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第2話 蠢く罪悪
4 現の悪夢
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町から出てすぐの小高い丘に座りながら、ぼーっと夕焼けを眺めている1人の青年がいた。そいつはこちらに気がつくと、一際長い犬歯を見せながらニコッと笑った。
「どうも“黒ヤギ”くん。“黒ヤギ”くんは時間守ってくれるからありがたいよ。ほかのやつらじゃこうはいかないよね。この前なんて2時間も待たさr」
「“黒犬”、世間話はいいから」
話を遮る。こいつはしゃべりだすと延々としゃべり続ける。
「はいはい、冷たいなぁ君は。」
“黒犬”と呼んでいるこいつも、業魔だ。俺に人権印を刻んだ野郎に仕事が欲しいと連絡した日から、こいつは現れるようになった。仕事とその報酬を携えて。
“黒犬”は左手で短い黒髪を触りながら立ち上がると、近くに置いてあった袋を掴み、俺に手渡す。その右手の甲には当然のように人権印が刻まれている。
渡された袋から、ずっしりとした重みを感じる。中をのぞくと、いっぱいに金貨が詰め込まれていた。
「全額しっかり入ってるよ。俺、確認したんだ。」
それは本当のようで、追加の報酬も全額しっかりと入っていた。
(もうすぐだ。あと何回か仕事を受ければ…医療費まで届く!あと少し、あと少しなんだ。)
父さんが望んでいようといまいと関係ない。治療さえ受けてくれればそれで…。俺の中から溢れ出そうとする罪の意識を、無理やり押さえつける。
「“パパ”も仕事熱心で嬉しいって、仕事をあげた甲斐があるって言ってたよ。」
ニコニコと、首に下げている沢山の白い装飾のついたネックレスをいじりながら、話しかけてくる。黒い服を着ていると白い装飾はいやでも目立つ。その装飾品をよく見ると、それは“歯”だった。
「お!“黒ヤギ”くんも興味ある?これエミリアって子の下顎の歯なんだけど、その子とっても歯が綺麗d」
気色の悪い趣味だ。憤りを噛み殺し、話を遮る。
「仕事はあるのか?すぐ受けられるやつ。」
“黒犬”はニコッと笑う。
「あるよ。今日の夜、この町のすぐ近くで、荷物の護衛だって。ほかの業魔もいるから楽だと思うよ。」
「どうする?やる?」
迷ってる時間なんてなかった。俺のやっていることは、自己満足なのかもしれない、自己中的なのかもしれない。けどそれを苦悩する過程にもういないのだ。もう後戻りできないところまで来ているんだ。
自分に言い聞かせる。迷う暇を与えないように、
「…受ける。詳しい場所を教えろ。」
「そう来なくちゃ」
夜まで適当に時間を潰し、黒犬の指定した場所へ向かう。家には一度も帰らなかった。次覚悟が揺らいだら、もう進めないような気がしたから。
町の門をくぐり、ひたすら道を進み続ける。しばらく歩くと平原が森へと変わり、もう少し進むと左右に道の分かれる場所につく。
(ここら辺のはずなんだけど…)
右左を見渡すと左の方に、馬車が止まっているのが見える。馬車につるされたランタンが、その馬車の近くに佇む二つの人影を映していた。一人は背が高く筋肉質な男、もう一人は俺より背が低く小太りな男だった。
その二人に近づく。二人はこちらを無言で見つめる。
「俺は“黒ヤギ”って呼ばれてる。仕事に来た。」
そう、一言だけ言うと、背の高い男はニタニタと笑いながら返事をする。
「よろしくだ。俺は“鎧鼠”って呼ばれてるし、呼ばせてる。このデブのおっさんは…おっさんだ!」
小太りの男はため息をつく。
「いい加減名前覚えてくださいよ。私はティモと申します。」
「あぁ、そうだそうだキモだ!思い出した。」
「…ティモです。全然思い出せてないじゃないですか。まぁ、自己紹介はこんなところにしときましょう。早速出発しますので馬車に乗ってください。」
ティモはそういうと操縦席へ上り、馬の手綱を握る。“鎧鼠”と自称した男は、俺の前をズカズカと通り、荷車の幌をめくり、後ろからに乗り込む。俺もそれに続く。
幌馬車には、自分たちの他に人間が、9人ほど乗っていた。大人8人、子供1人。質素の服を着ていて、足枷や手錠で自由を奪われていた。荷物ってまさか!驚く俺に気がついた“鎧鼠”は笑う。
「これが俺たちの運ぶ“荷物”。つまみ食いは禁止だからな。」
左右に分かれ真ん中に道を作る“荷物”たち、“鎧鼠”はその道をふざけたことを言いながら、容赦なく歩き、荷車の前、操縦席のすぐ近くにドカッと腰を下ろすと、動けなくなっている俺に、
