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#38 悪足掻きをする男
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「私がママ活で会ったのは、……縁司さんじゃないんじゃないのかしら」
席立ったまま戻らない席には、扇と海潮だけであった。
考える時間も、憶測を立てる時間も十分ある中で海潮がボヤいた。
誰に告げるでもない、ただの独り言であり、自問自答の言葉に過ぎない。
「ぅんー~~どうなのかなぁー?」
海潮のボヤきに扇も顔を横に倒してはにかんだ。
薄々ではあるが彼も同じ考えに辿り着いてはいるのだが。
(自信はあるんだけど、がっつくのはねぇw)
押しつけや、決めつけの行為を縁司に訊ねる真似はしたくなかった。
あくまでもシラを切るのであれば、このまま《ごっこ》を続けるしかない。
あの日、ママ活で出会い。
店に来たのは、今ここにいる縁司なのだと。
店の経営者である竜司は関係が、全くないのだと。
(せめて。自白をしてくれれば楽なんだけどなぁwwwww)
だが。脳が、その可能性を拒絶してしまう。
あり得ない、と。
「参ったなぁw」
困惑し、感情もまとまらない中。
「ただいま!」
「遅くなりましたぁー~~」
長谷部と縁司が戻って来た。
一緒に戻って来た縁司は、身代わりの竜司ではなく本人だ。
◇
「行きなよ♡」の縁司の言葉に、
「む、無理だよぉう!?」
竜司は高速で両手をかぶり振ると床にしゃがみ込んでしまう。
「兄貴ぃー?」
「っぼ、僕はさぁ? ぉ、おじさんなんだもんっ」
声を震わせる竜司の顔は耳まで真っ赤である。
「身代わりなんかっ!」
「そぉうかなぁー?」
ちょこんと縁司も竜司の目の前にしゃがんだ。
「あんまり気にしないと思うけど? 兄貴って童顔じゃんかー」
「っぼ、僕が気にするんだよ!」
「ああーなるほどねー」
膝を叩くと縁司は立ち上がった。
「馬鹿じゃねーの?」
◆
「ぅうう」
裏方から竜司は、彼らの席を見て唸っていた。
正直にいえば、交代をしたかった。
しかし、今この時間が一番の客入り時であって、商品を切らすことも出来ない。
今から仕込みもしなければならないという経営者としての仕事も山積みの中で。
「無理なんだもぉんンん!」
ボウルの中の白身をミキサーで回す。
怒りと憤りと悲しみを混ぜ込み泣き言を漏らすことしか出来ない。
「僕だって! 僕だってっ、ぅううぅ~~」
「行けばいいじゃない」
見かねた恵が竜司に声をかけた。
「閉店も近いし、もう焼かなくたっていいんじゃないスかね?」
「でも、もうショーケースの中のケーキもないんだ。追加で焼かないといけないのは、恵君だって分かってるよね?」
頬を膨らませ唇を噛み締めて、真剣な表情と硬い口調の言葉を吐いた。
それには恵も、思わない反撃とも捉えなかった。
ショーケースの中の商品がないのは恵も分かっていたからだ。
承知の上で言ったのがいけなかった。
「すいま――」
「いいよ。うん、…僕の為を想って言ってくれたんだって知ってるし。気を使わせて悪かったって思うよ」
にこやかにはにかんだ竜司は恵の胸板を軽く叩く。
「ごめんよぉう。いい歳したおじさんなのに、こんなダメダメで…」
気分も沈みに沈ませていく様子の竜司に、
「こんな手はどうですかね?」
両手を合わせて恵が提案をした。
席立ったまま戻らない席には、扇と海潮だけであった。
考える時間も、憶測を立てる時間も十分ある中で海潮がボヤいた。
誰に告げるでもない、ただの独り言であり、自問自答の言葉に過ぎない。
「ぅんー~~どうなのかなぁー?」
海潮のボヤきに扇も顔を横に倒してはにかんだ。
薄々ではあるが彼も同じ考えに辿り着いてはいるのだが。
(自信はあるんだけど、がっつくのはねぇw)
押しつけや、決めつけの行為を縁司に訊ねる真似はしたくなかった。
あくまでもシラを切るのであれば、このまま《ごっこ》を続けるしかない。
あの日、ママ活で出会い。
店に来たのは、今ここにいる縁司なのだと。
店の経営者である竜司は関係が、全くないのだと。
(せめて。自白をしてくれれば楽なんだけどなぁwwwww)
だが。脳が、その可能性を拒絶してしまう。
あり得ない、と。
「参ったなぁw」
困惑し、感情もまとまらない中。
「ただいま!」
「遅くなりましたぁー~~」
長谷部と縁司が戻って来た。
一緒に戻って来た縁司は、身代わりの竜司ではなく本人だ。
◇
「行きなよ♡」の縁司の言葉に、
「む、無理だよぉう!?」
竜司は高速で両手をかぶり振ると床にしゃがみ込んでしまう。
「兄貴ぃー?」
「っぼ、僕はさぁ? ぉ、おじさんなんだもんっ」
声を震わせる竜司の顔は耳まで真っ赤である。
「身代わりなんかっ!」
「そぉうかなぁー?」
ちょこんと縁司も竜司の目の前にしゃがんだ。
「あんまり気にしないと思うけど? 兄貴って童顔じゃんかー」
「っぼ、僕が気にするんだよ!」
「ああーなるほどねー」
膝を叩くと縁司は立ち上がった。
「馬鹿じゃねーの?」
◆
「ぅうう」
裏方から竜司は、彼らの席を見て唸っていた。
正直にいえば、交代をしたかった。
しかし、今この時間が一番の客入り時であって、商品を切らすことも出来ない。
今から仕込みもしなければならないという経営者としての仕事も山積みの中で。
「無理なんだもぉんンん!」
ボウルの中の白身をミキサーで回す。
怒りと憤りと悲しみを混ぜ込み泣き言を漏らすことしか出来ない。
「僕だって! 僕だってっ、ぅううぅ~~」
「行けばいいじゃない」
見かねた恵が竜司に声をかけた。
「閉店も近いし、もう焼かなくたっていいんじゃないスかね?」
「でも、もうショーケースの中のケーキもないんだ。追加で焼かないといけないのは、恵君だって分かってるよね?」
頬を膨らませ唇を噛み締めて、真剣な表情と硬い口調の言葉を吐いた。
それには恵も、思わない反撃とも捉えなかった。
ショーケースの中の商品がないのは恵も分かっていたからだ。
承知の上で言ったのがいけなかった。
「すいま――」
「いいよ。うん、…僕の為を想って言ってくれたんだって知ってるし。気を使わせて悪かったって思うよ」
にこやかにはにかんだ竜司は恵の胸板を軽く叩く。
「ごめんよぉう。いい歳したおじさんなのに、こんなダメダメで…」
気分も沈みに沈ませていく様子の竜司に、
「こんな手はどうですかね?」
両手を合わせて恵が提案をした。
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