ノゾミノナカと悪霊迷宮の殺人鬼

ちさここはる

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第29話 2階の2人と1匹

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 勢いがあるというのに。
 巨人が振り落した武器の動きは、スローモーションのようだった。

「ひんぎゃああああぁ゛~~でやんすぅ~~‼」

 悲鳴を漏らすたぬ吉。
 その突然の攻撃に動いたのは。

「あ。まどか?!」

 握っていた手を離し――……。

「ごめんね。のなかちゃん」

 桜木が走った。
 背中から金属バットを取り出し、肩を回した。
 そして、両手で持ち、突進する。

「私が倒すよ!」

 振り落された武器に。
 桜木が、金属バットを力強く押し当てて。
 火事場の馬鹿力のように。

 武器を弾いた。

 よろ、り……。

 巨人の身体が、よろけた。
 持っていた武器も。
 その衝撃で、弾き飛んでいた。
 
「っはぁ……っはぁ……」

 桜木が荒く息を吐いた。
「まどか!」
「のなか、ちゃん」
「行くわよ」

 きゅ。

 振りほどかれた手を、希美が繋いだ。

「そうでやんす! 逃げるなら、今しかないでやんしょう!」
 たぬ吉も賛同した。
「でも、でもでやんすよ?!」
「? どうかしたの、たぬ吉?」
 希美が、下のたぬ吉に聞き返したが、
「のなかちゃん、早く、行かないとーー……」
 そこに桜木が割り込む。
「そうね。上に行きましょう!」
「分かりやしたでやんす!」

 たたたた!

 ったったったった!

「追っては来ないようね。あの巨人は」
 希美が、振り返る。
 姿、形もない。
 思わず、握っている手にも、力が籠ってしまう。
「った、ぃよ。のなか、ちゃん」
 桜木が、小さく言う。
「ごめんなさい。まどか」
 希美が手を離した。
「ううん」
 にこやかに微笑み返す桜木。

 しかし。

「振り出しに戻った感じでやんすね~~」

 たぬ吉が、ぽつりと漏らした。
 その言葉に。
 希美も頷く。

「そうね」

 今は2階。
 下には戻れない。
 巨人によって、下りがめちゃくちゃに破壊されてしまっている。
 エスカレーター部分だけで、階段側はどうだろうか。
(非常口階段は、密閉の上、逃げ口も塞がれてしまったら……)
 希美が、ふさぎ込む。
「――終わりだわ」
 心の声が、口から洩れてしまう。

「「終わりじゃない」」
 でやんす! と桜木とたぬ吉の声が同調シンクロする。
「だって、のなかちゃん」
 もじ、と桜木が目を伏せる。
「私たち、生きているじゃない」
 頬が、ほのかに赤くなる。
「でやんす! おいらも、無事に居るでやんすよ~~!」
 2人の言葉に。

「そうね。まだ、これからよね」

 希美は微笑んだ。

「私ったら、馬鹿ね」

 たぬ吉の毛を撫でた。
「ぁ、あああ~~♡」
 その優しい手つきに、たぬ吉も身悶えてしまう。
「姐す、わぁ~~ん♡♡」
 暗闇に響く、甘えたたぬ吉の声が響く。

 そこに桜木が、
「あのね、あのね。のなか、ちゃん」
 提案する。

「4階のB館通路を渡ったらどう、かな?」
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