「何止まってんだ。早くここ座れよ。」
と自分の目の前の空いている場所を指さす。
最悪な夜が始まる。
ガタガタと揺れる馬車の中、ひたすら目の前の男はしゃべり続けていた。今まで何人殺したかとか、その中でも一番楽しかった殺しとか、事細かく。その話を通して、ひたすら自分が優れていること、自分がどれほど業魔として最強かを自慢し尽くしていた。俺は、ほとんどを聞き流していた。まともに聞いていたら不快感と怒りで吐き散らしていただろう。それに荷物呼ばわりされたこの人たちのことが、気になって仕方なかった。
「それでよぉ。俺のこと追ってきた異端審問官30人全員を殺したってわけ。しかもそいつらは大都市屈指の精鋭で…何?どうした?荷物なんかチラチラみて、誰か欲しいの?」
自慢話を聞いてもらえないのが不愉快なのか、不満そうに問いかけてくる。
「大事な商品なんで、勝手に盗らないでくださいよ。」
ティモが、こちらに振り返り言う。
「…この人たちは、これからどうなる?」
質問をぶつけると、大笑いしながら“鎧鼠”は答える。
「アハハハハハ!おまwお前顔に似合わず鬼畜だな!これからどうなるかこいつらに聞かせるのかよ。いいぜ、詳細に語ってやるよ!」
「こいつらは商品だ、人間に向けてじゃねぇ、各地の業魔に向けて売られる。俺らみたいなね。」
ヒラヒラと右手の甲を左右に振る。当たり前のように人権印が刻まれている。
「そんでもって、そいつらの“趣味”に使ってもらうってわけだ。俺は買ったことねぇけどな。俺は現地調達派だからな!」
聞くんじゃなっかった。最悪だ。俺は最悪なことに加担している。押さえつけていた罪悪感が溢れそうになる。
「ホント、業魔ってのは、どいつもこいつも粋な“趣味”持ってるからな!かくいう俺もだな…」
また自分の話をしようとし始めていた。話を遮り、思わず口をはさむ。
「なぜお前は、自分が業魔であることをそんなに嬉々として話せる?」
前々から抱いていた質問だった。俺は、自分が業魔だと知った時から一度も業魔であることに正の感情を抱いたことが無い。負の感情しか抱かなかった。だが会う業魔、会う業魔、全員が業魔に生まれたことに対して一切の後悔や疑問を抱いていなようだった。それどころか謳歌している。他人の人生を踏みにじれることに。
「まさか、お前、業魔に生まれたことを悔いてる系?珍しい“業魔”だなぁ」
興味深そうに驚き、顔を緩ませながら皮肉を込めて返される。
「俺は業魔に生まれたことを悔いている。人の命を踏みにじらなきゃ、使うことの赦されないこの力を憎んでいる!」
「そして他人の命を、物のように消費するお前ら業魔を嫌悪している!」
俺は強い口調で言い切る。だが“鎧鼠”はそのニタニタと顔を緩ませるのをやめなかった。
「ずいぶんな物言いだね。つまり俺みたいな自己中心の塊の業魔が大っ嫌いってわけだ。けどさ、それって業魔だけじゃないと思うんだよね。人間もそうだと思うんだけど。」
「それは違う、人は他人を思いやって行動することが出来る!」
「いやいや、人は誰しも心の中では自分が一番大切だし、自分の快楽のために他人を犠牲にするぜ。そういう自己中心さが人間の本質だと思うけどな、キンモもそう思うだろ?」
「…ティモです。まぁ私も常々そう感じますね。」
ティモはため息交じりにその意見に同意する。
「そう考えるとさぁ、ある意味、業魔は人間よりも“人間らしい”と思うんだよね。」
業魔が人間らしいだと!?怒りで腸が煮えくり返る。
「違う!人は他人を愛し、その人のために自分を犠牲にできる。お前ら業魔とは違う!」
俺は立ち上がり大声で反論する。その反論に“鎧鼠”は不思議そうな顔をする。
「お前ら、お前らって…何?自分は業魔じゃないっていうのか?お前も業魔だろ?自分の目的のために他人を犠牲にできるそうだろ?」
「違う!」
俺は…心だけは人なんだ!人であり続けるんだ。
「じゃあ、なんでこの仕事受けてんだ?自分の目的のためだろ?こいつら犠牲にしてさ」
後ろの9人を指している。どれもが衰弱し、絶望した顔をしていた。これからの地獄を想像して。
俺は…俺は…
「俺は…業魔なんかじゃ…」
瞬間馬車が急に止まり、転びそうになる。
「どうしたキンモ!」
突然の急停止に、驚いた“鎧鼠”はティモに確認をとろうとする。
「どうして異端審問官が…」
幌をめくり、前を覗く。森を抜け、平原に入るところだった。平原には多くの明りと、それに照らされる異端審問官たちがいた。しかも彼らは自分の良く知る顔たちだった。
(ダンさんたちの部隊!?なんでここに?)
