ノゾミノナカと悪霊迷宮の殺人鬼

ちさここはる

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第75話 時間よ、止まれ!

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提灯霊バケモ万物チョロスト》が淡く照らし出す階層。
 黒いマネキンに襲われる桜木と日向ひゅうが
 それを宙から見下ろす格好の希美と、たぬ吉。

 全体を不敵に嗤い。
 覗く――篠崎琢磨。

「篠崎ぃいい!」

 鋭い声で希美が篠崎に叫んだ。
「早く! 教えなさい‼」
『教えて下さい♡ ってさー可愛くいったら、教えてやんのにさー』
「篠崎。あなたなの趣向に合わせる時間も余裕もないのよ!」
『へーへー~~』

「ああ、姐さんンん?? その人間は、一体全体として、誰でやんすかぁ~~?!」

 たぬ吉の最もな質問に、
「いいのよ。たぬ吉は覚えなくたって」
 素っ気なく応えた。
 つれない希美にたぬ吉の口元も、への字になっていく。
 それに。
 希美も、苦笑して優しく頭を撫ぜた。
「ごめんなさい。でも、たぬ吉。このことはー忘れてちょうだい」
「?? はいでやんす!」
 にこやかにたぬ吉も返事をした。
「いい子ね。たぬ吉」
「えへへ~~で、や~~んすぅ~~♡」
 
『で。茶番は済んだかい?』

 鼻で吐き捨てる篠崎に、希美は「茶番なんかじゃないわよ」と短くいい。
 立ち上がって杖を回転させた。

 ヒュン!

「行きましょう」

『おばさんは勇ましいねェ』
「どうして。あなたは――私を、おばさんというのかしら。同年代一緒じゃない」
『ま。ね? 秘密w』
「別に構わないけど」

『じゃあ。悪魔に心臓を売り渡す準備はいいかいw』

 希美の耳元で篠崎が囁いた。
 そして。
 希美の腕に、手を添えた。
『僕の言葉を繰り返しな』
 立体のない彼の手からは、なんの温もりも伝わって来ない。

(篠崎。あなたは、いま――どこにいるの?)

 ◆

 ぜぇ、ぜぇ。

「しかし。この者たちはまったく減る様子がないのだ」
「ううん。やっぱり、このショッピングモールには店が多いから。その分、倉庫にもあるんだと思い、ます」
「ソウコ? ふむ。厄介なのだ」
 銛を強く握り、顔を苦笑に歪ませる日向。
 それは。
 桜木も、同様で。
 金属バットを握り締め直した。
「ううん。厄介です!」

 ガッキィイインんンッッ‼

 フルスイングし、黒いマネキンの頭を玉砕する桜木。
 焦燥感は拭えない。

 いつまでも、こんなところで居座るわけにはいかない。

 この。
 こんな状況に陥ってしまった原因が桜木自身にある以上。
 どうにか打開したかった、ものの。
 なにも、考えが浮かばないのが実情だ。

「も。私の……ばかぁ」

 ぐす、っと涙が目を覆っていく。

「《時間よ! 一刻の猶予を‼》」

「!? ――え??」

 その言葉と、ほぼ同時に。
 黒いマネキンたちの動きが静止した。
 心なしか、周りの空気も重い。

「まどかぁああッッ‼」

「のなか、ちゃん……なの?」

 桜木の視線は、頬を朱に染める希美に釘づけだった。
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