魔法少女になったら人生変わった。〜君は僕の宝物、だなんて、言わないけどな〜

ちさここはる

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其の70 淫乱*純愛

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 恵比寿の心臓が高鳴った。
 ドロヌトクロトファーの囁きに。

「貴様が、私の恋人になるのならな」

 目が大きく見開かれた。
 そして、細くなる。
「恋人~~??」
「なんだ、その目は!」
「ビトーが恋人だもん」

 ドロヌトクロトファーは口をへの字にさせた。
 そして、恵比寿の拘束を解く。
「‼ ぅ、わ!」
 恵比寿がベッドから逃げ出した。
 窓際に。
 露骨な態度に。

「貴様……っち」

 しかし、ドロヌトクロトファーは追わない。
「もう、帰ってよ~~」
「返事を貰ったら帰るとしよう」
「だから~~俺には~~っっ!」
 平行線に続く会話。
 そこへ。

 会談を駆け上がってくる音が聞こえた。
「わ゛」
 力強い音だった。
 三好なのか、とらなのか。
 恵比寿の身体が硬直する。
 こっちじゃないことを祈りながら。
 その音の行き先を聞く。

 ダンダンーー……。

(おお、俺の部屋の前~~??)

 ガチャ!

「!? ぁ、と……」

 恵比寿の目に映ったのは。
「ぁ、あああ、ア゛……あァ゛」
 ビトーだった。
「や、ぁ、ち、が……っつ!」
 無言で。
 不機嫌にビトーが恵比寿を見た。
「ドロヌトクロトファー様」
 気迫が籠った声が、部屋に響く。
「なんだ。お前は」
「ドロヌトクロトファー様……」
 立ちすくんでいるビトー。

「何をしているんですか」
 
 ゆっくりとした足取りで、ビトーが恵比寿に駆け寄る。
 言葉なくしゃがみ込んで。
 優しく恵比寿を抱擁した。
 その優しさに。

「ビトー……びとぉ~~‼」

 恵比寿は、泣き声を上げて。
 ビトーにしがみついた。
「うん。いいよ、も。大丈夫だ」
「ぅ゛ん゛! う゛ん゛!」
 その甘ったるい雰囲気に。

(なんだ、この……胸やけのする空気は)

 ドロヌトクロトファーが肩で息を吐いた。
「私はお前のご主人様だぞ??」
「ええ、僕はしもべに過ぎません」
 
 キッ!

「ですが! タカラは僕の恋人です‼」
 強い口調で言い捨てたビトーの気迫に、ドロヌトクロトファーは負けた。
「しかし、そいつは私のものになるのだ」
 だが、ビトーに宣戦布告をする。

「私の恋人になるのだ」

 不敵にほほ笑む表情に。
 ビトーの顔から表情が消えた。

「消えて下さい。ドロヌトクロトファー様」

 ビトーの胸元に恵比寿は顔を埋めた。
 心臓音が、脈も。

 全てが、ざわめき。
 ビトーの動揺が、手に取るように分かる。
 その原因は。

(俺のせいだ)

 ギュ! と恵比寿が目を閉じた。
「大丈夫だ。タカラ」
 頭を優しく撫ぜるビトー。
「大丈夫だから」

 ドロヌトクロトファーは、身体を翻した。
 そして、部屋から出て行った。

 パタン――……。

「ふぅ……」

 ぎゅううううう。
「タカラ、痛いよ」
 ビトーの身体に恵比寿が腕を回し。
 強く巻きついていた。
「もう。ドロヌトクロトファー様はお帰りになった」
「ん」
 ビトーが腰を据え。
 恵比寿の頭を撫ぜる。

 心臓音も、脈も。
 落ち着きを取り戻していた。

「ビトー……」
「ん? どうかしたのかい?」
「――……して」

 強張った声が恵比寿から発せられた。
 ビトーも耳を疑った。

「タカラ、落ち着きなさい」

 平静を装いながら、恵比寿の声をかける。
 勢いよく、恵比寿の顔が上がった。

「上書きして! 身体が気持ち悪いんだよぉう~~」

 泣きじゃくる恵比寿に。
 ビトーの目も、宙を泳ぐ。
「風呂に入れば大丈夫だ。洗ってやろう」
「やだ、ヤダ! び、ビトーは俺をだ、抱きたくないの??」
 ビトーの口が震える。

「抱きたいよ! ……しかし、まだ……その」

 目を伏せるビトーに。
「何?! なんなのさ!」
 癇癪を起す恵比寿に。
「胸が、キュンキュン鳴らない……んだ」
 小さく、そう漏らした。

 ◆◇

『胸がキュンキュンなったら言え! そしたららせてやる! それまでお預けだ!』

 ◇◆

「ぁ」

 恵比寿が口を小さく開けた。
 その表情に、ビトーが顔を横にして。

「ドロヌトクロトファー様が、タカラと一緒にしたかと思うと、悔しく、怒りが込み上がり、反旗を起こしたくもなり。今は、どうするべきなの――」

 恵比寿がビトーの頬に手を置き。
 顔を寄せ、口づけをする。

 恋人同士の甘い口づけを。
 恵比寿はしようと、いや、した訳だ。

「それが、キュンキュンしてる証拠なんじゃないの? ビトー」

 苦笑交じりに恵比寿が言う。
「! そ、ぅなのか?? ああ、そうか! この不愉快な気持ちがそうなんだね??」
「ん~~……不愉快?? ぁ゛~~そうなの、かなぁ~~??」

 子供の恵比寿にも。
 そこまでは分からない。

 でも。

「ビトー、好きだよ」
「ああ、僕もだ」

 恵比寿も、ビトーにも。
 関係ないことだった。

 愛の前では、何もかも。

「ね。抱いて?」
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