昼間のエマさんの会話を思い出いし合点がいく。おそらくこの仕事のことが筒抜けだったんだ。でもなぜ?俺と同じように“鎧鼠”も覗き込むと満面の笑みをこぼす。
「お!やっとお出ましか!かなりの数いるなぁ、こりゃチクった甲斐があったぜ!キンモ何人まで使っていい?」
「まさか“鎧鼠”あなたまた!…はぁ、もういいです。二人までです。それが限界です。あと私の名前はティモです。」
「はいはい、分かった分かった。さてと」
振り返り品定めしようとする“鎧鼠”の前に立ちふさがる。
「どういうことだ、何が起こってる!?異端審問官を殺すきか!?」
「当たり前じゃん、そのために呼んだんだし。」
あっけらかんと答える。あきれながらティモは補足するように言葉を付け加える。
「その人が、自分で異端審問官にチクったんですよ。自分の力に浸るために。これで3度目ですよ、3度目!一緒に仕事する度にこんなことするんですよ!もう勘弁してほしいです。」
「そうそう、俺の粋な“趣味”ってわけだ。てことでどいてくんね?」
その言葉を無視して、立ちふさがり続ける。
「意味が分からない!なぜこんなことをするんだ!」
「気持ちいもん、人殺すの」
まともに話すのも馬鹿らしい。ダンさんと殺し合いなんかさせる訳にはいかない。ひたすら叫ぶ。
「今からでも遅くない。別の道から行くべきだ!異端審問官とやりあうなんてリスクが高すぎる!」
ひたすら聞こえの言い代案を並べる。何とかしなければ…ダンさん達が傷ついたり、殺されたりするのなんて絶対見たくない!そんなこと起きてはならない!
“鎧鼠”は少し考えた後、ニコッと笑う。
「確かにそうだな、危険かもしれん。それにそもそも俺たちの目的は荷物の護衛だしな!別の道から迂回するか。俺が間違ってたよ。」
俺の両肩に両手を乗せる。こいつ分かってくれ…
「って言うわけねぇだろ!この俺様がよぉ!」
そう言い放ち、両手で俺を引き寄せ、みぞおちに膝蹴りが食い込ませてくる。
「かはっ!」
腹部を襲う激痛に悶え、崩れ落ちる。内臓がひっくり返るようだった。苦しむ俺に容赦なく蹴りを加え続ける。
「俺の!楽しみを!奪うんじゃ!ねぇ!クソが!よ!」
ひとしきり蹴り続けた後、息をふーっと吐くと、膝を曲げ俺の顔を覗き込む。
「俺様は最強なんだ。ここ安心して、よーく見とけ、この平原が異端審問官の臓物で飾られていく様をよぉ。」
(やめ…ろ、お願いだ、やめてくれ)
痛みで声の出ない俺をよそに、“鎧鼠”はおびえる荷物の品定めを再開する。そして子供を抱き寄せる女性の前まで行く
「この子供にするか。」
女性から子供を奪い取る。女性は懇願し足に縋りつく。
「お願いします!息子だけは息子だけはどうか」
“鎧鼠”はわざとらしく考えると、あっ!と何かを閃いたようなそぶりを見せた後、ニタニタと笑う。
「そうだね。“子供だけ”じゃ、かわいそうだから、君とこの子にするね!」
女性の腕をつかみズルズルと引きずり、馬車を降りる。馬車の外から子供と女性の泣き叫ぶ声が聞こえる。
「アマルティア」
幌の向こうから肉が溶け合い、ボコボコとその形を変えていく音だけが聞こえる。
悪夢が始まる。
「どうも“黒ヤギ”くん。“黒ヤギ”くんは時間守ってくれるからありがたいよ。ほかのやつらじゃこうはいかないよね。この前なんて2時間も待たさr」
「“黒犬”、世間話はいいから」
話を遮る。こいつはしゃべりだすと延々としゃべり続ける。
「はいはい、冷たいなぁ君は。」
“黒犬”と呼んでいるこいつも、業魔だ。俺に人権印を刻んだ野郎に仕事が欲しいと連絡した日から、こいつは現れるようになった。仕事とその報酬を携えて。
“黒犬”は左手で短い黒髪を触りながら立ち上がると、近くに置いてあった袋を掴み、俺に手渡す。その右手の甲には当然のように人権印が刻まれている。
渡された袋から、ずっしりとした重みを感じる。中をのぞくと、いっぱいに金貨が詰め込まれていた。
