいた現実。それを彼女はどう解釈しているのだろう。今は聞く術の無いそんな疑問が頭に浮かぶ。
「私、今日からここに住むんだ」
優子は唐突にそう言った。窓の外を見ながらも、彼女の言葉は確実にボクに届けていた。
「ここに住んでる私の大切な人が寂しい思いをしてるんだ。キミによく似ている可愛らしい人だよ」
優しく暖かい瞳がボクに向けられる。優子はいつからこんな瞳をするようになったのだろう。そこにはもうロボットみたいな無表情の優子はいなかった。むしろ、窓から彼女に差す光が相まって聖女という表現が相応しい程に神々しく見えた。
「その人はね、私なんかよりしっかりしていて、とっても優しいんだ。けれど、今その人の心の中には大きな穴がぽっかりと空いていると思うんだ。だから私がその穴を埋めてあげるの」
ボクの頭を撫でながら話す優子の声は、子守唄のように心地よくボクの耳に届く。ボクの小さくなった心臓が徐々に脈を強く打ち始める。
「私、いつからかその人を見ていたんだ。ネコの世界にもあるのかな。あのネコをいつまでも見ていたいって思う気持ち。あ、キミはあの公園にいる白猫とお似合いだと思うよ」
ふふふと笑う優子の顔が見たくなって目線を再び優子の方へ向けた。
「お、図星だな」
と、今度は悪戯っぽく笑う顔をボクに向けた。ボクの心の中は、春の優しい風が吹き抜けたように暖かくなった。
「私、ついこの前まで人間が嫌いだった。自分の為だけに行動して、他の人が転んでいても手を差し伸べないこの世界が」
そう言って優子は口を閉じた。コポコポと、愛嬌のある加湿器の音だけが部屋に聞こえる。
「でも、私は師匠と出会ってニケさんと出会った。京子さんや美咲さん、風花さんと真希さん。4人も友達ができた。みんなが私を変えてくれた。私は生まれて初めて人が好きになった。生きていてよかったと思った。ここは、私のとっても大切な場所なんだ」
優子の優しい言葉と手がボクを包み込む。
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優子の声が徐々に震え出した。ボクの背中にある優子の手も少し震えている。
「えへへ、何でネコのキミにこんな話したんだろうね。人間のことなんてキミには関係ないのに」
優子の目から流れる涙を止める術が無かったボクは、自分の出来る精一杯の温もりをと、そっと再び優子の太ももの上に寄り添うように乗った。すると、優子はボクの体を全身で抱きしめ、泣き崩れるようにうずくまった。
「ありがとう。少しこのままでいさせて」
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