ハリス

たき火

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月のうすいひかり

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 ハリスは、夜がきらいであるのだけれど、これとはまた別に、月を見ることは、うすい光が、自分に何か大切なことを教えてくれている様で、すきであった。

 一日の終わるときは、かならず悲しい気持ちになるのだけれど、また新しい物語がはじまる様な、月のうすい光が、彼をやさしく、はぐれないように、つかまえてくれて、どこかへ連れていってくれる様で、きっとそれが、大切なことを教えてくれる様で、ハリスは、うれしい気持ちになった。

 ハリスは、少しずつ自分の、心の中にあるおかしな部分が、ほんとに少しずつ、変わっていくことを、まったく喜ばなかった。いや、むしろ、そのことを、恐れた。

 ハリスは、外へ顔をやると、黒い世界に自分の考えを、張り付けるような目で、一番輝いている星を見た。

 ハリスは、きれいに部屋を片づけると、何も持たないで、ベッドの上にいる黒猫に、さよならと、小さな声で言って、自分の部屋の扉を開けると、廊下へ出た。

 月のうすい光が、つきあたりの窓から入ってきていて、ハリスはその、月のうすい光を、たどる様に歩いて、右手に見える階段を、寝室で寝ている父さんや母さんを起こさないように、静かに下りていった。

 ハリスは、この日の夜、月に誘われた様に、誰にも、何も言わないで、家を出た。

 ハリスは、もうここへは戻らないと決めていた。それがいいと思っていた。

 周りの、闇に包まれた風景が、ぼやけて見えた。

 ハリスは、自分は何なのか、知りたい。それは確かであった。

 今までの生活で培った様々なことに矛盾を感じていて、肯定できないでいて、困って、何かしらここでは学ぶことの出来ない、本当のことを知りたがっていて、そしてそれを、深く望んだ。

 ここには答えがないということが、目に見えていたのかもしれなかった。

 しかし、月のうすい光は、ハリスをやさしく、受け止めてくれていて、その時は一筋の希望の上に、自分がいる様に思えた。それは、不思議と、呼吸をすることと同じ様で、自然であった。

 ハリスは、前へ踏み出そうとした。

 すると、どうしてか彼は、いつの日か後悔してしまう様な、まとわりつく、よどよどしたものに、さえぎられた。

 それは、実のところ、今すぐにでも、誰かが自分に襲いかかってきて、何か大変なことに巻き込まれてしまう様な、恐さと、彼の本心の裏側にある、まだ形として、しっかり出来ていない、弱々しい天秤の、片方へながれこむ量だけ、それは大きくゆりうごき、いつか、それが均等を保てなくなってしまう様な、不安であった。

 ハリスは、追い払おうとしたが、無理であったから、足もとを照らす、月のうすい光を見て、そして、夜空に目を向けた。

 深呼吸して、どこへ行こうかと、ハリスは考えた。しかし、どこでもいいと思った。

 ハリスは、しばらくして前へ進んだ。月の下を黒く塗った地の上を、何も持たずに前へ進んだ。

月のうすい光が、道をつくってくれていて、やはり、その光は、どこに繋がっているのか分からなかった。

 ハリスは、長い間、その道を歩いていると、老婆が、木のベンチへ腰掛けているのに、気が付いた。

 暗い夜の中で一人、老婆はベンチに座っていた。

 ハリスは、こんばんは、と言い、通り過ぎようとしたが、老婆が、何か話をし始めたので、ハリスは、隣に座り、話を聞くことにした。

少しも恐くはなく、親しみのある口調であるから、心配はいらないと、ハリスは思った。

その声は、しかし、かすれていた。

「どこへ行くのか?」
「知りません、前に進めば何かあるかと」
「そうですか、何かありますか、それはいい、きっと何かありますよ」
「それはうれしい、でもなぜ分かるのか?」
「ええ、分かるとも、あなたのその青い瞳は、この世を探り続けていますよ」
「はい、探しています、でもどこにあるのか知りません」
「それはそうでしょう」
「なぜです?」
「なぜって、面白いことを聞きますね、あなたは今探しているのでしょう?」
「はい」
「ではもうすでに、分かっているではないですか」

 老婆はそう言うと、黙ったままになった。

 ハリスは、しょうがなくベンチから離れると、再び前へ歩き出した。
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