「全額しっかり入ってるよ。俺、確認したんだ。」
それは本当のようで、追加の報酬も全額しっかりと入っていた。
(もうすぐだ。あと何回か仕事を受ければ…医療費まで届く!あと少し、あと少しなんだ。)
父さんが望んでいようといまいと関係ない。治療さえ受けてくれればそれで…。俺の中から溢れ出そうとする罪の意識を、無理やり押さえつける。
「“パパ”も仕事熱心で嬉しいって、仕事をあげた甲斐があるって言ってたよ。」
ニコニコと、首に下げている沢山の白い装飾のついたネックレスをいじりながら、話しかけてくる。黒い服を着ていると白い装飾はいやでも目立つ。その装飾品をよく見ると、それは“歯”だった。
「お!“黒ヤギ”くんも興味ある?これエミリアって子の下顎の歯なんだけど、その子とっても歯が綺麗d」
気色の悪い趣味だ。憤りを噛み殺し、話を遮る。
「仕事はあるのか?すぐ受けられるやつ。」
“黒犬”はニコッと笑う。
「あるよ。今日の夜、この町のすぐ近くで、荷物の護衛だって。ほかの業魔もいるから楽だと思うよ。」
「どうする?やる?」
迷ってる時間なんてなかった。俺のやっていることは、自己満足なのかもしれない、自己中的なのかもしれない。けどそれを苦悩する過程にもういないのだ。もう後戻りできないところまで来ているんだ。
自分に言い聞かせる。迷う暇を与えないように、
「…受ける。詳しい場所を教えろ。」
「そう来なくちゃ」
夜まで適当に時間を潰し、黒犬の指定した場所へ向かう。家には一度も帰らなかった。次覚悟が揺らいだら、もう進めないような気がしたから。
町の門をくぐり、ひたすら道を進み続ける。しばらく歩くと平原が森へと変わり、もう少し進むと左右に道の分かれる場所につく。
(ここら辺のはずなんだけど…)
右左を見渡すと左の方に、馬車が止まっているのが見える。馬車につるされたランタンが、その馬車の近くに佇む二つの人影を映していた。一人は背が高く筋肉質な男、もう一人は俺より背が低く小太りな男だった。
その二人に近づく。二人はこちらを無言で見つめる。
「俺は“黒ヤギ”って呼ばれてる。仕事に来た。」
そう、一言だけ言うと、背の高い男はニタニタと笑いながら返事をする。
「よろしくだ。俺は“鎧鼠”って呼ばれてるし、呼ばせてる。このデブのおっさんは…おっさんだ!」
小太りの男はため息をつく。
「いい加減名前覚えてくださいよ。私はティモと申します。」
「あぁ、そうだそうだキモだ!思い出した。」
「…ティモです。全然思い出せてないじゃないですか。まぁ、自己紹介はこんなところにしときましょう。早速出発しますので馬車に乗ってください。」
ティモはそういうと操縦席へ上り、馬の手綱を握る。“鎧鼠”と自称した男は、俺の前をズカズカと通り、荷車の幌をめくり、後ろからに乗り込む。俺もそれに続く。
幌馬車には、自分たちの他に人間が、9人ほど乗っていた。大人8人、子供1人。質素の服を着ていて、足枷や手錠で自由を奪われていた。荷物ってまさか!驚く俺に気がついた“鎧鼠”は笑う。
「これが俺たちの運ぶ“荷物”。つまみ食いは禁止だからな。」
左右に分かれ真ん中に道を作る“荷物”たち、“鎧鼠”はその道をふざけたことを言いながら、容赦なく歩き、荷車の前、操縦席のすぐ近くにドカッと腰を下ろすと、動けなくなっている俺に、
「何止まってんだ。早くここ座れよ。」
と自分の目の前の空いている場所を指さす。
最悪な夜が始まる。
ガタガタと揺れる馬車の中、ひたすら目の前の男はしゃべり続けていた。今まで何人殺したかとか、その中でも一番楽しかった殺しとか、事細かく。その話を通して、ひたすら自分が優れていること、自分がどれほど業魔として最強かを自慢し尽くしていた。俺は、ほとんどを聞き流していた。まともに聞いていたら不快感と怒りで吐き散らしていただろう。それに荷物呼ばわりされたこの人たちのことが、気になって仕方なかった。
「それでよぉ。俺のこと追ってきた異端審問官30人全員を殺したってわけ。しかもそいつらは大都市屈指の精鋭で…何?どうした?荷物なんかチラチラみて、誰か欲しいの?」
自慢話を聞いてもらえないのが不愉快なのか、不満そうに問いかけてくる。
「大事な商品なんで、勝手に盗らないでくださいよ。」
ティモが、こちらに振り返り言う。
「…この人たちは、これからどうなる?」
質問をぶつけると、大笑いしながら“鎧鼠”は答える。
「アハハハハハ!おまwお前顔に似合わず鬼畜だな!これからどうなるかこいつらに聞かせるのかよ。いいぜ、詳細に語ってやるよ!」
「こいつらは商品だ、人間に向けてじゃねぇ、各地の業魔に向けて売られる。俺らみたいなね。」
ヒラヒラと右手の甲を左右に振る。当たり前のように人権印が刻まれている。
「そんでもって、そいつらの“趣味”に使ってもらうってわけだ。俺は買ったことねぇけどな。俺は現地調達派だからな!」
聞くんじゃなっかった。最悪だ。俺は最悪なことに加担している。押さえつけていた罪悪感が溢れそうになる。
「ホント、業魔ってのは、どいつもこいつも粋な“趣味”持ってるからな!かくいう俺もだな…」
また自分の話をしようとし始めていた。話を遮り、思わず口をはさむ。
「なぜお前は、自分が業魔であることをそんなに嬉々として話せる?」
前々から抱いていた質問だった。俺は、自分が業魔だと知った時から一度も業魔であることに正の感情を抱いたことが無い。負の感情しか抱かなかった。だが会う業魔、会う業魔、全員が業魔に生まれたことに対して一切の後悔や疑問を抱いていなようだった。それどころか謳歌している。他人の人生を踏みにじれることに。
「まさか、お前、業魔に生まれたことを悔いてる系?珍しい“業魔”だなぁ」
興味深そうに驚き、顔を緩ませながら皮肉を込めて返される。
「俺は業魔に生まれたことを悔いている。人の命を踏みにじらなきゃ、使うことの赦されないこの力を憎んでいる!」
「そして他人の命を、物のように消費するお前ら業魔を嫌悪している!」
俺は強い口調で言い切る。だが“鎧鼠”はそのニタニタと顔を緩ませるのをやめなかった。
「ずいぶんな物言いだね。つまり俺みたいな自己中心の塊の業魔が大っ嫌いってわけだ。けどさ、それって業魔だけじゃないと思うんだよね。人間もそうだと思うんだけど。」
「それは違う、人は他人を思いやって行動することが出来る!」
「いやいや、人は誰しも心の中では自分が一番大切だし、自分の快楽のために他人を犠牲にするぜ。そういう自己中心さが人間の本質だと思うけどな、キンモもそう思うだろ?」
「…ティモです。まぁ私も常々そう感じますね。」
ティモはため息交じりにその意見に同意する。
「そう考えるとさぁ、ある意味、業魔は人間よりも“人間らしい”と思うんだよね。」
業魔が人間らしいだと!?怒りで腸が煮えくり返る。
「違う!人は他人を愛し、その人のために自分を犠牲にできる。お前ら業魔とは違う!」
俺は立ち上がり大声で反論する。その反論に“鎧鼠”は不思議そうな顔をする。
「お前ら、お前らって…何?自分は業魔じゃないっていうのか?お前も業魔だろ?自分の目的のために他人を犠牲にできるそうだろ?」
「違う!」
俺は…心だけは人なんだ!人であり続けるんだ。
「じゃあ、なんでこの仕事受けてんだ?自分の目的のためだろ?こいつら犠牲にしてさ」
後ろの9人を指している。どれもが衰弱し、絶望した顔をしていた。これからの地獄を想像して。
俺は…俺は…
「俺は…業魔なんかじゃ…」
瞬間馬車が急に止まり、転びそうになる。
「どうしたキンモ!」
突然の急停止に、驚いた“鎧鼠”はティモに確認をとろうとする。
「どうして異端審問官が…」
幌をめくり、前を覗く。森を抜け、平原に入るところだった。平原には多くの明りと、それに照らされる異端審問官たちがいた。しかも彼らは自分の良く知る顔たちだった。
(ダンさんたちの部隊!?なんでここに?)
昼間のエマさんの会話を思い出いし合点がいく。おそらくこの仕事のことが筒抜けだったんだ。でもなぜ?俺と同じように“鎧鼠”も覗き込むと満面の笑みをこぼす。
「お!やっとお出ましか!かなりの数いるなぁ、こりゃチクった甲斐があったぜ!キンモ何人まで使っていい?」
「まさか“鎧鼠”あなたまた!…はぁ、もういいです。二人までです。それが限界です。あと私の名前はティモです。」
「はいはい、分かった分かった。さてと」
振り返り品定めしようとする“鎧鼠”の前に立ちふさがる。
「どういうことだ、何が起こってる!?異端審問官を殺すきか!?」
「当たり前じゃん、そのために呼んだんだし。」
あっけらかんと答える。あきれながらティモは補足するように言葉を付け加える。
「その人が、自分で異端審問官にチクったんですよ。自分の力に浸るために。これで3度目ですよ、3度目!一緒に仕事する度にこんなことするんですよ!もう勘弁してほしいです。」
「そうそう、俺の粋な“趣味”ってわけだ。てことでどいてくんね?」
その言葉を無視して、立ちふさがり続ける。
「意味が分からない!なぜこんなことをするんだ!」
「気持ちいもん、人殺すの」
まともに話すのも馬鹿らしい。ダンさんと殺し合いなんかさせる訳にはいかない。ひたすら叫ぶ。
「今からでも遅くない。別の道から行くべきだ!異端審問官とやりあうなんてリスクが高すぎる!」
ひたすら聞こえの言い代案を並べる。何とかしなければ…ダンさん達が傷ついたり、殺されたりするのなんて絶対見たくない!そんなこと起きてはならない!
“鎧鼠”は少し考えた後、ニコッと笑う。
「確かにそうだな、危険かもしれん。それにそもそも俺たちの目的は荷物の護衛だしな!別の道から迂回するか。俺が間違ってたよ。」
俺の両肩に両手を乗せる。こいつ分かってくれ…
「って言うわけねぇだろ!この俺様がよぉ!」
そう言い放ち、両手で俺を引き寄せ、みぞおちに膝蹴りが食い込ませてくる。
「かはっ!」
腹部を襲う激痛に悶え、崩れ落ちる。内臓がひっくり返るようだった。苦しむ俺に容赦なく蹴りを加え続ける。
「俺の!楽しみを!奪うんじゃ!ねぇ!クソが!よ!」
ひとしきり蹴り続けた後、息をふーっと吐くと、膝を曲げ俺の顔を覗き込む。
「俺様は最強なんだ。ここ安心して、よーく見とけ、この平原が異端審問官の臓物で飾られていく様をよぉ。」
(やめ…ろ、お願いだ、やめてくれ)
痛みで声の出ない俺をよそに、“鎧鼠”はおびえる荷物の品定めを再開する。そして子供を抱き寄せる女性の前まで行く
「この子供にするか。」
女性から子供を奪い取る。女性は懇願し足に縋りつく。
「お願いします!息子だけは息子だけはどうか」
“鎧鼠”はわざとらしく考えると、あっ!と何かを閃いたようなそぶりを見せた後、ニタニタと笑う。
「そうだね。“子供だけ”じゃ、かわいそうだから、君とこの子にするね!」
女性の腕をつかみズルズルと引きずり、馬車を降りる。馬車の外から子供と女性の泣き叫ぶ声が聞こえる。
「アマルティア」
幌の向こうから肉が溶け合い、ボコボコとその形を変えていく音だけが聞こえる。
悪夢が始まる。
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ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
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